四十四万 実質デート
「よしヘッグ、俺に掴まれ」
「えー」
「寝てていいから」
「んー」
ヴァルの背中にヘッグが掴まり、金属で落ちないように固定する。
少し重くなったが、大丈夫。
なぜなら、まだポーチには百万以上の金が入っているから。
「行こうか」
とりあえず速度に三万、持続に二万使い、俊足で城壁から出る。
それから、ヘッグが指さした方向に向かって、一直線に駆け出した。
ダッダッダ!
「あわわわわわわ!」
凄まじい風を浴び、ヘッグの口が大きく開く。
家の天井を次から次へと跳び移って街を突っ切り、城壁を飛び越える。
「街を抜けた。もっと加速するぞ」
「結局寝れないじゃああああああん!」
追加で五万を入れ、ヴァルとヘッグは一筋の閃光となった。
「目標までどれくらいだ?」
「こんな風の中で分かるワケ無いじゃん!」
「いやほら、良い感じに、こう……」
「もういいよ、分かったから! このまま真っ直ぐ、三分くらい!」
「ありがとう。三分後にまた起こす」
「だから寝れないって!」
ヘッグから聞いた通りに走り続け……その先に、一台の馬車を見つけた。
おそらく、中に銃を持って行った奴がいる。
「しっかり掴まってろよ!」
「はーい!」
光速で疾走しながら、跳ぶ。
スピードを保ったまま馬車の中に飛び込み、中にいた一人の男を蹴り飛ばした。
ダァン!
「グァ!」
戦闘経験がほとんどない志願兵の一人だったのか、その一発で彼は気を失った。
それを侮蔑的な目で一瞥し……茶色の長細い袋が転がっているのを見つけた。
紐解くと、リサが作ったAK‐48が三丁、姿を現す。
「ヘッグ、これを分解できるか?」
「簡単簡単」
背中のヘッグが銃に触れ、それらが液体金属になる。
これなら、銃が複製されることは無いだろう。
「まずは三丁」
「な、なんだ君たちは!?」
馬車の御者が振り返って、こちらを向いている。
反応的に、共犯者では無さそうだ。
「コイツは貸し物をパクった犯罪者だ。近くの街の騎士団に引き渡してくれ」
御者に金貨を三枚投げて、依頼を飲ませた。
その間に、ヘッグは液体金属の一部を操って、奴の手足に枷を掛ける。
「よし。ヘッグ、次は?」
「あっち」
もう目が覚めたのか、彼女はハッキリとした手付きで次の銃の位置を示した。
ヴァルは効果時間を五万で延長し、ヘッグの示す方へ走り出す。
◇
「……数が合わない」
ヴァルは、ヘッグが示した残りの二つを訪れ、銃を持ち去った人間を捕えた。
だが、その二人は両方とも徒歩で、銃は一丁ずつしか持ていない。
最初の奴が三丁持っていたのを考慮しても、合計で五丁。
持ち去られた八丁には全然足りていない。
「本当に分からないのか?」
「うん……」
ヘッグの鼻でも分からないらしい。
だが、馬車の奴にも追いつけたのだ。距離的な問題ではない。
「となると……風向きの問題か」
今の風向きは、南。
銃が風下の北側にあるならば、匂いが感じ取れないことにも説明がつく。
「とりあえず北に行くか」
再び足に十万入れ、北へ、北へ。
ノスバットに戻り、それからもさらに北へ向かう。
その時、ヘッグが掴まる力を強めた。
「ちょっと左に行ってみて」
「何か分かったか!?」
「手がかりにはなると思う」
ヘッグの指示通り、進路を左に向ける。
一面の緑の草原が流れていく中、一点だけ赤い異物があった。
「……コイツぁ」
「銃の匂いがした気がしたんだけど……持ってはいないみたい」
人間の、死体。
種族が違うからか、ヘッグは平気そうにしているが、ヴァルは目を逸らした。
気分が悪くなってくるが……少し、疑問が浮かんでくる。
「……どうしてこんな所に死体が?」
割と軽率に来たが、ここはもう人類領と魔王領の狭間だ。
そこに、武装もしていない人間がいるというのは、おかしい。
「こいつは、どうしてここにいる?」
何か、嫌な予感がする。
思考は走りながらすることにして、ヴァルはまた駆け出した。
なぜ? どうして?
もう少しで結論が出そうだったが……ヘッグの探知が先だった。
「(スンスン) 見つけた! 」
「本当か!?」
「ちょっと左!」
「OK」
進行方向を左に傾け、ラストスパートに十万。
目に入ったのは、黒いローブ。
「アレ!」
「了解!」
殺すのは性に合わないので、後頭部を殴り飛ばそうとし……その拳は、身体は、奴の身体をすり抜けた。
「は!?」
「……」
死霊。
聖なる力が無ければ、触れることすらできない存在。
「……」
息を飲みながら、ヴァルは振り返り――
「お前は!」
「追って来たのか」
「……どうして生きている」
「あの程度で四天王がくたばると思ったか?」
銃を所持しているのは、死霊のDEATH・WALKERだった。




