五十一万 労働基準法? 五十一万五千レッツゴー
その翌日。
ヴァルはリサに……エルシオン商会のとある店に呼び出されていた。
「さて、これから君には私の金銭感覚矯正プログラムを受けてもらう」
「ああ。よろしく頼む」
従順なヴァルの様子に、嬉しそうに頷いてから、彼女はプログラムの概要を話し始めた。
「言っておくが、一ヶ月で大富豪を大貧民にするのだ。かなりの負担を強いることは宣告しておく。……止めるなら今のうちだぞ」
「いや、やる」
「即答か、いい意気だ。では、プログラムの説明を始めよう」
彼女は、遠い昔を見つめるような仕草をしてから、一言。
「金銭感覚を下げる一番の方法は、低賃金の労働だ」
「……なるほど」
これから先の、地獄を垣間見た気がした。
ピト ピト
「そこ、少しズレたぞ!」
「は、はい」
ヴァルが工場でする仕事は……『ひたすらケーキの上にイチゴを置き続ける仕事』。
次々に運ばれてくるケーキに、一つづつ、手作業で、ちょっとズレても誰も気が付かないけれど、大きくずらしてはいけないという、最悪の単純作業。
「クッソ……このためだけにケーキの特売なんてやりやがって」
「喋ってないで手を動かす!」
「はい……」
ケーキ屋の店員にどやされながら、一つ、また一つとイチゴを乗せていく。
リサから厳しくするように言われているのか、その手腕には容赦が無い。
出来上がったケーキを口に入れながら、リサが口を挟む。
「ちなみに、時給は百ランだ。税金そ入れたら、手取りはもっと少ない」
「……最低賃金って知ってます?」
「君には一ヶ月、稼いだ金だけで生活してもらう。一日十数時間働いて、それでも不味い飯しか出て来ない……どうだい? 金銭感覚が落ちる気配がしないか?」
「……よーしがんばろー」
「じゃあ、私は決戦に向けて、新兵器を開発して来るから。頑張りたまえよ」
そう言って彼女は姿を消し、ヴァルはイチゴを乗せ続けた。
一日目の労働時間:十八時間。
食べたもの:もやしの醤油炒め、パンの耳焼き、雑草炒め。
肉体的な辛さは少ないが、永遠に単純作業を続けるというのは、精神的が摩耗する。
もちろん金回復は使えず、毎日倒れるように眠る日々。
この地獄の様な生活を約一月間続けたヴァルは……仕上がった。
一か月後。決戦の日。
貸し与えられた広場には、腕利きの兵や冒険者などが集まっていた。
総勢三百名ほど。決戦を挑むには少ないが、少数精鋭の電撃作戦にするつもりらしい。
他にも、一日二日で終わる作戦では無いので、三百人分の食料を運ぶ速馬車や、キャンプ用具まで用意されており、至れり尽くせりといった感じだ。
そして、その一団にエルシオンも合流する。
「決戦感出てきたね」
「何だよそれ」
いつもと変わらないナートに、少し痩せた気がするヴァルとヘッグ。
そして……以前にも増して、リュックが大きく膨らんだリサ。
「そんなの持ち歩けるのか?」
「馬車に運んでもらうよ。君の補充の金貨も、その馬車にある。……それ以上のものは、絶対に使うんじゃないよ」
「……できる限りな」
確約はしない。
二人の間に気まずい空気が流れるも、一人の男がそれを切り裂いた。
一団の先頭に立つ者、【勇者】ヒリック。
勇気をもって。
「まずは、感謝しよう。命を懸けてここに集ってくれた勇者たちに。……覚悟は決まっているか!?」
『おお!』
その気迫と闘志を垣間見たヒリックは、不敵に笑みを浮かべ、
「ならば、俺が言うことはあと一つだけだ。勝つぞ!」
『おおおお!』
その声は、ノスバット全域に響いたという。




