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勇者パーティを追放された【費消士】、商人と組んで最強に至る  作者: カレーアイス
第三章 ノスバット防衛線
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三十六万 戦争

「……これ、やばくね?」

「ヤバいかヤバくないかで言ったら、まあヤバいだろうね」


 先ほどまで戦局は拮抗していたが、どこからかやって来た死霊達が魔王軍に合流したせいで、瓦解し始めた。

 死霊に普通の攻撃は効かないので、急襲されるとかなり困る。

 エルシオンにも、死霊にまともな攻撃ができるのはナートくらいしかいない。


「これは、一旦仕切り直した方がいいだろうね。このままだと、遠くないうちに崩壊するよ」

「……まあ大丈夫だろ。ここにはまだ、アイツがいる」




 少し離れた山頂。

 ミナ・メタトルは、そこから戦場全体を見渡していた。


「頭は……」


 フィクロストとDEATH・WALKERは、勇者パーティと戦っている。

 なのに、魔王軍は明らかに統率された動きを見せていた。

 間違いなく、他にも人並みの知性を持った魔物がいる。


「アレかな?」


 魔王軍の最奥にいる、小さな魚。

 ワザワザ地上で生きられない魚を連れているのには、意味がある。

 アレが司令官に違いない。


「フッ」


 【狙撃狩(そげきしゅ)】のミナは〈遠視〉を使いながら。

 常人ならば引くのに七人はいるという、巨大な強弓を構え。

 常人ならば『槍』と言いそうな矢を携えて、ギリギリと悲鳴を上げる弓を引く。


「響け強弓! 轟け弓鳴り! 〈源狙(げんそ)堕穿貫(だせんかん)〉!」


ギュン!


 余りの速度に唸りを上げた矢が、狙い通り、司令官である魚の頭を貫いた。

 瞬間、動揺から、明らかに魔王軍の動きが乱れ……第二射で、強そうな巨大クラゲの魔物を撃ち落とす。


「次々いくよ!」





「ハァ、ハァ」

「よく堪える」


 勇者パーティは、四天王二体相手に、ほぼ壊滅状態に陥っていた。

 死者や先不能な怪我を負った者はいないが、全員肩で息をし、体は傷だらけになっている。

 打開策も何も無いが……諦めずに食らいつく。


「いつまで持つかな」

『待て……戦場を見ろ』


 フィクロストに言われて、DEATH・WALKERが戦場に視線を向ける。

 軍同士の戦争は、一転して人類軍優勢になってた。


「……何があった?」

『指揮させていた奴がやられた。いい狙撃手がいる』

「ガギャッ!」


 話している間にも、大物が一匹撃ち落とされた。

 急に指示が無くなったのと、超遠距離から飛来する狙撃に、指揮が急激に落ちてしまったらしい。


『ここは退いた方が無難であろう』

「……そうだな。せめて勇者くらいは始末しておきたかったが……まあいいか」


 二体は、踵を返して魔族領に退いていく。

 勇者パーティは、心の奥底で安心しながらも、完全に撤退するまで気を抜かず、得物を構え続ける。

 そんな彼らに対して、


「三日後には、私の死霊軍が完全に合流する。それがお前たちの最後となるだろう」


 DEATH・WALKERは捨て台詞を残し、消えていった。

 フィクロストも軍を引き連れて魔王領に下がっていく。


「追撃!」

「待て、まだ四天王が残っている。下手に追撃しても返り討ちにされるだけだ。それより、怪我人の手当を急げ!」


 こうして、今代の人魔大戦の第一幕が終わった。





「ヴ、ヴゥ」

「セインさん、危篤患者です!」

「またですか……?」

「誰か、こっちにポーション!」


 傷ついた兵達がうめき声を上げながら、雑魚寝している光景が、戦争というものを感じさせる。

 話には聞いたことがあったが、ここまでとは。


 だが、まだ戦争は終わっていない。



 ヴァルは、冒険者代表としてミナに呼ばれ、作戦会議室にいた。

 他の参加者は、総大将のミナと、偉そうなおじさんが数人といったところだ。


「状況は?」

「ほぼ最悪」


 魔王領に潜んでいる斥候から、死霊の軍団が向かっているという報告があった。

 DEATH・WALKERの言う通り、あと三日で合流するらしい。

 先の戦争の生き残りと合わせて、その数は合計四万にも登る。

 対して、こちらの手勢は二万ほど。

 魔物の軍を相手にするならば、その1.5倍数の人間が必要だといわれているのに、逆にこちらの方が少ない。


 重苦しい雰囲気の中、おじさんの一人が口を出した。


「……援軍は?」

「色々なところに求めたけど……全部断られちゃった。自分の都市の守りを固めることに集中したいみたい。いやぁ、薄情薄情」


 魔王と勇者が現れ、戦争をするのは今回が初めてではない。

 歴史上では、記録が残っている時だけでも数十回は行われており、大体の流れは固定化されている。

 それによると、まだ魔王は勇者と同じく成長途中であり、本調子ではない。

 なので、最北のメタトル以外は、ロクに防御を固めていなかった。


「これまで『砦作れ』って言っても、『検討します』の一言だったからね」

「そのツケをワシらに払わせおって」

「……まあとにかく、援軍は来ないと思って下さい」

「じゃあ逃げますか。住民の受け入れ先は用意できますか?」

「それはどうにかなりそうなんだけど……」


 ミナは言いづらそうに声のトーンを落とした。


「……何かあったのか?」

「……端的に言うと、逃げれなそう」

「いや端的過ぎだろ」


 ノスバットは、少し盛り上がった土地にあり……その土地の周りを、いつの間にか水が囲んでいたらしい。

 つまり、今ここは軽い孤島状態になっている。

 間違いなくフィクロストの仕業だ。


 さらに、その水には水棲の魔物が潜んでいて、簡単には通れなくなっている。

 さらに、その水の塩分濃度はバカ高く、半死海のようになっており、落ちたら死ぬ。


「……つまり?」

「数人なら逃がせるかもしれないけど、三日で住民約十五万人を逃がすのは不可能ってこと」


 まとめると、軍勢は相手の約三分の一。

 援軍はほぼ期待できない。

 おまけに逃げることもできない。


「いやー、見事に終わってるね」

「呑気なこと言ってる場合か! マジで詰んでるぞ!」

「ごめんごめん。でも、本当にどうしようもないんだよね。……残った軍で足止めしながら、頑張って住民を逃がしていくしかないかな」

「……お前は、どうするつもりだ?」

「もちろん、最高責任者として、最後まで足止めに徹するよ」


 ミナは、既に覚悟を決めていた。


 軍の人々も自分たちの街を守るために、最後まで戦うつもりらしい。


「最後まで魔物を道連れにするぞ!」

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


 修羅の国の精神か。

 さらに、軍以外の【農民】や【鍛冶師】など、戦闘が専門でもない一般人すら、戦争に志願している。

 自分の大切な人を逃がすための時間を、少しでも長くするために。


(こんな素晴らしい町を、無くしたくない)


 何とかならないかと、ヴァルは考えを巡らせ――一つ。


「……俺に一つ、心当たりがある。もしかしたら、何とかなるかもしれない」

「一人で突っ込んだりしないでよ?」

「さすがにしねぇよ。ちょっと行ってくる。



 会議から抜け、その心当たりに会いに、研究室を訪れた。

 そこには、いつもの白衣を羽織り、試験管とにらめっこするリサがいた。


「やあ、ヴァルじゃないか。できあがったポーションならそこにあるよ」

「後で持ってくよ。それより、今はお前に話があるんだ」

「何だい?」


 リサは、研究室を借りて治療用の高性能ポーションを作っていた。

 負傷者の治療が間に合っていないので、とても助かるところではあるのだが――


「お前には別の仕事を頼みたい」

「……ちょっと待ってくれ、そろそろ弟子に私の工法を教え終わる。まあ、話は聞いておこう」

「とりあえず、今の状況を説明すると――」


 リサに、このまま戦うと敗色濃厚であること、逃げられもしないことを話した。

 流石の彼女でも、退路まで塞がれているというのは、予想できなかったらしい。


「……思ったよりずっと不味い状況みたいだ。それで? 橋でも作って欲しいのかい?」

「三日じゃ無理だろ。……お前、本当は俺が何を頼みに来たか、分かってるんじゃないか?」

「さて、何の話やら」


 彼女のアホ毛がピンッと立った。

 これは、図星を突かれた時の反応だ。


「まあいいや。逃げられないように、ハッキリ言っておこう。……街を守るために――」

「わああああああ!」

「子どもみたいなことすんな! 街を守るために、銃を作ってくれ!」


 大声で誤魔化そうとしたリサに、それ以上の声量で返した。


 リサの銃ならば、全く戦ったことが無い人でも、ある程度の戦績を出すことが出来る。

 志願兵全員に渡せば、絶望的なこの盤面も、少しはマシになるだろう。

 それこそ、この絶望的な状況をひっくり返せるくらいの戦力増強も狙える。


 それを聞いたリサは、溜息をついて頭に手を当てた。


「はぁ――開いちゃったか、パンドラの箱」

「言い過ぎだろ。分かってるよ、お前が銃を人に渡すことを極度に嫌っていることは」


 売れば億万長者になれるだろうに、彼女はそうしなかった。

 それどころか、他の誰にも使えないように、魔力による判別で自分以外は撃てなくするくらいには徹底している。

 何故かヴァルには拳銃を貸し、最近はマーチェにも一つ出しているが、それ以外の人物には触らせすらしていない。


 そんなリサに、知りもしない町の住人に大量の銃を持たせる。


「無理は承知しているが、頼む!」

「……できればお断りしたいけどね」

「一旦。一旦お前の感情は置いておいて、今から全力で銃と弾と作り、志願兵に訓練させたら、勝率はどれくらいだと思う?」

「フム――」


 顎に白衣の袖を当てて、考える。


「ヘッグに協力してもらえば、ある程度の量産はできるだろう。だが、見たこともない武器を、志願兵がどれくらい使いこなせるかは、未知数だ」

「結論は?」

「このままなら一割も無い。だが、銃を持たせるなら、三割は行くだろう」

「本当は?」

「……四割は下らないね」


「……それを考慮に入れてても、まだやりたくないのか?」

「……」

「この戦争には、ノスバット十五万人の命が懸かっているんだ。その生存率を、四倍以上にできる。……お前はそれを許せるような人間か?」


 リサは人が死ぬことを嫌う傾向がある。

 自分の行動によって多くの人が死んでしまうのを、許容できるような人間ではない。

 後で、絶対に後悔する。彼女のためにも、やるべきだ。


 リサはじっくりと考えてから。

 めっちゃくっちゃ嫌そうな顔をしながら。


「一つ条件がある。作った銃を全て回収すること」

「分かった。俺が責任をもって、全部回収する」

「……いいだろう、ヘッグを連れて来てくれたまえ。やるならとことんやってやろうじゃないか」


 吹っ切れたのか、彼女は手に備えた手袋をキュッとしめた。


 中世の町の人口は大きな町でも二~三万人くらいなので、十五万人はかなり多いです。

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