四十一万 世界の深淵たる海の怪物
一方、戦場では、
「撃ち続けろ!」
「これ以上城壁に近づかせるな!」
「グヴァア!」
「キュロロロ!」
人間と魔物の戦闘が続いていた。
状況としては、何とか五分にしている。
しかし――
「七班、銃弾が尽きました!」
「すぐ補給! ……残り何発だ?」
「四箱です!」
四箱。思ったより消耗が激しい。
リサの概算では、十分ほどで尽きる量だ。
戦線が持っているのは、千丁の銃によるところが大きい。それが無くなると、戦況は一気に悪化するだろう。
「……」
手元で銃を直しながら、リサは戦場の方を見る。
戦場の方も、一見拮抗しているように見えるが、魔物の方にはまだまだ控えがいる。
ナートも含めて奮闘しているが、このままでは、いずれ押し切られるだろう。
打開の一手が欲しい。
「……なら、頭を叩くか。誰か、通信魔法が使える人はいるかい?」
「はい、私が」
城壁にいた魔法士の一人が答えた。
「ここから、勇者一行に繋げられるかい?」
「可能です」
「よし」
◇
『お困りのようだね』
三人の脳内に、少女の声が響いた。
「だ、誰だ!?」
『リサ・コトー、ヴァルの仲間さ』
「集中できないから切るぞ」
『待ちたまえ。打開の一手が欲しいんじゃないかい?』
「……俺達は回避に集中したいから、ウィズマだけにしてくれ」
『了解だ』
回線は、ウィズマとリサだけになった。
リサは、器用にも両手で銃を直しながら、双眼鏡でフィクロストの戦いを見て助言を与える。
『疑問に思わないかい?』
「何が?」
『墨の件だ。奴の位置が掴めないことに苦労しているのだろう? ならば、どうして奴は君たちを狙って攻撃できていると思う?』
「……」
考えてみれば妙だ。
今の状況は、いわば煙幕が張られている状況。
ウィズマ達にフィクロストの姿が見えていないならば、フィクロストからもウィズマ達の姿は見えていないハズだ。
なのに、奴は明らかにこちらの位置を把握し、狙い撃ちしている。
「間違いなく、視覚以外の感覚に頼っている」
『その通り。というか色合い的に、フィクロストは深海魚だろう。光がほとんど届かない深海に生息する生物だ、視覚に頼っている可能性は低い』
「……淡水魚じゃないの?」
『明らかに塩水を使ってるじゃないか』
「……」
自分のあだ名が的外れだったことを恥ずかしく思いつつ、通信を続ける。
「じゃあ、アイツはどうやって私たちの位置を感じ取ってるの?」
『奴は深海魚だ。音か……超音波の反響だろう』
「〈静寂〉」
とりあえず、ヒリックに音が出なくなる魔法をかけてみる。
しかし、狙いは正確。水の刃が彼の頬に傷を付けた。
「音じゃなさそう」
『なら超音波だろう。……音か何かの反響で、周囲の物事を察知する索敵法だ』
「弱点は?」
『大雑把な地形しか把握できないことかな。……策を授けよう』
『――』
「なるほど」
リサの策にウィズマも賛同する。
本当に効くかは分からないが、超音波についての知識が不足している以上、従うのが一番だろう。
『助言は十分かな?』
「うん、ありがと」
ウィズマは感謝して、回線を切った。
これからやることを確認しながら、攻撃を回避し続けるヒリックに話しかける。
「二十秒、魔法無しで耐えれる? ってか、耐えて」
「無茶言うなぁ……まあ、やるしかないワケだが!」
「任せた。――父なる大地よ、我が願いに応え断克、断崖、隆起し――」
ウィズマが土魔法の詠唱を始めた。
意図は分からないが、ヒリックは彼女を信じて、生き残るだけだ。
幸い、魔力不足からか、さっきから攻撃の手は弱まっている。
考えてみれば、三日前から街を囲む水を維持しているのだ。いくら四天王といえど――
『〈死愚雨〉』
ポツ ポツ
雨。見上げると、いつの間にか空に暗雲が立ち込めていた。
水魔法を強化するのかと思ったが……
「グッ!」
「し、しみますー!」
雨水にまで大量の塩が溶けていた。
これまでに付けられた傷に塩が入り、やはり染みる。
それだけでなく、目にまで塩が入り、視界までぼやけてきた。
『終わりだ』
「クソッ」
ザァ!
霞む視界、言うことを聞かない体。
そんな二人に、水刃が襲い掛かる。
「どうしましょう!?」
「あと少しだ、力ふり絞れ!〈聖剣〉」
「〈セイント・ウォール〉!」
ヒリックの剣が水刃を裂き、ラティの壁が攻撃を防ぐ。
全力の力押しで、無理やり全方位の攻撃をカバーした。
だが、この抵抗は最後の力を振り絞ったもの。長くは持たない。
「まだか!?」
「あと一節。――天より地陸に混沌を、地底より深層に空殻を! 〈獄互天変〉!」
ゴゴゴゴゴゴゴ!
地面がうめき声を上げ、大地震を引き起こす。
同時に、
「〈勇破〉!」
「〈聖撃〉!」
ヒリックとラティが地面を全力で攻撃し、大規模な砂埃を作り出した。
フィクロストの超音波精度でも、天変する地面の情報量と土埃によるジャミングによって、一時的に対象をロストした。
どこにヒリック達がいるか、全く分からない。
しかし、土埃が晴れれば、また超音波が通るようになる。
雨の影響もあって、割と早く土埃は消え――
『……どこに行った』
それでも、ヒリック等を発見できなかった。
超音波の反響から、地面がガタガタになり、人と同じくらいの大きさの岩が立ち並んでいるのは分かる。
だが、それらは全く動いておらず、どれが人間かは判別できない。
超音波では大雑把な物の形しか分からず、色などは把握できないのだ。
『ならば、全て破壊するだけだ!』
ガガガガガガン!
人岩を、水刃が次々と破壊していく。
だが、人を切ったような感覚は無い。
『……』
遠方や空中に超音波を回したが、そこにも奴らは居ない。
どこに行ったのか、どこに居るのか。超音波では全く分からない。
『逃げたのか?』
このままでは奴らに時間を与えることになる。
フィクロストは、水流を操って墨に穴を作り出し、水のレンズを形成して、外を覗けるようにする。
しかし、彼らの姿は全く見当たらない。
『逃がしたか』
フィクロストは、最終確認として墨を完全に取っ払い、視覚による最終確認を行おうとして、
「痺れを切らしたね――〈雷霆〉!」
ピカッ ゴロゴロゴロゴロゴロ!
その体を雷が貫いた。
『ヴッ!』
「ハァ、墨を無くしたのは悪手だったね」
その声は地面……いや、地下から聞こえてきた。
ヒリック達は、ウィズマの魔法で、地面の下に隠れていたのだ。
表層しか見ていないフィクロストは、それに気づかなかった。
そして、天候が雨になったのを利用して、雷魔法の詠唱をし――最高のタイミングで、解き放った。
雷の電圧は数千から一億にも及ぶ。人の魔法でそこまでの威力は出せないが、それでもかなりの電力だ。
幾ら四天王、フィクロストといえど無事では済まず、口から黒煙を吐く。
「ハァ、ハァ。ヒリック、ラスト!」
「うおおおおおおおおおおおおおお!」
地面の空洞から、ラティの回復魔法によってある程度回復したヒリックが飛び出した。
そのまま、痺れて動けないフィクロストの水に突入し、聖剣を振りかぶって、
「〈聖虚御空閃〉!」
巨大な深海魚を、三枚におろした。
三章はまだ続きます。
というか、ここからが本番です。




