表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
51/56

五十一万 労働基準法? 五十一万五千レッツゴー

 その翌日。

 ヴァルはリサに……エルシオン商会のとある店に呼び出されていた。


「さて、これから君には私の金銭感覚矯正プログラムを受けてもらう」

「ああ。よろしく頼む」


 従順なヴァルの様子に、嬉しそうに頷いてから、彼女はプログラムの概要を話し始めた。


「言っておくが、一ヶ月で大富豪を大貧民にするのだ。かなりの負担を強いることは宣告しておく。……止めるなら今のうちだぞ」

「いや、やる」

「即答か、いい意気だ。では、プログラムの説明を始めよう」


 彼女は、遠い昔を見つめるような仕草をしてから、一言。


「金銭感覚を下げる一番の方法は、低賃金の労働だ」

「……なるほど」


 これから先の、地獄を垣間見た気がした。



ピト ピト


「そこ、少しズレたぞ!」

「は、はい」


 ヴァルが工場でする仕事は……『ひたすらケーキの上にイチゴを置き続ける仕事』。

 次々に運ばれてくるケーキに、一つづつ、手作業で、ちょっとズレても誰も気が付かないけれど、大きくずらしてはいけないという、最悪の単純作業。


「クッソ……このためだけにケーキの特売なんてやりやがって」

「喋ってないで手を動かす!」

「はい……」


 ケーキ屋の店員にどやされながら、一つ、また一つとイチゴを乗せていく。

 リサから厳しくするように言われているのか、その手腕には容赦が無い。


 出来上がったケーキを口に入れながら、リサが口を挟む。


「ちなみに、時給は百ランだ。税金そ入れたら、手取りはもっと少ない」

「……最低賃金って知ってます?」

「君には一ヶ月、稼いだ金だけで生活してもらう。一日十数時間働いて、それでも不味い飯しか出て来ない……どうだい? 金銭感覚が落ちる気配がしないか?」

「……よーしがんばろー」

「じゃあ、私は決戦に向けて、新兵器を開発して来るから。頑張りたまえよ」


 そう言って彼女は姿を消し、ヴァルはイチゴを乗せ続けた。



 一日目の労働時間:十八時間。

 食べたもの:もやしの醤油炒め、パンの耳焼き、雑草炒め。


 肉体的な辛さは少ないが、永遠に単純作業を続けるというのは、精神的が摩耗する。

 もちろん金回復は使えず、毎日倒れるように眠る日々。

 この地獄の様な生活を約一月間続けたヴァルは……仕上がった。



 一か月後。決戦の日。

 貸し与えられた広場には、腕利きの兵や冒険者などが集まっていた。

 総勢三百名ほど。決戦を挑むには少ないが、少数精鋭の電撃作戦にするつもりらしい。

 他にも、一日二日で終わる作戦では無いので、三百人分の食料を運ぶ速馬車や、キャンプ用具まで用意されており、至れり尽くせりといった感じだ。


 そして、その一団にエルシオンも合流する。


「決戦感出てきたね」

「何だよそれ」


 いつもと変わらないナートに、少し痩せた気がするヴァルとヘッグ。

 そして……以前にも増して、リュックが大きく膨らんだリサ。


「そんなの持ち歩けるのか?」

「馬車に運んでもらうよ。君の補充の金貨も、その馬車にある。……それ以上のものは、絶対に使うんじゃないよ」

「……できる限りな」


 確約はしない。

 二人の間に気まずい空気が流れるも、一人の男がそれを切り裂いた。


 一団の先頭に立つ者、【勇者】ヒリック。


 勇気をもって。


「まずは、感謝しよう。命を懸けてここに集ってくれた勇者たちに。……覚悟は決まっているか!?」

『おお!』


 その気迫と闘志を垣間見たヒリックは、不敵に笑みを浮かべ、


「ならば、俺が言うことはあと一つだけだ。勝つぞ!」

『おおおお!』


 その声は、ノスバット全域に響いたという。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ