四十二万 It's my guilty.
四天王、海淵のフィクロストと死法のDEATH・WALKERは没した。
総大将である二体を失った魔王軍の指揮は急激に下落し、そこにリサの隠し玉、超巨大爆弾が投下される。
ドガァン!
威力はそこまででもない、見掛け倒しのものだったが、ガタガタになった魔王軍の心を折るには十分。
ミナのせいで指揮官が消えていた軍は、散り散りになった。
「余裕がある奴は追撃、ただし、魔王領には入るな。少しでも負傷している奴は、動けないのを連れて戻れ」
「イエッサー」
まだ戦闘は続くが、大勢は決した。
「この戦い、俺達の勝ちだ」
◇
「やったよ! 勝ったよヴァル君!」
「苦しい苦しい!」
容赦なく身体を締め付けるミナに抗議する。
ヴァルはDEATH・WALKERを倒した後、ミナの護衛に回っていた。
巨大大砲に敵を近づかせない役割だ。
実際はここまで来れる魔物はおらず、護衛は必要なかったのだが。
「いやぁ、勝てるか不安だったけど、何とかなりましたよ」
「……まだ終わってないだろ。負傷兵の治療と、戦後処理と――」
「そうだね、そうよね。じゃ、行こっか」
山を降りて、防衛拠点にもなっている城壁を目指す。
舗装されていない道を、大柄なミナが通るには手こずってしまい、少し時間がかかった。
「じゃ、私は色々とやる事があるから」
「ああ。頑張れよ」
城壁の近くでミナと別れ、ヴァルは負傷兵が雑魚寝している場所に向かう。
他人に金回復は使えないが、包帯を巻くとか、その程度のことはできるハズ――
そう考えて、城壁に裏口から入った時。
「ハァ、ハァ――!」
「リサ?」
リサが、倒れているのを見つけた。
劇薬でも飲んだかのように、苦しそうに浅い呼吸を繰り返している。
「どうした!? 大丈夫か!?」
「ハア、ハァ!」
「……過呼吸か!」
戦争の被害を目にして、過呼吸を起こしてしまったらしい。
ヴァルにはどうしていいか分からなかったが、とりあえず安心できるように、背中をさすってみる。
少しすると、彼女は落ち着いたらしく、『ありがとう』と言ってポケットから出したハンカチで、口元を拭った。
とはいえ、まだ万全と言える状態ではないリサのため、フラフラとした彼女を支え、適当な空いている部屋に入れ、椅子に座らせる。
今の彼女の状態は、異常だ。
錯乱する彼女に、水を出して落ち着くよう促す。
「大丈夫か?」
「ああ……お陰でね」
「何があった?」
「……銃が足りない。誰かに盗られた」
「マジか!」
志願兵の誰かが、リサが作った銃を持ち去っていった。
できれば、そんなことをする奴はいないと思いたかったが、数千人もいればそういう奴もいる。
「手がかりは?」
「幾つかあるけど……何せ八丁も持っていかれたから、全部回収するのは難しい」
「……まだフィクロストの死海は残っているだろ? この街の中だけなら――」
「希望的観測はやめろ。あの類の魔法は、術者が死んだら消える。もう街の出入りは自由だ」
「それなら……『超大金で買い取ります』って触れ込むとか」
「間抜けは捕まるかもしれないが、裏ルートの取引を望む可能性も高い。全ては回収しきれないだろう。……一丁も出回らせてはいけないんだ」
リサは『それくらいはもう考えている』とばかりに、深い溜息をついた。
それからも、ヴァルは考えを巡らせるが、名案は思いつかない。
『俺が責任をもって、全部回収する』とは何だったのか。
その後も思考は止めなかったが、案は思い浮かばず……代わりに、一つの疑問だけが残った。
「どうして、お前はそんなに銃を持って行かれるのを嫌うんだ?」
「……私たちは共犯者となる身だ。教えておこう」
説明好きの血が騒いだか、彼女は重苦しい声ながらも、解説を始めた。
「前提として、銃の量産はそこまで難しくない。高位の錬金術師なら、半年ほどあれば仕組みを理解できるだろう」
「……それが、どうしていけないんだ?」
銃が量産され、簡単に入手できるようになる。
今回のように、魔物との戦争があっても、銃があればその勝率を大幅に上げられる。
狩りの難度も減り、人間の生存率は全体的に上がるだろう。
ヴァルとしては良いことずくめに思えるが――リサはその意見を一蹴した。
「……頭の中お花畑か? 君は夢見るシンデレラか?」
「ボロクソ言うじゃん……間違ってはないだろ?」
「確かに正しい。しかし、メリットばかりに目を向け過ぎだ。デメリットも直視しようか」
「デメリット……戦闘職の人に失業者が出るとか?」
「……この症状は、善人論者か。君に任せていると、いつまでも答えは出なそうだ」
リサは、深い溜息をついて、解説を続ける。
「君の言った通り、銃があれば楽に魔物との戦争に勝てるだろう。だが、魔物との戦争が終わったら、次は何が始まると思う?」
「……叙勲式?」
「……間違いではないけれど、そういうことではないよ。始まるのは、人間同士の戦争だ」
「ッ!」
確かに、昔実家のアスター家で聞いたことがある気がする。
魔物との戦争が終わったら、人間同士の戦争が始まる。
魔王と勇者の戦争である、人魔大戦で力を結集させやすいよう、人類の最高権力者は国王に決定されている。
しかし、領主としての貴族は存在しており、中には王都より栄えていると言われる都市もある。
土地、利権、財宝……それらを巡って、人は争い合う。
「……」
「人同士の戦争はいずれ絶対に始まる。さて、その時に銃があったら、どうなる?」
「それは――」
人同士の戦争は、陣営の戦闘称号のみで行われている。
軍と軍の戦いで全ては決し、一般市民がそれに関わることはほとんどない。
なぜなら、一般人を戦線に投入しても、プロ相手には時間稼ぎにもならず、そのくらいなら兵站を作らせた方が有益だから。
だが、銃があるとどうなるか。
『誰でも戦える』という利点は、言い換えれば『誰でも戦争に出られる』という意味でもある。
プロだけだった戦争は、ほぼ総力戦へと変化し。
戦争に駆り出される人数は爆発的に増加し……その分、死者は増える。
銃が出回ことにより、多くの人が死ぬ。
「……だから、私は銃を他人に持たせたくは無かった」
「……すまん」
「いいよ。最終的に決断したのは私だ。遠くない未来、銃は最も人を殺した武器になる。この大罪は、決断を下した私と、それを促した君の、半々で背負って行こうじゃないか」
改めて言われると、自分の犯した罪に、眩暈がしてくる。
「お前は、そこまで考えて……」
「いや、考えたのではない。知っていたんだ」
「……どういうことだ?」
「……たまには話そうか」
彼女は気まぐれだとでも言いたげだったが。
実際は、今までため込んだものを吐き出すように、
「私は、転生者という奴だ」
リサが転生者と分かってた、勘のいい人はグッドボタン。




