四十八万 かんこー
魔族領の中央。
魔王城、玉座。
「……フィクロストに、DEATH・WALKERまでやられたか」
「DEATH・WALKERは、まだ復活できたハズですが……」
「聖女に完全に消滅させられてしまったらしい」
まだ成長の余地があっただけに、DEATH・WALKERの死滅は悔やまれる。
あと三回ほど回帰できていたら、四天王筆頭にもなれたかもしれないのに。
玉座に座る魔王は、溜息をつき、現状を冷静に分析する。
「少し前までは互角だったのに、一気に劣勢となったな」
「……ですが、まだ私が残っています」
玉座の前に、一人ひれ伏していた騎士が立ち上がり、マントを翻して窓の一つを開けた。
「この盤面をひっくり返すには、少し賭けに出る必要があるでしょう。私が出ます」
「任せたぞ……我が騎士よ」
「吉報をお待ち下さい」
そう言って騎士は窓から飛び降り……一頭のドラゴンが、魔王領の空を駆けていった。
◇
一方、人類領。
「もう四天王を三体も滅ぼしたのか」
「はい。歴代と比べても、かなりハイペース……というか、記録が残っている中だと、最速です」
「なるほど」
十七で四天王を三体仕留めるとは。
実際は、その内の一体に勇者はほぼ絡んでいないのだが、情報の伝達を繰り返す過程で、その情報は消えてしまった。
こうなると――
「……速攻を仕掛けた方が良いかと」
「であるな」
魔王は、勇者と同時に誕生し、その実力は二十歳で最大となる。
勇者も、魔物を倒すことでその実力は増すが、その成長速度は魔王と違って変速的。
つまり、まだ勇者も魔王も成長途中だが、現在は勇者の方が強い可能性が高い。
国王は、顔を歪めて悩み、思考を繰り返してから……結論を出した。
「世界中の実力者をノスバットに集めろ……決戦だ」
「一月ほどかかりますが、よろしいでしょうか?」
「うむ……戦争など、とっとと終わらせてしまおうではないか」
◇
また、ある一方。
ノスバット、メタトル公爵の屋敷の一室。
ヴァルはエルシオン系列の宿に泊るつもりだったが、ミナに押し切られて……こうなった。
その連れということで、エルシオンは全員屋敷に泊らせてもらっている。
用意された朝食を食べ終わってから、四人は打合せをする。
「さて、今日はどうする? まだ魔王軍の残党はいるだろうし、それを狩りに行くか?」
「いえ、今日は休みにしましょう」
「え?」
ナートの意外な提案に、ヴァルは間抜けな声がでた。
「どうして?」
「最近働き詰めだったからね。復興も大体完了した頃だし、観光といこうじゃないか」
「私、貴金属屋さんに行きたーい」
「よし行こう」
「……相変わらずヘッグには甘いですよね」
「私らが下手な策を弄す必要なんて無かったじゃないか」
リサが何か失言を発した気がしたが……無視して観光の準備をする。
「じゃあ行くか。誰か、ミナからお勧めの観光スポットとか聞いてない?」
「待ってください、その格好のまま行くのですか?」
「うん」
ヴァルの格好は、いつもの黒と白の雑着であり、腰には三代目カリバーンが刺さっている。
とても観光客の姿では無い。
全員いつもと同じ服装だと思っていたが……みんなラフな格好になっていた。
戦闘の時ですら白衣を脱がないリサも、何故か今日はベージュのケープとミニスカートという、一般的なものとなっている。
「どうだい? 似合ってるかい?」
「それでいいのかと思わなくはないけど、いいんじゃないか?」
「そ、そうか」
「ヴァルも、今日は仕事を忘れて、楽しもうじゃないですか」
ナートもガラにもないことを言う。
何か不信感を覚えつつも、ヴァルは着替えを取りに行った。
「とは言っても、俺は戦闘用の普段着しか持ってないぞ。たまに魔物の血ついてるし」
「……同じ服しか見ないと思っていたが、やはりそれしか持ってなかったか」
「……最初に行く場所が決まりましたね」
こうして、最初に行くのは服屋となった。
屋敷を出て、警備の人に挨拶してから、服屋に向かう。
いつもは、何となくエルシオン商会の系列店で買っているが、今回はノスバットの一般店に入店する。
「こんなのどうだ?」
「真っ黒じゃないですか」
ヴァルが適当に選んだ服は、ほぼ純黒のTシャツ。
もう少し整っていれば、葬式にでも出られそうなデザインだ。
「黒が好きなのですか?」
「いや……昔、誰かが金髪には黒服が映えるって言ってたから」
「一色なのがダメなんだよ。私に任せたまえ」
自信満々にそう言ったリサが持ってきたのは……ダボダボな白衣。
「いつもの白衣を俺に着せようとするな」
「でも、意外と悪くないですね」
「カッコいいよー」
「……そんなもんか?」
結局、ヴァルの服装は純黒のTシャツとデニムに、ギリギリ手が出るくらいのダボダボ白衣になった。
慣れてくると、いつものリサのイメージがあるからか、理知的に思えてきて、割と気に入ってる。
「次はどこに行く?」
「私に任せてくれたまえ。良い見世物を見つけたんだ」
「ナイス」
他に行くあても無いので、リサの誘導に従って見世物を見に行くことにした。
少し変わった四人が、復興を終えた街を往く。
「ところで、見世物って何だ? サーカスとかか?」
「今町で話題の、めちゃくちゃ面白い劇だよ」
そう言って、リサはヴァルに……仮面を渡した。
「ナニコレ」
「さっきの服屋で買ったんだ。もしかしたら、付けといたほうが良いかもしれない」
「ちょっと待てどういう意味だ!」
何だか途轍もなく嫌な気配を感じた瞬間、リサがヴァルの金を入れているポーチを奪い取った。
「おい、何するんだ!?」
「逃げられたら面倒だからね。ほら、見えてきたよ」
劇に使われる、木製の建物が見えてきた。
その看板には、今回行われる演劇の題名が書かれており――
題名『ヴァル・アスター』
「待て待て待て待て!」
「さあ、入りましょうか」
グルだったらしいナートがヴァルの腕をがっちりと捕え、面白そうな雰囲気を察したヘッグが、それを後押しする。
……ワケも意味も分からないが、何かヤバそうなことは分かる。
「おい、自分の名前が題名の演劇見るって、相当」ヤバいからな!」
「騒いではいけないよ。さあ、入ろうじゃないか」
「もうこれ一種の拷問だろ」
嫌がるヴァルの意思は無視され、劇場のとても見やすそうな席に座らせられた。
人気の劇というのは本当なのか、広い観客席が次々と埋まっていく。
気づくと、満席になっていた。
「嫌な予感しかしない」
「食わず嫌いは良くないよ。君は偏見と先入観のみで物事を判断するのかい?」
「……それっぽいこと言って誤魔化すなよぉ」
確かに、実際に見もせずに嫌悪するというのは、褒められたことではない。
不承不承ながらも、とりあえず黙って鑑賞することにした。
……それが、間違いだった。
劇は、この前の防衛戦でのヴァルの行動を演劇にしたものだった。
街に来てからの流れが、上手く二時間ほどにまとめられており……その出来には感心した。
だが、演劇となると、多少の脚色が入るのは当然。
「ミナは絶対俺が守る!」
「言ってない! 俺アレ言って無い! ……言ってないよね?」
「静かにしなさい。今いいところですから」
「もしかしたら、言っていたかもしれないよ」
「この一撃に、俺の全てを懸ける。〈シャイニングオーヴァーレイ〉!」
「少なくてもアレは言ってない! 俺はあんなスキル持ってないからな!」
「にちゃ、カッコいい」
「……ってか、その時にDEATH・WALKERを倒したの俺じゃないし」
さすがに銃を探す部分は無かったが、それでもかなりの脚色があった。
途中からナートに〈静寂〉をかけられたが、心の中ではずっと声を張り上げていて、全体的に疲れた。
「もうやだ」
「えー、面白かったよ? もう一回見よ」
「絶対やだ。とりあえず昼にでもしようぜ」
その時。
カンカンカンカン!
敵襲の鐘が鳴り響いた。
それと同時に、一つの大きな影が街に落ちる。
「ヴァアアアオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」
「さあ、街落としを始めよう」
「ッ!?」
上空を見上げると……そこにいたのは一体の巨大な双頭竜と、それに騎乗する、首無しの騎士。
最後の四天王。
首無しの竜騎士、虚頚のデュラゴン。




