五十三万 虚無の頭を持つ双竜騎士
「「ヴヴヴアルルㇽアアアアアアアアア!」」
「〈水放〉!」
再び竜からブレスが放たれるが、それも水で防ぎきる。
「〈ハルノクスト・アロー〉」
「〈ブレストチェイン〉」
矢や魔法が飛ぶが、加減速、回転を巧みに利用し、アクロバティックに回避された。
さすがに数百人の人間の集団に降りて来る気は無いのか、天空から遠距離攻撃を繰り返す。
「……ジリ貧だな」
「私でも堕とせるか――」
ウィズマでも落とせるか分からないらしい。
そうなると、それが可能なのは――
「任せていいか? ヴァル」
「ああ。けど、こっちの安全まで保障できるかは分からん。……元からこれは電撃作戦だ、時間はかけられない。お前らは先に行け」
「……分かった。少し離れたところに、食料を隠しておく。あと、邪魔が入らないように、寄って来る魔物を倒すヤツも残そうか?」
「頼む。ああ、金も置いてってくれよ?」
「当然」
話し合いが終わり、馬車から飛び降りる。
「奴は俺が倒す」
「ヒヒーン!」
幾つかの馬車が切り離され、十数人が残り、その他は魔王城へと進む。
デュラゴンは、魔王城に向かう方を追おうとし――
「さて、やるか」
ヴァルは、脚に十万使い……飛んだ。
空気を裂き、雲を突き抜け、次の瞬間には竜の上に到達していた。
「ラァ!」
ガァン!
竜の頭に狙いを合わせ、踵落としを繰り出すが、竜騎士の槍に受け止められる。
しかし、ヴァルはさらにパワーを加え、竜を無理やり地上に叩き落した。
轟音が鳴り響き、クレーターが出現する。
「……ここまでの使い手がいるとは」
「そりゃどーも」
「「ヴァア!」」
竜が体勢を整えつつ、その二つの口から火弾を放つ。
まだ滞空していて、身動きが取れないヴァルは、金を使いながらカリバーンを振りかぶり、〈火断〉でそれを断った。
しかし、何か嫌な予感がしたヴァルは身をよじり……その右腕が飛ぶ。
「っ痛!」
「〈風怨槍〉」
騎士の槍は、鋭い風を纏っていた。
直接やられたヴァルは、自分の右手を断ったのが風だと気付く。
すぐにポーチの金貨を使って、右手をくっ付けようとしたヴァルに向かって、竜が火の珠を向けた。
「「ヴァ」」
「全く、調子に乗るからだよ」
ドガァン!
ロケットランチャーの爆発弾頭が、竜の横顔で破裂した。
硬質な竜の鱗には阻まれ、大した傷にはならなかったが、攻撃を中断させるには十分。
「ヴァア!」
爆発を食らわなかった方の頭が、リサの方に向きを変え、火の珠を放つ。
しかし、その火は金属の盾が止めた。
「キル!」
「アイアンマウス……使役されているの、か!」
「ッチ」
呟きながら、騎士は槍を背後に回し、ナートのナイフを止めた。
そのまま、二閃三閃と繰り返すが、奴は振り返りもせずに全て止め切る。
「〈嵐条〉」
奴の周囲に風が発生し、彼女を襲った。
多重に重なった回避しにくいものだったが、それは霊体化で躱しきる。
「……首が無いのが、どうにもやりにくいですね」
「そうだな。というか、アレに心臓とかもあるのか?」
「どこかに核はあると思いますが……。それより、現在の所持金は?」
「たくさん」
「真面目に答えなさい」
「二百万くらい。馬車にはさらに一千万くらいある」
真面目に一千万斬を撃つのも一つの手段だが、奴には再生能力があった。
簡単に多くを失うのは悪手だ。
「とりあえず、ジックリ削ってく。再生の法則性が分かったら、俺が一千万斬を撃つ」
「そうですね」
「問題は……その削りが難しいことだな」
エルシオンは、少し火力不足気味なパーティだ。
ヴァルとナートには継続火力が無く、ヘッグは攻撃自体が苦手だ。
いつもはそれを、二人の瞬間火力とリサの銃で誤魔化すのだが、今回はリサの銃弾がさほど有効でもない。
再び飛び上がった竜に剣を構えながら、
「……俺がなんとかやっていく。サポートを頼む」
「仕方ないですね」
フッとナートが姿を消して離れていく。
それを送ってから、
「「ヴァアアアアアアア!」」
「〈火断〉」
迫り来る炎を切り裂いた。
その隙に風の刃が襲い掛かるが、『二度も同じ手は食わない』と飛び退いてそれを躱す。
「これ以上遠距離で撃ち合っていても無駄か。ならば!」
「「ヴルアア!」」
「来るか」
竜が雄たけびを上げ、ヴァルに接近する。
奴はその勢いのまま、その強靭な腕を振りかぶり、思い切り振り下ろした。
それに対して、ヴァルはパワーとスピードなどを十万で強化し、それを迎え撃つ。
「ヴル!」
「〈黄金の剣〉!」
ガン!
カリバーンと竜の爪が衝突し、ギリギリと音を鳴らす。
さらに、竜はその双頭を懐のヴァルに向け、口に火を灯した。
「ヴァアアアア!」
「私が左をやろう。ヘッグは右を」
「キル!」
ダァン!
リサの対物ライフルがドラゴンの左頭をふっ飛ばし、右の頭にヘッグの操る金属が絡みつく。
「ヴッ!」
「ナイス。〈旋斬〉」
さらに、動けなくなった右の頭を、ヴァルが回転斬りで切り落とした。
左の頭の再生も間に合っておらず、両方の頭が無くなった状態。
しかし、竜の傷口は疼き始め、また新しい頭が生まれる。
「まだ死なないか」
頭が複数ある魔物は、基本的にその全てを斃したら死滅する。
このパターンは、どこかに核があるか……他にも再生点があるか。
「騎士の方も一緒に殺るべきか」
「できるならな。〈疾風・穿雅〉」
ギュン!
疾風のような突きが放たれ、胸の中央に大きな穴が開いた。
激痛がヴァルを襲うが、歯を食いしばりながら、それを再生させる。
だが、それをするのに四十万もかかってしまった。早くも、ヴァルの中で金の価値が下落している。
まだまだ予備はあるが……最悪の場合、金に価値が無いという認識になりかねない。
「さっさと終わらせる〈飛閃〉!」
「ヴヴアッ!」
十万使った斬撃だったが、竜に飛翔され、足先を切り落とすだけになってしまった。
そのまま、空中に離脱されてしまう。
「チッ」
「戦い方が雑になってますよ」
「……ああ、気を付ける」
「それより、仕掛けは?」
「終わってます」
リサは、ナートに小さなバッチの様な物を渡していた。
それを、竜の身体のどこかに付けるようにと。
どんな効果があるかは分からないが、ロクでもないことは分かる。
彼女はニヤリと悪い笑みを浮かべ、背中のリュックから一丁のアサルトライフルを取り出した。
それを、ヴァルに投げ渡す。
「君用に調整してある。奴をあそこから動かないようにしてくれ」
「了解」
ダ ダ ダ ダ ダ ダ ダ!
数万でアサルトライフルを強化し、竜に向けて乱射する。
鱗を貫くほどの威力は出ないが、その衝撃に竜は身を固めた。
銃の機関に大きな負担を与えており、長くはもたないだろうが、一時的な時間稼ぎにはなる。
ヴァルはその大きな反動に耐えながら、
「で、これからどうするんだ!?」
「こうするのさ」
パリン
彼女は明らかに危険そうなボタンを取り出し、防護用のガラスを割ってそれを押した。
リサのことなので、すぐに大爆発でも起きるのかと思ったが、何も起こらない。
「……あのー、もう少しで弾が切れるのですが」
「ほい」
「あ、はい」
新しく渡されたアサルトライフルを改めて強化し、竜に向けて撃ち続ける。
正直、そのまま倒した方が楽なのではと思ったが、リサは『絶対に近づかない様に』と念を押した。
だが、二丁目を撃ち終わる頃には、地平線から何かが見えてきた。
ゴゴゴゴゴゴ!
後部から煙を上げて、飛来する爆薬の塊。
異世界の最強最悪兵器。
「北と言えばミサイルだよ」
「何か分からないけど怒られそうだからやめろ!」




