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第8話 膝枕しているだけなのに、私の方がドキドキします。

 ――あれから数日後。


「この前は……ありがとっ」


「まぁ、お礼なんてめずらしいっ」


 放課後、いつものように二人で私の部屋へ来るなり、リサから感謝の言葉が飛び出した。


「でも、元気になったようでなによりです。にがーいお薬も頑張って飲みましたしねっ?」


「うっさい! シャーっ!!」


 まるで猫のように両手を構えて威嚇するリサ。

 よほどあの時恥ずかしかったんですね。


 あれ以来、リサはクラスでも誰彼構わず突っ掛からなくなりました。

 私とのやりとりは相変わらずですが……昔の距離に戻れたことが、嬉しくて仕方ありません。


「……リサ、今日こそは」


「うん、なんかできそうな気がするっ」


 皆まで言わなくても伝わっていた。

 私はいつもの通り、机に魔法陣を描いた紙を用意する。


「では、手を」


「んっ」


 しっかりと手のひらを合わせる。

 すると、リサは迷わずに指を絡めてくれました。


 そしてなんの合図もしてないのに互いの魔力は同調する。

 呼吸もバッチリで……これなら、きっと……!


 ――そして、魔法陣の上にじわじわと魔法石が形を成していって……。


「……これは」


「できた……んじゃない! レノン!?」


 綺麗に形作られ、濁りもない。

 今までとは比べ物にならない完成度でした。


「やりましたよリサ! これで無事卒業できますよ!」


「やったわっ!! これで卒業まで安心して遊べるわっ!!」


 それは少しどうなのでしょう……。

 でもとりあえず今は――


「さっそく確認しましょう! 今、鑑定の魔法陣を用意しますね!」


「早く早くっ!!」


 私は試験用に配られた鑑定用の魔法陣の上に魔法石を乗せ、魔力を注いで起動する。

 結果は――



◇



「ええっ! これでも不合格なのっ!?」


「そう……みたいです……」


 魔法陣が弾き出した鑑定結果は、七十点。

 合格には、百点が必要だった。


 形も整って、濁りも消えたのに。

 ……見た目だけでは、わからないということでしょうか。


「ちゃんと鑑定できてるんでしょうね!? この魔法陣の精度が悪いんじゃないのっ、このっ……」


「わーっ! おバカさん! 紙を破ろうとしないでくださいっ!! 先生が用意した鑑定用の魔法陣なんですから、結果を疑っても仕方ないでしょう!」


 私は慌ててリサから紙を奪い取る。


「だって〜……」


 ぼふんっ、という音と共にリサは私のベッドへ仰向けに倒れ込む。


「私も気持ちは同じです……というか、今の私たちならこのまま成功してもおかしくないと思いますもん」


 私もわけがわからないまま、ベッドへ腰を下ろす。


「……どうして、なのでしょう」


 私は顎に手を当てる。


 私とリサの確執は、間違いなく解消しています。

 昔のように心から笑い合って、先ほどのように手だって自然に繋ぎ合えます。

 心だって……重なっているはず……なのに。


 それでもなお、なにが足りないと言うのですか……。


「……レノンっ」


「なんですかリサ……今考え事を――わっ……」


 リサは急に、私の膝へ頭を預けてきた。


「ちょ、なんですか急に……」


 太ももへ、リサの頭の重みがふわりと乗る。

 それは温かくて、少し気持ちよかった。


「アンタ、なに難しい顔してんのよっ」


「……せっかく貴女と元の仲になれたのに……この結果が納得いかなくて……」


「それはアタシも同じ。だからアンタが一人で悩むことはないでしょ?」


「ですけど……でしたらなんで――わぷっ!?」


 するとリサは膝の上から両手を伸ばし、私の頬を揉みしだき始めた。


「ちょっ! リサ!! モミモミするの……やめっ……」


「あの魔法石よく見なさいよ! 前よりずーっと良くなったわよねっ?」


 お次は魔法石が置かれた机の方へ、顔をぐいっと向けられる。くっ……首が……。


「え、ええ……形も、色も、数段良くなっています」


「ならいいじゃないっ!!」


「うわっ!?」


 今度は頬を引かれ、膝の上のリサの顔すれすれまで引き寄せられる。

 彼女は透き通った青い瞳で私を見つめ、にっこりと笑った。


「アタシは……勝手にアンタから離れちゃったけど、今こうして一緒にいられるようになって……その、う、嬉しい……のよっ」


 リサは私の目の前で顔を真っ赤にして呟く。

 でも目は合わせたままで……。


「だ、だからっ!! なんだかんだこうして前に進めたんだから! これからだってもっと二人で前に進めるってことよっ!!! ねっ? レノンっ」


 彼女は白い歯を見せて、眩しく笑った。


 ドキっ――


「……えっ?」


 その瞬間、ぶわぁっと頬が熱を帯びる。


 ……あれ、なんか……変じゃないですか。

 リサの顔なんて……毎日見てるのに。


「……っ」


「……? レノン? なにか言いなさいよっ?」


 顔を近づけられているから? だからこんなに胸の高鳴りが収まらないんですか?

 今まで気にも留めていなかったことまで、急になにもかも意識してしまう。


 さらさらとした綺麗な金髪が太ももをくすぐる。

 見上げてくる瞳も、長いまつ毛も……なぜか今日はいつもよりずっと綺麗に見えて――


「ねえ……? アンタ顔赤いわよっ? もしかしてアタシの風邪移しちゃった?」


 リサが頭を少し起こした――


「ひゃぁ!?」


 ……と思ったら、私のおでこに自分のおでこを当ててきました!?


「ひゃぁ、だって! ふふっ。この前のお返しよっ」


「き、き、急になにを……!」


「やられっぱなしはアタシも好きじゃないのよっ。ふふんっ♪」


 そう言って、また私の膝へ頭を乗せる。

 そしてリサは心地良い場所を探すように、私の太ももへ頬を預け直した。


 ……なんだか、この前を経て積極的になりましたかこの子は……?


「まあでもレノンとこうして過ごす時間は、アタシ好きよっ」



『だいすき……よっ……』



「っ!?!!」


『好き』という言葉につられて、あの日のリサが脳裏に蘇る。


 おかしい、おかしすぎます……。

 なんで今日は、リサの顔を見ているだけでこんな落ち着かないんですか!!

 昔だってこうやってたくさん遊んでいました!! 


 なのになぜっ――


「……なんかアンタの太もも、かなりぷにぷにしてるわねっ」


 ピキっ。

 聞き捨てならない言葉に、額がピクリと引きつる。


「めっちゃ弾むし、気持ちいいっ! でもアンタ……やっぱり前より太っ――」


 言い終える前に、私は両太ももでリサの頭をがしっと挟み込んだ。


「うわっ! なにレノンっ! あっ、やっぱ柔らか――」


 そして、そのまま――


「だーれが、太ったですって〜〜〜!??!!?」


 ぐぐっと力を入れて、むぎゅっと挟み込んだ。


「いでででででっ!?!? レノン!!! ギブっ、ギブっ!!!! つぶ、潰れるっ!!!!」


 するとリサは、私の太ももをぺちぺちとタップする。

 ですがそんなの知りませんっ!!


「乙女に向かってなんてこと言うんですか貴女は!? 太ったって!? 肥えたって!?!?」


「言ってない!!! まだそこまで言ってないわよっ!?」


「『まだ』ってなんですっ! 言うつもりだったんじゃないですかぁあーーーーー!!!」


「ぎゃーーーー!!!!!!」


 ――絶対にありえません。

 こんなデリカシーの無い幼馴染なんかにドキドキしたなんて……。


 絶対にありえませんからぁっ!!!



ここまでお読みいただき、ありがとうございます!


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次回もよろしくお願いいたします!

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