第11話 中身まで高級であれ
お金持ちにも種類があるが、一般に先祖の代から富を築き続けている者と成金の二種類がある。
大抵は先祖代々の資産家は上品で成金は下品だと言われるが祖父の若い頃に知り合った人物はそうではなかった。
祖父は若い頃、何百年と続く名家と言われた家の娘と知り合った。祖父は当時、ある大企業に勤めていたのだが大企業とは名ばかりで安月給に無理な転勤で貯金が底を尽いていた。
だが、田舎に住んでいるのでどうしても車は必要だった。そこで燃費と耐久性を重視してマニュアル操作の軽自動車を購入した。
その娘の父親は高級外車を乗り回しており、病院勤めで年収は一千万円を超えていた。娘はある晩、父親に祖父が安く買った軽自動車に乗っているという事を話すと、それを馬鹿にして独身なのに情けないと一晩中、酒の肴にして笑っていたという。
しばらくすると勤め先の病院から転職するか、給料が半額でもいいならこのまま雇ってやると言われたが変わる先も無く半額のまま勤めていたのだという。
成功者やそれに近い人間が「俺は金持ちだからお前らとは違う」という事を言い出すのは崩壊の序章であり、膝から崩れ落ちる姿を見たい人間の目に留まりやすくなるのは昔からよくある話だ。
人の不幸は蜜の味とはよく言ったものだが、そう思うのなら舐めてみるといい。腹どころか身も心も壊れる。
―― 仮面舞踏会の会場 ――
夏喜と杏はVR空間での政治家と資産家のパーティーが行われているという会場に潜入した。
先日、研究所に車両爆弾を送り込んだ活動家のパトロンだという他国の政府関係者が来ている可能性があるので調べる必要があるからだ。
今回は二人とも目立たないように無難なアバターを使用している。他の人間も全て無難なデザインのアバターを使用している。
そもそも、アバターを使用しているのだから仮面は必要無いのだが今の世は金持ちや権力者というのはそれだけで命を狙われる時代となった。
貧富の差の拡大は止まらず僅かな金持ちと貧しい民衆という極端な人口構成になっている。この国ではもう高級車に乗っているというだけで殺意と嫉妬を向けられるようになった。
そういうわけなので、立場のある人間というのはなんでも隠したがるようになり皮肉な事にVR技術の進歩がそれを助けているのである。
「ねえ、あそこにいる夫婦らしき二人だけど怪しくない?」
「うん。画像がチラチラしてる。接続が不安定なんだと思うよ」
ネットの回線技術はかなり進歩し、今は世界のどこからでも繋がればかなりの速度が出るようになった。
なので、アバターが不安定になるという事はまずないのだが夏喜と杏のように映像の異常を常に検出するソフトを使用していれば後ろめたい事をしている輩もある程度は見抜けてしまう。
あの夫婦のようにちらつきとして表示されると言う事はどこから接続しているか分からないようにするためにいくつものサーバーを経由して接続されているので不安定であるという事になる。
早速、怪しいのを見つけたので本部と連絡を取る。
「見えてる? 怪しい二人を見つけたよ」
『ああ。見えてる。どうみてもおかしい。もう少し近づけるか。データが取れない』
「やってみるよ」
『上手くやれよ』
そういうと夏喜は夫婦に近づいた。向こうは警戒している様子はない。このまま近づいてみることにする。
すると向こうからも何人かの客が近づいて来た。
「何人か近づいて来たけど、このままで大丈夫?」
『あ~……いや、大丈夫じゃない。怪しい信号が出ている。すぐ離れろ』
離れるように言われた二人は怪しまれないように反対側の壁に向かった。
「どうしたの?」
『さっき近づいて来たヤツらだが、どうも他の国からアクセスしてる。今、ログを見ただけでも……さっきいたヤツら全員かよ』
「全員なの? どうする? 私たち二人で一人ずつ近づいてみようか?」
『ああ。やってくれ』
二人は慎重に先ほどいた怪しい人物に近づき、データを取っていった。一人につき最低でも二十秒は掛かってしまうがこれ以上、勢いづかれても困った事になるので仕方ない。
そして最も難しいのがやはりあの夫婦であった。中々、隙を見せないのでもしかしたら警戒して行動しているのかもしれない。
常に見張っていても怪しまれるので一旦、離れて様子を見る事にしようと思ったその時、一般客と話し出したので近づくチャンスが出来た。
「杏、今しかないと思う。行こう」
夏喜と杏は慎重に二人に近づいたが、急に夫婦が一般客に怒鳴りだした。すると他の客と先ほど集まっていた怪しい何人かの人物も集まってきた。
「ああ……離れよう」
仕方なく二人はその場を離れる事にした。怒鳴りだした夫婦はそのまま暴れだし、不機嫌な様子でログアウトしていった。
『やられたな。多分、感付いていたんだろう』
「でも上手いよね。あそこまで計算していたなんて」
『ああ……本当はただの活動家じゃないんだろうな。ヤツらとのこれ以上の接触は危険だ。一旦、ここらで終わろう』
二人は何とも言えない気分でログアウトした。




