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第5話 訓練デートなのに、そんな下着で来たんですか!?

「うーん……まだ上手くいきませんね……」


 放課後、いつものように私の部屋でリサと魔法石生成の訓練をしていました。


「黒コゲじゃなくなったけど……これはまだ魔法石とは呼べないわね……」


 リサは石をつんつんと指で弾く。


「やっと貴女も手を繋いでぎゃーぎゃー言わなくなったのに、道のりは険しいですね」


「ぎゃーぎゃーってなによ! ……とはいえ、もうちょっと上達していかないと試験に間に合わないよね」


 確かに、このままでは留年になりかねません。

 なにかもっとリサと心を合わせられる方法はないのでしょうか……。


「そういえばずーっとレノンの部屋で訓練してるからマンネリしてるとかじゃない?」


「いや別に魔法石生成するだけなんですから場所なんて……」


 ――場所なんて……?


「なるほど。リサ、珍しく冴えてますね」


「珍しくってなによ! 一発食らいたいの!?」


 そう言って拳を握ったリサの手を、私は掴む。


「リサ、明日の休日はデートに行きますよっ。九時頃に待ち合わせましょう」


「たくっ……しょうがないわね。デートに付き合ってあげ――はぁ!?!?」


「遠出なので、箒も忘れずにですよっ」


 わなわなするリサに、私はにっこりと返した。



◇



 ――翌日、とある運動公園にて。


「遅いっ!! デートに誘った人間が遅れてくるなんてどういうつもり!?」


 リサはぷんすこ待ち構えていた。


「えー……っと、リサ? ずいぶん早いのですね?」


 時計を取り出す。

 私も三十分前には来たのですが……。


「もしかして、かなり前から待ってました?」


「っ!? そ、そ、そんなことないわよ! 今来たとこよ!!」


「いやいやどっちですか……って」


 そんなリサを改めて見つめる。


 黄色のチェック柄ワンピースに胸元の黒いリボン。ふわりと広がる短いスカートが可愛らしい。


「そんな気合いの入った服、持っていたのですね」


「べ、別に普通よ! 悪い!?」


「いえっ、似合っててとても可愛いですよ」


「っ! と、とーぜんよ!! アンタだって、その長くて赤いスカートが似合ってるんじゃない!? き、綺麗……よっ」


「まぁ。リサから褒められるなんてっ、雪でも降るんじゃないかしらっ」


「降らないわよっ!!」


 私は白ブラウスに深紅のリボン、ハイウエストのロングスカート姿だ。


「……って、なんで地元で待ち合わせなの?」


「待ち合わせもなにも、ここでデート兼訓練するんですよ。言ってませんでした?」


「……はぁ!? なによそれっ!! 期待して損したじゃない!!」


 期待……? まあとりあえずいいです。


「怒らないでくださいよっ。デートはデートです。この思い出の地なら、魔法石生成も進むと思いましてね」


 そう伝え、私は近くの出店で買っておいたフルーツジュースを差し出す。


「はい、リサ。機嫌を直してくださいよっ」


「ジュースでご機嫌取ろうだなんて……ごくごくっ。そんな子供じゃあるまいし!!」


「いや飲んでるじゃないですか」


「うるさい! 喉乾いてたのよっ!」


「はいはいっ。にしてもこのジュース、昔は銀貨三枚だったのに、今は五枚でしたよ」


「えっ? そんなになってるんだ」


「時代の流れって恐ろしいですね……」


「……まあしょうがないんじゃない? 変わっちゃうものは変わっちゃうのよ」


 確かにリサの言うことも一理ありますね。


「……あっ! レノン見てあれっ!!」


 リサが一目散に走り出す。


「ちょっ! 待ってください!!」


 追いつくと――


「懐かしいわねこれっ! よく二人で遊んだやつよ!!」


 そこには、穴を潜って遊ぶドーム状の遊具があった。


「懐かしいです……けど、こんな小さかったですか?」


「あんまり変わらないわよ! レノンには無理だけど、アタシは平気よっ!!」


 私を横目に、穴へ潜り込む。


「……ちょっ、えっ!? う、動けないっ……!!」


……が、すぐに足をバタつかせた。


「リサさーん? 平気じゃなかったんですかぁ〜?」


「う、うるさい! いいから助けてよぉ!」


「はいはいっ。今引っ張りますよ……と……?」


 穴の前まで来て、私は言葉を失った。


 めくれ上がったスカートの下には、腰を細いリボンで結んだ黒レースのショーツ。

 薄いレース越しに白い肌が透け、お尻を隠すより見せつけるような際どさだった。


「ねえレノンなにしてんの! 早くしてって――」


「……貴女、随分とエグいパンツ履いてるのですね……?」


「えっ? パン――っ〜〜〜!!?!?」


 リサが遊具をばしばしと叩く。


「なにまじまじと見てんのよ変態!! いいから早く引っ張ってっ!!」


「あ、あら……すみませんっ。じゃあ、せーのっ――」


 うずっ。


 丸出しのお尻に、少しだけイタズラ心が疼く。


「……えいっ」


 ぱしんっ、と健康的なお尻を叩いた。


「ひゃぁんっ!!♡」


「!?!?!」


 なっ、なんて声出してるんですか!?


「す、すみませんリサっ……つい出来心で……」


「……えっ」


 リサは両手をつき、無理やり抜け出して――


「えっちっ!!!!!」


「ふぐぁっ!?!」


 恐ろしく早いビンタが炸裂した。


「ほんっっと信じらんないっ!! いつからそんなんになったのよっ!!」


 リサは涙目でスカートを押さえる。


「出来心ですって!! というか昔は可愛いパンツを履いていたのに、趣味変わったのですか?」


「昔のパンツなんて思い出すな! こんなの毎日履くわけないでしょ! 今日は……っ」


「……今日は?」


「っ〜〜! なんでもないっ!!」


 そのあと、ぷんすこするリサと思い出話をしながら、出店のお菓子をつつき、思い出の場所を一通り巡った。



◇



「……なんか、こんな場所だったっけ? レノン」


「ええ……記憶の景色とは、随分変わってしまいましたね」


 二人でベンチに腰をかける。


「ジュースもお菓子も高いし、遊具も減ったし。この辺だって森だったのに、建物ばっかり増えて息苦しいわよっ!!」


「……ごめんなさい。私の見込みが甘かったようで」


 ここへ来れば、あの頃みたいに笑い合えると思ったのですが……。


「べ、別にレノンが悪い訳じゃないでしょ。それに全部変わったわけじゃないし……」


「……」


 せっかくのデートなのに、会話も続かない。

 これじゃシンクロも……。


「リサ、今日はこの辺でお開きに――」


「あっ! そうだっ!!」


 リサが突然立ち上がって、箒を取り出す。


「レノン! 後ろにのって!」


「えっ? 二人乗りはバレたら違反切符を切られますよ?」


「いーから! すぐそこに行くだけだからっ!」


 理由は言わない。

 ただ、表情は真剣だった。


「……わかりました」


 リサの後ろに跨り、とある丘の近くまで飛んだ。


「ここって……」


 私はリサに手を引かれ、丘を登る。

 すると――


「……街が、あんなに小さく……」


「子供の頃、まだ箒に乗れなくて、よくここから眺めてたよね……ほらっ! レノン、見てっ!」


 リサが地平線を指差す。

 沈みかけた太陽が、街を柔らかな朱色に染めていた。


「……夕焼け、こんなに綺麗だったのですね……」


「よかったじゃないっ。変わらないものもちゃーんとあってさっ」


 リサは肘で小突く。


「貴女……私に気を使って……?」


「ちがっ! そんなんじゃないわよっ! デートって言われて期待して損してたぐらいだっての!」


「その節はごめんなさい。――でも……」


 リサの頭に手を伸ばす。


「ふぇ!? っぁ……」


「ありがとう。貴女のおかげで楽しかったです。リサっ」


 リサの綺麗な金髪を、優しく撫でた。

 また「うるさいっ」て、弾かれちゃいますかね。


「……っ」


 リサは俯いたまま――


「そ、損したってのは……嘘。なんだかんだ楽しかったから、その、ありがとっレノンっ」


 私の手を、自らの頬へ当てた。


「……っ!」


 貴女そんな可愛いことできたのですかっ。

 ちょっとドキドキするじゃないですか。


「……」


「……」


 静かに見つめ合う私たち。


「レノン、今ならいけるんじゃない……?」


「……ええ、試してみましょう」


 頬に触れていた手を、そのままリサの手に絡める。

 もう片方の手のひらを上に向けると、リサも下から重ねてくれた。


「いきます、リサ」


「うんっ」


 今の私たちにそれ以上の言葉はいらなかった。

 やがて重ねた手に、魔法石が形を成した。


「でき……た? もう黒コゲじゃないわよね……」


 リサはポカンとそれを見つめる。


「……形は完璧ですが、まだ濁っています。もっと透き通らないと、合格にはなりません」


「なぁーんだっ。ならまだまだ訓練に付き合ってあげるわよレノン!」


 夕焼けを背に、リサが眩しく笑った。


「ふっ、なんで嬉しそうなんですか?」


「そういうアンタだって、口元ゆるんでるっつーの」


 そう言われ、慌てて口元を隠す。


「はぁー! なんだかお腹空いたわねっ。ご飯でも食べて帰ろうよっ!」


 リサが手を離して伸びをする。

 少しだけ、名残惜しかった。


「いいですねっ。私、良いお店知ってますよ」


 箒を取り出し、後ろをポンポンと叩く。


「あれー? 二人乗りは違反切符切られちゃうんじゃないのー?」


「近くだからいいんですよっ」


 笑って顔を見合わせ、リサが後ろへ跨る。


「ちゃんとつかまっててくださいねっ!」


 ぶわっと空へ舞い上がる。

 楽しかった思い出の場所が、だんだんと小さくなっていく。


「……ねえレノン」


「んっ? なんですか?」


 ぎゅっと、リサが私の腰を強く抱きしめる。


「また……来ようね」


 ……なに言ってるんですか貴女は。


「ええっ、何度でも」


 今日のデートのおかげで、魔法石は初めてちゃんとした形になった。

 私たちも、ずいぶん昔みたいに戻れた気がする。


 ……でも、あの石はまだ濁ったまま。

 私たちの心に、いったいなにが足りていないというのですか――


ここまでお読みいただき、ありがとうございます!


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