三十二万 ミナ・メタトル
「さて、我々は雇い主から無理難題を押し付けられたワケだが――」
「結局お前も同行すんのかよ」
「いいじゃないか。……それが私の使命かもしれないからね」
何かキザなことを言い出したリサを無視し、現状を確認する。
『魔王を討伐する』という難題を押し付けられたのは、ヴァル、ナート、ヘッグ、リサの四人。
慣れたメンバーではあるし、心強いのだが……一つ不安があった。
「カリバーンがなぁ……」
「無いとそんなに変わるのかい?」
「当たり前だろ」
黄金の鞘には、何も刺さっていない。
金の剣だと、他の材質よりも金の乗りが良い気がするのだ。
前にカリバーンを失った時は、もう強敵とぶつかることは無いと思っていたので、あまり気にならなかったが、魔王との戦争に参加するなら話が変わってくる。
それに、今回物も力に変換できるようになったことで、その価値はさらに上昇した。
「どこかに売っていないのですか?」
「費消士でもなければ、あんな使いにくい剣なんて使わねえよ。あと、できれば手に馴染んだものがいい」
しかも、金の武器を作った人などほとんどいないので、特注しようにも断られてしまった。
もうどうしたらいいのか――
「……じゃあ、前のカリバーンはどこで貰ったんだい?」
「あっ、その手があったか」
魔王と戦うなら丁度いい。
こうして最初の目的地は、人類最北の都市ノスバットになった。
◇
王都から北に数十キロ。
ヴァル達エルシオンは最北の都市、ノスバットに辿り着いた。
時期によっては雪が降ることもあり、分厚い建物が立ち並ぶ。
また、最北という魔物が最も強い場所のため、都市は頑強な壁に囲まれている。
もう数キロ北へ向かえば、魔王領だ。
ここに来たのは、魔王領が北にあるというのと、もう一つ。
二代目カリバーンを製造して貰うため。
「あと……一応、アイツに挨拶しておくか」
「誰ですか?」
「ここにいるんだよ、俺の婚約者」
「「「は!?」」」
三人の声が綺麗に重なった。
街の最北にそびえ立つ邸宅に向かいながら、話を続ける。
「……話してなかったっけ? 少なくてもナートに言ったことはあるだろ」
「いえ、ノリで」
「にちゃ、結婚してたの?」
「してないよ。ってか、多分もう破談になってるし」
一応、ヴァルも男爵家の次男であり、政治的に結婚する立場である。
普通なら、同じ男爵家かもう一段上か下くらいになるのだが……ヴァルの兄は勇者だった。
勇者の家と繋がりを持ちたいという家は多く、両親が色々考えた結果、最北に領地を持つメタトル公爵家の長女と婚約することになった。
カリバーンは、その時にお祝いとして送られたものだ。
「けど、ヒリック達と旅するようになってからは帰ってないし、たまに届く手紙も無視してるから、今どうなってるかは全く分からない」
「……手紙を読めばいいのでは?」
「いや、それは何か負けた気がするというか……」
その辺の事情を聞いておくためにも、できればアイツに会っておきたい。
そんなことを話しているうちに、メタトル公爵家の屋敷前に着いた。
急に変な四人組が現れたことで、門番の人が不審者かと眉を潜める。
「何の用だ?」
「えっと――ご息女に用があって……アポは無いんですけど」
「では、お帰り願おう」
「……ちょっと待って下さい」
何の用意もしていなかったので、門前払いされそうになり――仕方なく、ヴァルは大きく息を吸い込み、
「おーい、ミナ!」
「何してる!」
急に叫び始めたヴァルの喉に槍が突きつけられる。
しかし、すぐに屋敷からドタドタという物音が聞こえてきて――一人の女が三階の窓から飛び降りた。
「ヴァルー!」
ドサッ ダッダッダッダッダ
彼女は綺麗に着地し、凄いスピードでこちらに走って来る。
だが、その光景にナートは違和感を覚えた。
一見普通の光景なのだが、どうにもサイズ感が合わない。
それもそのハズ。
「ヴァル君!」
「久しぶり、ミナ。また身長伸びたか?」
「まあね」
ミナ・メタトル。身長、230センチ。
握手しているだけなのに、ヴァルの腕は超上向きになり、ミナは必死に屈んでいる。
ヴァルも決して身長が低いワケでも無いのに、ミナと並ぶと子供のように見える。
「そこの人達は?」
「俺の仲間だ。今は……冒険者をしているんだ」
「あー、そうだったね。まあ入りさい。冒険譚、聞かせて下さいな」
「ああ」
門番はいい顔をしなかったが、屋敷の主人の招きで、四人は中に通された。
近づいてみると、ミナのために作られたからか、屋敷の天井はとても高い。
あまり見ない構造だからか、リサが興味深そうに目を光らせる。
貴族の屋敷を楽しみながら、応接室らしい部屋に入った。
彼女は、酒を片手に話し出した。
「それじゃあ、まずは自己紹介といきましょうか。私はミナ・メタトル。メタトル公爵家の長女で、ヴァル君の婚約者です」
「……」
「じゃあ、ヴァル君は置いて、左からどうぞ」
「私は――」
ナート、ヘッグ、リサの順で自己紹介を済ませる。
特にヘッグのハリネズミ姿に驚き、身長を比べたところ……大体同じくらいだということが分かった。
やっぱおかしいよ、コイツ。
「それで、今日はどういう用なの?」
「あー……まず、貴族社会の俺の現状について、教えてくれ」
ヴァルとしては、『勝手に出家した馬鹿』くらいになっていると思っていたが――
「そりゃもう、好評ですよ」
「え?」
そうはなっていないらしい。
理由は、王女の魔力漏出症の件。
ヴァルは広める気は無かったが、メタトル家が『王女の病を治すために奔走し、それを達成した騎士』というように触れ回ったらしい。
それによって、アスター男爵家は子爵に格上げされていた。
「私と婚約していなければ、今頃見合いの申し込みで一杯だっただろうねー」
「……そっかぁ」
「……その王女様が君を探してるって話、聞きたい?」
「聞きたくない。……薬を作ったのはこのリサ。俺はちょっとその手助けをしただけだ」
「私からそれとなく伝えておこうか?」
「頼む……マジで」
ヴァルとしては、貴族の社会に興味はない。
どちらかというと、自由に生きたい方だ。
爵位を一つ上げたので、家には十分貢献したと思うが……どこかで父と話し合う必要がありそうだ。
貴族の問題はとりあえず棚上げして、次の話題に移る。
「こっちが本題なんだけど……」
腰から黄金の鞘を取り外し――
「カリバーン、紛失しちゃった」
「……」
「金は払うから、新しいのをって泣いてる!?」
急にミナは号泣し始めた。
体が大きいせいか、涙の量も多い気がする。
「ヒグッ、私との、婚約祝いを」
「すまんごめん! どうしても必要だったんだ。……使わなければ、死んでいた」
「や、冗談ってもんですよー」
ケロリと泣き止み、涙を拭いながら。
「本当に必要だったんでしょ? なら仕方ないよ」
「……すまん」
「前のカリバーンはワーフ爺が作ったんだ。紹介状を書いてあげるから、ワーフ武器店に行くといいよ」
「ありがとう」
カリバーンの剣もどうにかなりそうで良かった。
他に聞いておきたいことは無いかと、ヴァルが考えていると、次はナートが口を開いた。
「私たちは……複雑な理由から魔王との戦線に加わろうと思っています」
「それは心強いね」
「今の戦況は?」
人類最北の都市、言いかえれば魔王領に一番近い都市であり、メタトル家は戦争の指揮権を持っている。
新聞で大体は分かっているが、折角だからミナの口から聞いておきたい。
「まだ探り合いの段階だね。時折魔物の小隊がここまで来ることもあるし……こっちの斥候が帰って来ないこともある」
「……そうか」
「まあ、勇者一行が四天王の一人を倒してるから、少し有利とも言えるかな。丁度今も四天王の一匹、フィクロストの討伐に向かってるよ」
「それは知らなかった。……アイツら、元気にしてるか?」
「うん。よく夜の街で発見報告があるね」
……とりあえず、元気そうで何よりだ。
あまり会いたいとは思わないが。
「色々ありがとう。ミナから聞いておきたいことはあるか?」
「うーん、じゃあ……私のこと、好き?」
「グハッ!」
急に爆弾を投じられ、噴き出してしまった。
ナートとヘッグは黙り込み、リサは口をふさいで笑いをこらえる。
「お前そんなキャラだっけ!?」
「そうですとも」
「……俺達の婚約は貴族の政略結婚であって恋愛感情とかは別に必要ではなくそもそも一年に数回しか合わなかった俺達の間に愛情が生じる余地は(早口)」
「私は、好きだよ?」
「どうしてですか?」
「強いから」
一瞬で断言した。
メタトル領は人類最北の都市であり、魔王領と接している。
そのため、メタトルには人類全体から強者が集まり……強さ一番という風潮がある。
ちなみに、金の剣を作る技術があるのも、武器を作る技術が世界一必要とされているからだ。
「それで、ヴァル君は……私のこと、どう思ってる?」
(……たった今めんどくさい女になりそう)
ミナのことは嫌いではないが、公爵令嬢となると色々と面倒だ。
とはいえ、ここまで色々なことを教えてくれた彼女に、変なことを言うのは気が引ける。
ヴァルが答えあぐねていると――外から声が聞こえてきた。
「勇者が帰って来たぞー!」
「お、ヒリックが帰って来たみたいだ、見に行こうぜ!」
「そうですね!」
「行こー!」
「そういうことにしといてあげるか」
「ちょっと、答えてよー!」
窓を空けて、そこから全速力で出て行った。
「ありがとうヒリック」
こんなことでアイツに感謝することになるとは思わなかった。
ミナ・メタトル
身長230センチの大柄、しかし細身。
その為、たまに巨人と間違えられる。好物、酒。




