三十四万 砦、陥・落
「それで、お前の方は最近どうなんだ? 噂では男一人のハーレムパーティを築いてるとか……」
「待て待て待て! どこからそんな噂……ってか男一人女三人はお前も同じだろ!」
「いや、ウィズマは小さ過ぎるし、セインはあんなだし、ラティは家の関係で手を出しにくいし――」
「だから夜の街で発見報告が上がるのか?」
「おい、それどこから!」
ヴァルは苦笑し、ヒリックはそんな彼に掴みかかる。
久しぶりの兄弟の会話。
以前まではこんなに仲良く会話することなど、考えられなかった。
少しは丸くなったのだろうか。
「……フフッ」
「おい何だよ」
「いや、何でも――」
ウー!
その時、街の警報が鳴った。
警戒心を引き立てる音に、二人の手がそれぞれの剣にかかる。
『魔王領から魔物の軍団が進行中。市民のみなさんは、落ち着いて避難を。衛兵や冒険者など、戦える人は北門に集まって下さい』
即座にミナの補足が入り、警報の理由が分かった。
とりあえず、放送で言われた通り、ヒリックと共に北門に向かう。
ナート達とも、そこで合流できるだろう。
ヴァル達が北門に着いた頃には、既に多くの人が集まっていた。
流石メタトル領と言うべきか、一人一人のレベルの高さが、雰囲気だけで分かる。
その中に、一人だけ目立つ白衣を羽織る少女を発見した。
「早いな」
「君が遅いんじゃないかい?」
「そうかもな。来るまでに何かあったか?」
「いえ、これからです」
ヴァルの質問に、ナートが答えた。
まだ何も始まっていないらしい。
とりあえず、他の人と同じく、人の輪の中央を見てみると、そこにはミナと……包帯だらけの男がいた。
ミナと並んでいるので分かりにくいが、包帯男もかなり大きい。
そんなことを考えているうちに、十分な人数が集まったと判断したのか、ミナが大声で語り出した。
「お集まりいただきありがとうございます。私はメタトル公爵よりノスバット周辺の防衛を賜っている、ミナ・メタトルと申します」
巨体から発せられる存在感のある声に、周りの喋り声が消える。
「時間が無いので手短に説明させてもらいます。最北の砦が、魔王軍によって攻め落とされました。現在、この街に向かって進行中です」
「「「「「ッ!」」」」」」
何となく予想していたことではあったが、実際に言われると重みが違う。
砦とは重要軍事拠点であり、そう簡単にものでは無いのだが。
「……ほら」
「……砦が落ちた経緯については、自分から」
ミナに背中を押されて、隣にいた包帯男が語り出した。
「自分はメタトル家次男のヨモリ・メタトルです。件の砦を任されていました」
自己紹介を終えた彼は、砦が落ちるまでの経緯について、つらつらと吐き出した。
その日、ヨモリはいつも通り、砦の指令室にいた。
特にすることも無いので、鍛錬に勤しんでいると――見張りの兵から、
「魔王軍が進行してきました!」
「規模は?」
「小隊です。いつもの偵察かと」
「では、第一隊と第二隊を迎撃に向かわせ、その他の隊はいつでも出撃できるように待機しておけ」
「了解しました」
珍しいことでもない。週に一度ほど、この手の偵察は襲来していた。
いつも通り万全の数隊を向かわせ、偵察隊を叩き潰そうとした瞬間。
上空から、
ダァン!
何かが落ちてきた。かなり高い所から落ちてきたのか、轟音が鳴り響く。
位置としては、迎撃隊と砦の間。
「なんだ!?」
「ヴァアア」
「キュロロロロ!」
天から降り立ったのは、魔物。
迎撃に向かわせた部隊はいきなり挟み撃ちの形となり、さらに、砦にも直接乗り込んでくる。
いきなり乗り込まれた砦は混乱状態に陥り。
『食らえ〈ウォルターストリーム〉』
最後に津波のような水に襲われ、砦は陥落した。
「……最後に水を放ったのは、蛍光色の巨大魚だった」
「四天王の一角、フィクロストに違いない」
確信めいた声に、発言者に視線が集まった。
それはもちろん、フィクロストと戦ったことがある、勇者ヒリック。
いつ集まったのか、周りには三人のパーティメンバーもいる。
「……フィクロストは俺達が倒す」
「あの淡水魚……絶対殺す」
「ウィズマって、敵にあだ名付けるの好きですよね」
彼らは、人込みをかきわけてミナの前に躍り出た。
『一回やられたんだろ?』『大丈夫か?』などと、懐疑的な声も聞こえてくるが、それを跳ね除ける威風が、彼らにはあった。
「ご協力、感謝します。あなた方は、先に前線組と合流しておいて下さい」
「分かった」
勇者一行を先に行かせ、ミナは説明を再開した。
「既に軍は配置に付いてます。皆さんには、軍の包囲網を突破した敵を討伐する役目をお願いしたいです」
「報酬は?」
「討伐した魔物の報酬の1.5倍を出しましょう」
「「「おおおおおおおおおおおお!」」」
破格の報酬に、歓声が上がる。
しかしそれは、この状況がどれだけ切羽詰まっているかを暗示していた。




