三十五万 死法のDEATH・WALKER
街から少し離れた丘の上。
ノスバットに滞在していた冒険者たちは、街に一匹も魔物が入らないように、前の軍を突破してきた奴を殲滅する役割を担っていた。
まだ戦闘は始まっていない。
味方の軍の方はギリギリ視界に入るが、相手の軍の方は遠すぎて詳細が分からない。
「どんな魔物が相手か見ておきたいんだけどな」
「そんなあなたに、双眼鏡~」
リサが、二つの筒が連結した形の道具を取り出した。
言われた通りに覗き込んでみると……視界は狭くなるが、遠くの様子がよく見える。
相手の魔物は……リザードマン、ポイゾンフロッグ、ワ・カメ、天空クラゲなどなど。
魚の四天王、フィクロストの軍だからか、半水棲モンスターが多い気がする。
そして、その上空には、宙に浮かぶ水の中を泳ぐ、蛍光色の巨大魚。
「あれがフィクロストか……不気味な奴」
数は、二万くらいか。
軍の方は三万ほどいるが、単体では魔物の方が強いと言われているので、どちらが有利かはまだ分からない。
「ヒリック達が、フィクロストを倒せるかが鍵になりそうだ」
「そうこう言っているうちに、始まるよ」
ヒュン! ヒュヒュヒュン! ヒュヒュヒュヒュヒュン!
人軍の弓兵が弓を引き、雨のような矢が降り注ぐ。
スキルも乗った矢が魔物の大軍を襲うが、防御力が高いワ・カメなどが盾となり、大した損害にはならない。
逆にポイゾンフロッグが毒液を吐き、兵の一部が毒状態となる。
しかし、
「〈聖女の陽光〉」
【聖女】セインが、それを全て治した。
こうして、互いに大きな被害は出ないまま、前哨戦は終わり。本格的にぶつかる刻が訪れた。
「うおおおおおおおおおああああああおおおおおおおお!」
「リザ!」
「ヒュロロロロロ!」
ガァン
すぐに巨大な戦闘音が鳴り響き……土煙で、後方からは何も見えなくなった。
入り乱れ、食い乱れ、酷い乱戦状態になっている。
「……戦争って、こういうものなのか?」
「さあ? それは私にも分からないね。それより、そろそろ戦闘態勢を整えた方が良いよ」
「ちょっと早くね?」
まだこちらに走って来る魔物どころか、軍を突破したものもいない。
しかし、
「見ていたまえ」
リサはリュックから……
「……何それ」
「ロケットランチャーという奴さ」
ドッ! ヒュー
煙を上げながら、弾頭が天空へと昇る。
斜方投射かと思ったが、その弾頭は落ちることなく、上へ上へと登り続け、
バシャーン
水中で、爆発した。
どこからか現れた水が弾け散り……同時に、魔物も出現する。
「は!?」
「さてさて冒険者のみなさん、お仕事の時間だ!」
どうやら、空中にはフィクロストが操る水の塊があり、そこに多くの魔物を潜ませていたらしい。
水で包んで戦力を輸送する。そうして砦を空中から攻め落としたのだ。
「え、魔物が空中にいたら気付くだろ?」
「光の屈折というやつさ。今日は雲一つない晴天だからね、さぞ隠しやすかったことだろう。だが、注視すれば分かる」
ダダダダダダダ!
言いながら、自由落下中の魔物を次々と銃で撃ち抜いていく。
しかも水の中では、なるべく見つからないように密集していたらしく……ほとんどはロケットランチャーの爆発に巻き込まれており。
生きて地上に降りれたのは、ほんの一握りだけだった。
「討伐……沢山だ。報酬が楽しみだね」
こうして、フィクロストの策略は失敗に終わった。
『空挺隊はやられたか。同じ手を使い過ぎた』
呟きながら、フィクロストは一歩退いた視点から戦場を見渡す。
状況的には、ほぼ互角といったところか。
予備選力はあるが、あちらもまだ冒険者どもが本格参戦していない。
『……そろそろ我も参戦するとしよう』
フィクロストの眼前で、水が圧縮されていく。
そのまま、人類軍の中央に水を撃ち込もうとし――
「ウォーターストリ――」
「させるか!〈電磁雷〉」
バチバチバチ!
フィクロストを包む水に大量の電気が流し込まれる。
体中に電気が駆け巡り、圧縮された水は霧散した。
「やっぱり電気は効くみたいだね。淡水魚!」
『貴様ら……』
電気魔法を放ったのは、【賢者】のウィズマだった。
回り込んできたらしい。遅れて、ヒリック、セイン、ラティの三人現れる。
「前回は私たちも感電するから電気魔法は使えなかったけど、今なら使える」
「作戦は決まったな。俺とラティで時間を稼いで、ウィズマの電気魔法で削りきる」
「愛盾の怨みー!」
「話聞いてたか!? 時間稼ぎにシフトしろっつってんだよ!」
考え無しに突撃しようとしたラティをヒリックが叩いて止めた。
不服そうに頬を膨らませながら、急ごしらえの盾と剣を構える。
『〈霊水〉』
フィクロストの水が揺れ動き、ヒリックとラティを水の中に引きずり込もうと、数個に分岐して這いまわる。
しかし、セインに強化された二人は簡単に捕まらず。
草原を駆け回って、水を避け続ける。
その間に、ウィズマは詠唱を終えた。
「食らえ! 〈エレクティア・ノヴァ〉!」
高密度の電雷の珠。
チカチカと黄橙に輝き――バチィ!
光速の電球がフィクロストの体を貫いた。
『グゥ!』
「あと二、三発ってところかな。天まで泳ぐ準備はできた?」
『ほざけ!〈アクアエッジ〉』
ザザァ!
水の高圧カッターが幾つも伸び――試しに防ごうとしたラティの盾が、一瞬で真っ二つになった。
そこらの武器屋で買った盾ではあるが、強度は確かなものだ。
直撃すれば、ヒリック達でもただでは済まない。
「やっば!」
「退避!〈アーツブレード〉」
ヒリックは、足に不安が残るラティを庇いながら、強化した聖剣でレーザーのような水刃を切り抜ける。
しかし、数本の水刃は、魔法準備中のウィズマに向かっていた。
「セイン!」
「分かってます。〈守護教会〉」
光の教会が立ち上がり……少し傷ついただけで、水刃を退けた。
そうこうしているうちに、ウィズマの魔法が上がる。
「雷星よ、其の電雷を以て我が敵を穿ち貫け。〈エレクティア・ノヴァ〉!」
『クッ』
恒星のような電雷の珠が、フィクロストに向けられる。
奴はなんとか回避しようとしたが、雷の速度からは逃げられない。
雷珠はバチバチと音を鳴らしながら、フィクロストの頭を貫いた。
『グアアアアアアアアアアアアアアア!』
「水に入らなきゃ、淡水魚なんてその程度なんだよ! ヒリック、止め!」
「おう!」
聖剣を構えて、果敢に水の中に飛び込んだ。
かなりダメージを与えているとはいえ、まだ水圧で圧死させられる可能性もあった。
以前のヒリックならできなかった行動。
勇気をもって、その聖剣を振りかざし――
「全く、何をしているのか」
「ッ!?」
悪寒。
勇者の直感に従って背後に聖剣を回し……その一瞬後、聖剣に衝撃が走り、ヒリックは水の外までふっ飛ばされた。
「ガッ!?」
「ヒリック!?」
「大丈夫ですか!?」
「ああ……」
勘が当たっていなかったら死んでいたが、なんとか防御が間に合った。
体勢を整えながら、フィクロストと……ヒリックをふっ飛ばした者に向き直った。
「それでも四天王の一角か?」
『……貴様こそ、勇者を仕留めそこなっているではないか』
漆黒の外套に、骸骨頭。
巨大な死神鎌が、首を求める。
「あれは、まさか……」
「四天王、死法のDEATH・WALKER!」
「紹介どうも」
水から出た不気味な死神が鎌を構え、フィクロストも体勢を立て直す。
四天王二体はさすがに不味い。
「……よし、逃げるぞ」
「そう簡単に逃がすと思うか?」
「ッ!?」
死神は、いつの間にかそこにいた。狙いは、フィクロスト攻略の要、ウィズマ。
鎌が彼女の首を狩ろうと振るわれ、
「〈聖女の儷光〉」
「〈聖撃〉!」
セインの聖なる光で、死神の動きが一瞬止まり、そこにラティが聖属性の攻撃を叩き込んだ。
勇者パーティには聖属性の攻撃をできる者が多い。
攻撃面では余裕がある。問題は、あの神出鬼没さだ。
一対一ならどうにかなるが、他にも敵がいるととんでもない脅威になる。
「……やっば」




