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混沌戦士サソリちゃん -説教されるの大嫌い-  作者: ハレルヤ/TOKYO SICKS


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Chapter 35.9 『状狂列車 ―GOTTA BURN ―』





列車はまだ、夜と、昼の、その境界線を、走っていた。

窓の外では、現実の街が、インクのように流れ、その代わりに、一瞬だけ、本物の星が、光を放つ。









電線が、線香花火のように、儚く燃えては消え、

この世界の空気が、ゆっくりと、どこまでも透明な“銀河”へと、変わっていく。






車内の、白い蛍光灯が、再び、虹色に滲み、

天井に、小さな、小さな文字が、浮かび上がる。










【君の行き先は、まだ決まっていない。

でも、次の駅は、「春の祭典」です。】











そのアナウンスの声は、どこか、甘ったるくて優しかった。

まるで、宇宙の果てで星を舐めている少女が、耳元で退屈そうにASMRを囁いているかのような、底知れぬ狂気を孕んだ声。









「……きっと、銀河鉄道なんて、ロマンチックなもんじゃない」








美鈴は、窓ガラスに映る虹色の星屑を睨みつけながら、短く吐き捨てた。









「ただの、巨大な『ゴミトラッシュ』への転送ルートだろ」











美鈴が、そう呟くと、

車窓の外で、流れていた星々が、ゆっくりと、その形を変え、

一つの、燃え盛る、人の影を、描き出した。










それは、先ほど、トンネルの向こうに見た、広告塔に映し出されていた“炎の女”。

風と、光でできた、その輪郭。

そして、その目の奥で、かつて芽衣子が宿していたものとは、全く違う、禍々しい紅の炎。











ヤナール。







挿絵(By みてみん)










その声は、もはや、耳からではなく、直接、頭の中に、届いた。









――動け。



風の娘。





あの村の、古い鍵を、開けてしまったのは、おまえだろう。









車輪が、ひときわ、強く、鳴る。











GOTTA TURN. GOT TORN.









美鈴は、静かに、席を立った。










「……わかったよ」






窓の外では、

銀河と、都市が、完全に、重なり合い、

次なる物語の、“春の祭典”の、始まりを告げる、荘厳な音楽が、鳴り始めていた。








列車が、ゆっくりと、減速を始めた。

窓の外の光景は、もはや、私たちが知っている“都市”ではなかった。

風の柱が、摩天楼の形を取り、

広告塔の光が、本物の炎のように、空へと、ゆらめいている。










アナウンスが、流れた。









「まもなく、春の祭典駅に、到着します」








その声の、途中で、電車が、一瞬だけ、完全に、止まった。

時間、そのものが、凍りついたかのように。








車内の、白い蛍光灯が、ゆっくりと、血のような、赤に染まっていく。

座席の、青い布地が、音もなく、焦げ始め、

車体の、冷たいはずの金属が、まるで、生き物のように、その呼吸を、始めた。







美鈴の瞳に、外の、巨大な広告塔が、映る。

そこに、立っている女――ヤナール。







彼女は、炎の衣を纏い、

その、赤く染まった髪は、まるで、煙のように、どこまでも、空へと伸びている。

そして、その顔は、もはや、人間の顔ではない。無数の、光の粒で構成され、

その、一粒、一粒が、かつて、この街の、誰かが投稿し、そして、忘れ去っていった、無数の“ストーリー”だった。










――聞こえる?



風の娘、美鈴。

おまえの、あの一撃が、眠っていた、わたしを、目覚めさせた。

おまえの“錠裂”が、

この、退屈な街の、全ての鍵を、全て、開け放ってしまったんだよ。











ヤナールの声は、炎ではなかった。それは、電波だった。

広告塔の中から、けたたましく流れ続けるBGMが、そのまま、シームレスに、彼女の声へと、変わっていく。








――動きなさい。




踊るように、そして、戦うように。

風は、もう、おまえの敵じゃない。

わたしたちは、これから始まる、同じ“春”の、側にいるのだから。








列車が、再び、動き出す。






ガタン――。







その音は、もはや「GOTTA TURN」を、遥かに、越えて。

「GOTTA BURN」――“燃やさなければならない”と、確かに、鳴った。








炎の女が、そっと、手を差し出す。

その、データでできた指先が、車窓を、いとも容易く、すり抜けて、美鈴の、その冷たい頬を、優しく、撫でた。


熱くも、冷たくもない。

まるで、スクリーン越しの、ありえないはずの、触覚。










挿絵(By みてみん)









美鈴は、完全に、立ち上がった。

頭上の照明が、虹色に、激しく、脈打ち、

スマホの、通知音の幻影が、彼女の脳内で、連続で、鳴り響く。

その画面には、










新しいタグが、作成されました:#SpringIsOnFire











ヤナールの、あの、人間離れした笑い声が、車内全体に、そして、美鈴の魂に、直接、広がる。











――ようこそ、風の巫女。

おまえの、希望に満ちた“上京”は、

この街の、狂気の始まり――“状狂”に、なるんだ。








列車のドアが、開いた。

灼熱の、風が、流れ込んでくる。

外の街は、もはや、街ではない。

炎と、光と、音楽が支配する、巨大な、“ステージ”だった。






美鈴は、その、狂った世界の空気を、深く、深く、吸い込んだ。

そして、













「……しょうがねえよな」













たった一言、そう呟いて、

彼女は、その、新しい世界へと、迷いなく、その一歩を、踏み出した。








風が、渦を巻く、ステージの中央。

美鈴は、ただ、静かに、立ち尽くしていた。

あれほど、けたたましく鳴り響いていた、都市の音が、完全に、止んでいる。

代わりに、どこか遠くの、あの、故郷の畑の、麦穂が擦れ合う、懐かしいざわめきが、聞こえた、気がした。










ヤナールの声が、揺らめく炎の、その向こう側から、響いてくる。








――なぜ、動く? 風の娘。

誰のために、おまえは、ここに立つ?












美鈴は、その、神のような問いかけに、ほんの少しだけ、笑った。

その、口角の、わずかな動きは、あの、故郷の、乾いた土と、同じ匂いがした。












「……誰の、ためでもねえよ」











その一言で、ヤナールの炎が、大きく、揺れた。







「ただ、生まれた土地が、腐ってるって、思ったからだ。

風が、吹かねえなら、私が、吹かすしか、ねえだろ。

固く、閉じられた、古い鍵は、叩き割れば、いい。

――私がやってんのは、昔から、ただ、それだけだよ」








美鈴の声は、どこまでも、静かだった。

けれど、その、あまりにも純粋な静けさが、ヤナールの、その狂った炎の形を、変えていく。

彼女の、煙のようだった髪が、ひときわ、大きく、揺れた。








「昔、ばあちゃんが、言ってたんだ。

“変な畑ほど、風が、よう吹く”ってな。

……あの言葉は、嘘じゃなかった。

風は、ずっと、外から吹くんじゃなくて、私の中に、いたんだ」










彼女の足元で、風紋が、走る。

アスファルトの上に、あの、故郷の、麦の穂の影が、現れる。

まるで、この、死んだはずのコンクリートの地面が、彼女の言葉に呼応して、その呼吸を、始めたかのようだった。









「私は……吹く。

そして、裂く。

それが、私の、やることだ。

この、風が、止まらねえ限り、

私は、この、止まっちまった街を、動かし続ける」










炎の女――ヤナールは、その言葉を聞いて、静かに、そして、美しく、微笑んだ。









――それが、おまえの“使命”、なのか








美鈴は、その、大げさな言葉に、呆れたように、首を振った。







「違う。

“使命”なんて、重苦しい言葉は、あんま好きじゃねえ。

これは、ただの、私の、どうしようもない“へき”だよ」







その瞬間、風が、爆ぜた。

ヤナールの炎と、美鈴の風が、初めて、完全に、絡み合い、

この、沈黙していた都市全体が、再び、その、狂った音楽を、鳴らし始める。








GOTTA TURN. GOT TORN. GOTTA BURN.







ヤナールが、心の底から、楽しそうに、笑う。









――それで、いい。

ただの“へき”が、世界を変えるのなら、それは、もう、立派な“神話”だよ






風と、炎が、激しく交錯する、都市の中心。

美鈴は、一瞬だけ、立ち止まった。

街の、あらゆるざわめきの、その奥から、どこか懐かしい、学校のチャイムのような音が、聞こえた、気がした。












――制服。







自分の、その、青いブレザーと風を孕んだ髪の色が、この街の、周りにいる、誰のものとも、違う。





周りの連中が、透過度の高い人工的なデジタルの光(RGB)で構成されているのに対し、私の纏うこの青は、あの村の空から直接切り出してきた、重くて純度の高い「物理的な風」の塊だ。



最初から、この停滞した世界の薄っぺらな解像度では、私の青をレンダリングすることなど不可能だったのだ。










道端の、巨大な広告スクリーンに、自分の姿が、映る。 そこでは、美鈴が、“謎の転校生”として、紹介されていた。





そして、その名前の下には、見慣れない、しかし、どこか見覚えのある、ハッシュタグ。






#転校生ではありません #Repost_Entity






「……転校? どこの古臭いテンプレだよ」








美鈴は、スクリーンの中で勝手に踊っている自分の名前を見て、鼻で笑った。







「いや、“リポスト”だよ。

どこか遠くの、誰かの“物語”が、私を、ここに、シェアしただけだ」









その声が、風に溶けた、瞬間。

街の、全てのノイズが、一斉に、それに、反応した。

電線が、震え、ビルの壁が、波打ち、

そして、遠くの、あの、竜胆学園の校舎が、光の中に、ぼんやりと、浮かび上がる。










――おまえは、本来、この物語に、存在してはいけないイレギュラー。

だからこそ、この、停滞した街を、更新する、資格がある








ヤナールの声が、頭の奥で、直接、響いた。

美鈴は、空を見上げた。








そこにあったのは、もはや、月でも、太陽でもない。

巨大な、アプリのロゴのような、虹色の南京錠が、ゆっくりと、その錠を、開いていく、ところだった。












「……だったら、更新してやるよ。

この世界、バグったままじゃ、見てらんねえからな」








挿絵(By みてみん)








風が、走る。

無数の、リポスト記号が、空に、舞い散り、

その軌跡が、巨大な、虹の輪を、描く。







美鈴の、身体は、

もう、完全に、この世界に“投稿”されてしまった。

現実という名の、終わらない、タイムラインの上に。






(to be continued…)








挿絵(By みてみん)





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