三十一万 海淵のフィクロスト
久しぶりの登場なので
【勇者】ヒリック
【賢者】ウィズマ
【聖女】セイン
【聖騎士】ラティ
エストトの崩壊が進行している頃。
勇者一行は四天王の一角、海淵のフィクロストのいる城に攻め入っていた。
何故か洪水のように足首まで浸されている水にイライラしながら、城を進む。
「あー、面倒ですね」
「仕方ないだろ。そろそろ成果を上げないとだからな」
「ウェルガン・ロボ二号の屑鉄をぶっ壊したばっかじゃん。もう圧力掛けられたの?」
一行は、数週間前に同じ四天王である鉄の魔物、鋼越のウェルガン・ロボ二号を討伐したばかりだった。
苦戦はしたが、そこまで強くもなかったので、今回も大丈夫だと――
「ん! 接敵です! 行きますよー!」
「おい、突っ込むなよ!」
斥候を担っていたラティが敵を発見し、足元の水を押しのけながら、盾と剣を構えて突っ込んで行った。
相手は、湿地に生息するリザードマンの集団。
「リザッ!」
「オリャー!」
トライデントのような形をした槍を左手の盾で受け流し、右手の剣でザックリと切り込んだ。
しかし、リザードマンは大量にいて、一瞬で囲まれてしまう。
「〈ディフェンス〉」
「〈ファイアランス〉」
そのカバーとして、セインが防御上昇の支援魔法をよこし、ウィズマが炎魔法を放つ。
ラティに集中していたリザードマンは炎に焼かれ、防御が上がったラティがダメージを気にせず暴れ出し、
「〈紅錬斬り〉」
ヒリックが全てを蹴散らした。
ラティは、剣の血をふき取りながら、
「よーし。結構連携も洗練されてきたんじゃないですか?」
「……そうだな」
ヒリックは、今でも少し考えてしまう。
別に、ヴァルでも同じことはできたのではないかと。
「……一応弟だからな」
「何か言った?」
「いや、何でも。早く行こうぜ」
「そうですよ。こんなに水に触れていたら、かぶれてしまいます」
城の構造的に、もうすぐ主であるフィクロストのいる玉座に着くだろう。
その証拠に、さっきから魔物の数が増えている。
「フィクロストってどんな奴だと思う?」
「こんな城だから……やっぱり、リザードマンの進化系とか?」
「意外と蛇系の奴だと思います」
「ん、それっぽいのありましたよー」
そんな会話をしている内に、玉座らしい大扉の前に着いた。
門前に敵はいない。中に固まっているのだろうか。
「準備はいいですか?」
「おう」
「いいよ」
「どうぞ」
「オープーン!」
ジャバー!
ラティが扉を開けた瞬間。
大量の水が流れ出し、四人はその奔流に飲まれた。
「ンン!」
「がぼがぼ!(〈窒息耐性〉!)」
セインが窒息耐性を付与し、なんとか溺れるのを阻止する。
ヒリックは感謝しようと、セインの方を見……彼女が四本指を立てていることに気付く。
タイムリミットは四分。
「……」
撤退も考えたが、せめてフィクロストの姿を見ておきたい。
扉の中を指さして継続の意志を示し、三人もそれに頷いた。
フィクロストもこちらを誘っているのか、水の流れは扉側に向かっている。
ラティを先頭に、ヒリックが続き、最後にウィズマとセインが並び、一行は玉座に突入した。
玉座は円柱状のかなり広い空間で、フィクロストはその中心に佇んでいた。
その正体は、魚。
足は無く、完全に水の中に特化していて、蛍光に淡く光り輝いている。
額には鋭利な一角。
そして、サメのように鋭い牙。
「ヴァアアアアアア!」
その声は水中にハッキリと轟いた。
異形の姿に少し戸惑ったが、やることは変わらない。
「がぼがぼがぼ!」
ラティが口から泡を出し、フィクロストを引き付ける。
奴は一転してから彼女に標準を定め、角を先端に突っ込んで行った。
ギュン!
矢のような、凄まじい速度。盾に綺麗な穴が空く。
しかし、彼女はしっかりと反応し、穴が空いた盾で攻撃を逸らして、肩を少し掠めるのみにとどめた。
「ガッ」
「〈光の奔燗〉」
「〈聖剣〉!」
そこに、ウィズマが光魔法のレーザーを放ち、ヒリックが横腹に切り込む。
セインが無言でかけた多重の強化もあってか、その刃はすんなり入り、フィクロストの腹に穴をあける。
だが、奴はあまり気にする様子もなく、
「ヴゥウウウ」
「がぼ!?」
角が刺さった盾を強引に奪い取り、こちらから距離をとりながら、それをバリバリと噛み砕いた。
愛盾が粉々になっていく様子を見て、ラティが水の中でも分かるくらいの泣き顔を浮かべる。
「がーぼがぼ!」
「……!」
空気を出し過ぎだと、セインがラティの後頭部を殴った。
残り三分。段々苦しくなってきたという実感が、三分という時間に確信を持たせる。
彼女の性格からして、三分というのは十分に活動できるタイムリミットだろう。
撤退経路も考えながら、次の攻撃に備える。
盾を砕いたことだし、また突っ込んでくるかと思いきや、
「ヴァアアアアアア!」
「ッ!」
奴の周りの水が流れを変え、棘を形作った。
見えにくいが、確かに殺意が詰まっている。
「ヴッ!」
「がぼ!」
かなりの速度だったが、ヒリックとラティが協力してそれを弾いた。
盾が無いラティは左側の防御が甘くなっており、棘の一つが腹に刺さるが、瞬時にセインがそれを治す。
そのまま、特に有効打を与えられないまま、時間のみが過ぎていった。
やはり、水の中だと動きにくいか。
何より、連携が取れないのが辛い。
なんとか攻め手を考えていると――声が、直接頭の中に語り掛けてきた。
『二号の奴がやられたというから、どんな奴かと思いきや、その程度か』
「……」
魔王軍の四天王なのだ。擬人化で人並みの思考力を持っていたとしても不思議ではない。
『だが奴は四天王の中でも最弱。アレで四天王の尺度を計られても困る』
「がぼがぼ(うっせえ。拮抗してんだろ)」
適当に言っただけだが、伝わったらしく――
『それはどうかな?』
「ガッ」
圧力。
大きな水圧が、ヒリック達を襲う。
(どうして急に……)
見回すと、ウィズマがとても苦しそうにしている。
そういえば、彼女は途中から攻撃に参加していなかった。
どうやら、フィクロストが強める水圧に対抗してくれていたらしい。
水のせいでヒリック達に伝えることもできず、一人で必死に食らいついていたが、とうとうその均衡が破れた。
眩暈がする。
鼻や耳から血が吹き出しそうになり、目玉が飛び出しそうな感覚に襲われる。
その時。ヒリックは無意識にヴァルを探した。
そういえば、こういう時は何だかんだでヴァルが何とかしてくれたのだ。
緊急脱出装置が無いことに気付き――初めて死を身近に感じる。
(嫌だ、死にたくない!)
今までは、言ってみればゲーム感覚だったのだ。
心のどこかで『大金を払えば、最悪ヴァルが何とかしてくれる』という思いがあった。
だが、そのヴァルはもういない。
死を回避することができない。
命の保障がない。
恐慌で動けなくなり、その間にフィクロストはまた突撃しようと狙いを定める。
そんな中、一人だけ動く者がいた。
「〈聖撃〉!」
ラティが、思いっきり壁を破壊した。
バシャー!
高くなった水圧によって、水が勢いよく外に流れ出す。
大きな水の流れから、突撃の照準はズレ、四人は部屋の外に投げ出された。
そのまま、水に乗せられて城の中を流れる。
要所要所でラティが壁を壊し、一行は外の荒野に出た。
「ゲホッ、ゲホッ!」
「撤退! 撤退!」
魔力切れで昏倒しそうなウィズマをラティが背負い、四人は人類領へと逃げて行った。
『……逃がさんぞ』




