四十六万 彷徨う死と絶対零度②
強化したカリバーンで、自分の左足を切り裂いた。
激痛。覚悟はできていたが、それでも痛い。
足を再生させるには、手持ちの金では足りないため、二代目カリバーンを使って足を治した。
余った力はスピードに回し、氷の上を駆けて即死魔法を避ける。
「まだそんな力を残していたか」
「にちゃ」
「ん?」
ヘッグはヴァルに金属球を差し出した。
最初は何のことか分からなかったが、すぐにその意図を読み取り、金属球を受け取る。
ダダダダダ!
「フッ!」
銃弾の間をかいくぐり、狙いを付け、ヘッグの金属球を銃に向かって投げた。
狙い通り、金属球はDEATH・WALKERが持つ銃に直撃し……金属球に付いていた糸を伝って、ヘッグの金属操作能力が発動する。
奴はどうにか糸を引き千切ろうとしたが、既に遅く、銃はドロドロに融解した。
「あと一丁!」
「……チッ」
最後の銃は大切にしたいのか、戦闘には使おうとせず、魔法一筋でヴァルに対抗する。
「〈ICEBARG〉〈ICICLE SHOT〉!」
次々に氷山が生み出され、同時に氷柱の弾幕が張られる。
「っと!」
ヴァルは、強化された足で跳ぶことで氷山を避け、それを盾にすることで氷柱を防いだ。
反撃として、ヘッグが作った金属球を投げたが、その軌道は氷に阻まれてしまう。
「にちゃ!」
「ああ」
ヴァルは遮蔽としていた氷山を脱し……瞬時にさきほどまでいた場所が氷結した。
一か所に留まってはいられない。
次に足が凍れば、機動力が低下し、ヴァルは死ぬ。もう治す金も、それだけの価値があるものも無い。
ガガガガガガ!
連なる氷柱を避けながら、少しずつ彼我の距離を詰める。
カリバーンを使った強化は、あと数分しか持たない。
銃を破壊した後も、ヘッグを背負って帰還することも考えると、残された時間は長くない。
「ここで決める」
「……It is the temperature of absolute necessity that freezes and freezes everything」
DEATH・WALKERは、このままではジリジリと距離を詰められるだけと悟ったのか、先ほどヴァルの足を凍結させた魔法の詠唱を始めた。
「Two hundred and seventy-three below freezing」
さらに、前回の魔法に詠唱を重ね、威力を増大させる。
「させるか!」
ヴァルは大きく踏み込み、無防備になったDEATH・WALKERとの距離を詰める。
「ッ――」
奴は、最後の銃を取り出して、銃口をヴァルに向けた。
ダダダダダダ!
豪雨の様な銃弾が降りかかる。
しかし、ヘッグの盾にかかれば、それは無意味。
最後の銃を破壊した後、すぐに離脱すればまだ間に合う。
「おおおおおおおおおおおおおおお!」
パリーン
弾丸を掻き分け、一直線に突撃し……最後の銃を拳で破壊した。
しかし……違和感。鉄を殴った感触では無い。
その銃は氷でできていた。
「ッ!?」
「フェイクだ」
「銃は左手で抱えたままだよ!」
ヘッグの盾に隠れていたせいで、銃の様子がよく見えなかった。
直ぐにローブで隠れた本物の銃を破壊しようとしたが、奴にもそれは簡単に読めており、隙だらけとなったところを蹴り飛ばされた。
「グッ!」
防御力は軽視していたこともあり、背後の氷山までふっ飛ばされてしまう。
「イタタ」
「大丈夫か?」
「うん。けど……」
「Transcend the whole――」
詠唱はまだ続いており、魔法に疎いヴァルでも相当な魔力が集まっているのを感じる。
おそらく、今から全力で逃げ出しても……。
「ごめんなヘッグ。巻き込んじまって」
「まだ! 私がシェルターを作るから!」
「いや、お前寒さに弱いだろ」
ただでさえ寒さに弱いネズミが、産毛ではなく金属を纏っているのだ。
もし金属のシェルターで、あの全てを氷結させる魔法を防げたとしても、すぐに脱出できなければ、ヘッグの命が危ない。
そして、氷を破壊するだけの力は、もう無い。
なぜなら、ヴァルにはもう懸けられるものが――
「いや……まだ、ある」
まだ。まだヴァルにとって、価値のあるものが残っている。
それを力に変換すれば……あるいは、この状況から逆転できるかもしれない。
だが――それを失った後も、ヴァルがヴァルで居られるかは、分からない。
覚悟は一瞬だった。
「ヘッグ、シェルターを作って隠れていろ」
「……にちゃは?」
「アイツを倒してくる」
身を捩って、ヴァルとヘッグを繋ぎ止めていた金属を外した。
そのまま、ヘッグを庇うように一歩前に出る。
「……どうするつもりなの?」
「ちょっと無茶するだけだよ。……俺は、どうなっても俺のままだ」
そう言って、駆け出した。
「forest, concepts, dimensions, even time, and stop everything.〈ABSOLUTE ZERO〉!」
遂にDEATH・WALKERが魔法を発動させ、絶対零度の冷気の壁が迫る。
その規模は先ほどよりも明らかに大きく、少し跳んだ程度では避けきれない。
だから、突っ切る!
「ボルテージを上げろ。身体を燃やせ。熱い心と魂で!〈――消費〉!」
クラッ
自我が歪む。
影響で自分を見失いそうになったが……確固とした意思で乗り切る。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
絶対零度の壁。
立ち入ったものが全て凍る、絶死空間。
その、一切の生物が生存できない環境に、ヴァルは大きく息を吸い込んで止め、目を閉じて突入した。
身体が外気に接触した部分から、凍っていく。
しかし、大きな対価を払ったヴァルは、その圧倒的なパワーで、動きを阻害する氷を砕いた。
動かない部分の氷は割れないが、足と腕は動く。
氷まみれで、泥臭く、決して美しいとはいえないが、力押しで絶零の領域を超越した。
閉じていた目を開き、氷界の中心にいるDEATH・WALKERに手を伸ばす。
「おおおおおおおおおおおおおおおおお!」
「貴様、どうして――」
驚愕しつつも、咄嗟に銃を向けるDEATH・WALKERに……ヴァルは、その銃先を掴んだ。
「ッ!?」
予想外の行動に、奴の対応が一瞬遅れる。
その刹那、ヴァルは銃を強く握り、DEATH・WALKERごとぶん投げた。
「ラァ!」
「何!?」
死神は勢いよく飛んでいき――先にあるのは、絶対零度の世界。
「死霊に効くのは、聖魔法と……死霊が使った魔法だ!」
「おのれええええええええええええええええええええええええええ!」
DEATH・WALKERは一瞬で氷付けとなり。
自らの魔法によって、死神は終焉を迎えた。
ゴーストタイプの弱点はゴーストタイプ、はっきり分かんだね。




