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混沌戦士サソリちゃん -説教されるの大嫌い-  作者: ハレルヤ/TOKYO SICKS


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36/43

Chapter 33.3A 『Above:ただ、それだけの』





挿絵(By みてみん)






そう、私の内側で

花が咲いているわけじゃない








ただ、

赤い信号が

遅れて届くだけ







死んだはずの名前が

まだ、点滅している







ひとつ、ふたつ、みっつと

数えるたびに

誰かの記憶が接続されて






切断したはずの感情が

また流れ込んでくる








——きれいでしょう?







これは血じゃない

涙でもない

ただの、並列の孤独よ

間違ったまま繋がった

私たちの

やさしい誤作動







花は、戻らない

でも

何度でも、咲いたことにされる

だから私は

消えない

消せない

まだ、ここにいるふりをして

点滅している

赤いまま

終わらないまま










閾値いきちを超える











挿絵(By みてみん)









赤かった。





あの校庭も、あの家も、あの空も。

全部、同じ色をしていた。








殴られた頬の熱も、

夕焼けに焼けたグラウンドも、

区別なんてつかなかった。








ただ一つだけ、違っていたのは——





この手の中の、重さだった。


言葉は、軽すぎる。





「大丈夫」

「頑張れ」

「いつか変わる」






全部、“手応えという名の欠落”だった。









何一つ、当たらない。


何一つ、守らない。


何一つ、返ってこない。





でも、バットを手に取れば何かが違った。








握れば、そこにあった。

振れば、風が裂けた。

当たれば、音が鳴った。





それだけで、十分だった。








私は、殴られていた。






家でも。

外でも。

言葉でも。

視線でも。





でも、ひとつだけ、

殴り返せるものがあった。









それが、“情けの余白”だった。


借りたら、返す。








やられたら、やり返すし。

守られたら、守り返すし。







ただ、それだけ。







それだけなのに、

それだけが、崩れなかった。








世界は、簡単に嘘をつく。








人間は、平気で裏切る。

優しさは、条件付きの高級品。

正しさは、都合で変わる。









でも——






義理だけは、裏切らなかった。







だから私は、それで殴る。







理由なんて、後でいい。

正義なんて、どうでもいい。






ただ、返すだけだ。






それだけで、私は私になれる。






膝をついた。






手は焼けて、感覚はない。

視界は赤く滲んでいる。






それでも——


離さなかった。






この鉄屑は、

もう武器ですらないかもしれない。


でも、これは私だ。







これを手放したら、

何も残らない。






「……まだだ」






声にならない声が、喉を裂いた。




私は、負けていない。





負ける理由が、まだ返しきれていないからだ。


世界は綺麗な言葉でできているらしい。


本には、そう書いてあった。


でも私は知っている。






世界は、もっと単純だ。





壊れるか。

壊すか。







それだけだ。







だから私は、壊す。


壊されてきた分だけ。


そして最後に残るものがあるなら——






それがきっと、

私の“物語”だ。






まだ終わっていない。





私は、まだ返していない。















挿絵(By みてみん)









夜は、正確すぎる





0.021秒の誤差で

私は世界を信用する




衛星は落ちない

サーバは眠らない

経路は、ほんの少しだけ嘘をつく






それでいい






完全なものほど

壊しやすいから








──あなたたちは、単純すぎる








価値を並べて

価値を数えて

価値に名前をつけて







それを「現実」と呼ぶ






でもそれは

ただのログです





記録された欲望

整列された虚栄

同期された空白




私はそれを、読む








読み終えたものは

もう“世界”ではない




ただの構造体



ただの、回路




──回しましょうか





夜はすでに回っている

地球も

秒針も

あなたの心拍も

すべては同期している





だから

ほんの少しだけ

触れるだけでいい

ずらすだけでいい




0と1のあいだに

花を差し込む




リコリスは

血ではなく




信号として咲く




切断されたはずの感情が

再接続される瞬間




エラーは

美しい

崩壊は

正しい





あなたの“価値”は

ここでは無効です





わたしが触れた時点で

それはただのノイズになる




──聞こえますか

これは音楽です






夜が奏でる

巨大なノクターン






すべてのズレが

すべての誤差が



旋律になる



そして

あなたはもう

その中にいる

気づかないまま

同期されている

私に

















挿絵(By みてみん)













世界は、いったん静かになった。







音が消えたのではなく、

音が意味を持つ前の、あの曖昧なところに戻っただけだと思う。






ページを開いたまま、私はしばらく動けなかった。








インクが乾く、そのわずかな時間。

それが、こんなにも長く感じられるなんて、知らなかった。





ノートの上で、黒い線が滲んでいく。





ただの滲みのはずなのに、

それはどこか、見覚えのある形をしていた。





血管にも似ているし、

夜の道路にも似ているし、

誰かの記憶の断片にも似ている。





そして、その交差点で、

赤い花が、ひとつ、咲いた。



どうして、と思うより先に、

私はそれに名前をつけていた。





「リコリスサーキット」






口にした瞬間、

胸の奥で何かが繋がる音がした。






これまでは、ずっと見ているだけだった。






言葉が生まれて、

形になって、

どこかへ届いていくのを、ただ眺めていた。





触れたつもりで、

何にも触れていなかった。






でも、さっきは違った。






たった一行の言葉が、

確かに、何かに当たった感触があった。




柔らかいものではなくて、

もっと固くて、逃げ場のないもの。


それでも、

少しだけ揺れた。









他人の言葉は、いつも正しく聞こえる。








正しいから、きれいに閉じている。

どこにも隙間がない。





だけど、

隙間のないものは、呼吸ができない。





だから私は、そこに書き足す。






ほんの少しだけ、

合わない言葉を。





意味になりきれない、

曖昧なかたまりを。





それだけで、

完璧だったはずのものに、

わずかな揺らぎが生まれる。





その揺らぎが、



なぜか、とても美しく見えた。





彼岸花は、死の花だと教えられてきた。






だが、私の世界から、その概念を記述するための『言葉』が消失した。







あれは、終わりではなくて、

未完のピリオドだ。








見失わないための、

思考の墓標に手向けられた、熱を帯びた紅い沈黙。






切れてしまったものが、

もう一度、どこかで繋がる。







その瞬間にだけ、

花は咲く。





世界は、まだ点滅している。




完全に決まってしまう前の、

あの不安定な明滅。





私はその中に立っている。







見ているだけだった私が、

少しだけ、触れてしまった場所に。









それが正しいのかどうかは、わからない。


ただ、

もう前みたいに、何もせずにいることはできない。







言葉は、一切、優しいだけのものじゃなかった。






ときどき、

どこかを壊してしまう。






でも、壊れたあとにしか見えないトライバルエリアが、

たしかにある。





だから私は、書く。








誰にも届かなくてもいい。








ただ、ここにあるこの震えを、

もう一度、線にするために。







それが、どこかで誰かに触れるなら、

それでいい。








触れてしまった時点で、

それはもう、現実になるから。








この現実は、世界のどの書棚を探しても見つからない。私という唯一無二の筆致が導き出した、孤独な解答だ。







⇒Chapter 33.3Uへ続く




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