第4話 怒って飛び出したのに、逃げ込む先はアンタの部屋。―リサside―
――レノンから合鍵をもらった、その日の夜。
「レノンの……合鍵……」
アタシは自室のベッドで仰向けになっていた。
『はいっ。私の部屋の合鍵です。いつも部屋の前で待たせているのは悪いですから、これで先に入っていて構いませんよっ』
手渡されたその鍵を、アタシはぎゅっと握り込んだ。
「いつでも来ていいって、ことよね」
やった。またレノンと昔みたいに、いられるかもしれない。
こんなアタシにもチャンスが巡ってくるなんて……思わなかった。
――でも。
「……アタシから離れていったのに、都合……良すぎる……よねっ」
◇
――次の日。
「……本当に、いいのよね?」
合鍵を使って、レノンの部屋へ入る。
何度も来てるのに、自分で鍵を開けるだけで妙にそわそわする。
「って! 別に合鍵もらって浮かれてるわけじゃないんだからねっ!!」
……誰に言っているのよ、アタシ。
その時、扉が開く。
「……遅いっ! どこほっつき歩いてたのよっ!」
と、慌てて腕を組んだ。
それから、日に日に遠慮もなくなっていった。
レノンの椅子で魔導書を読み、私物も少しずつ置いた。
子供の頃、互いのお家におもちゃや魔導書を置いていたのを思い出した。
ある日は、棚からお菓子を勝手につまんだ。
余計な一言まで口にして、魔法で操られたスリッパに頭を叩かれたけど。
でも、なんか心地いい。
……昔からこうやってじゃれ合ってきたもんね。
◇
――さらに翌日。
「もういい!! 知らないっ!!!」
クラスメイトの前で赤っ恥をかかされ、そのままアイツの部屋へ逃げ込んだ。
……って、レノンに怒ってるのになんでここに来てるのよアタシ。
「あーもう! なぁにが『返事は?』よ! レノンのばかっ!!」
腹いせに、ベッドへ飛び込む。
「……あんな言い方、しなくてもいいじゃない」
あの時の冷たい目は、すっごい嫌だった。
それに……なぜか昔から、レノンには逆らえない。
でも、間違ってることをちゃんと言ってくれるところは……多分、好きなんだ。
なのに、クラスメイトにはあーんな見え見えの作り笑いするのよね。
アタシには絶対そんな顔しないのに……えへへっ。
「……って! なに嬉しがってんのよアタシは!!」
すると、だんだんまぶたが重くなってきた。
「ふぁあ……あれ、ちゃんと寝たはずなのに……」
ベッドから感じるレノンの匂いが、不本意だが心地いい。
「……これじゃ、レノンのこと言えないわよっ」
昔から髪を整えてもらうのが嬉しくて、わざとぐしゃぐしゃにして会いに行ってたっけ。
ずっと世話を焼いてくれたレノンの匂いを……体が覚えてるんだ。
でも……アタシから急に距離を置いちゃって、レノンはどう思ったのかな。
今はまた、二人でいられるけど……。
そんなことを考えているうちに、まぶたが閉じていった。
「――はっ!?」
しまった、あのまま寝ちゃって――えっ?
「……くぅ……くぅ……」
すぐ目の前で……レノンが、寝て……。
「うわあああああーーーー!!!?!!!」
飛び起きたレノンに、アタシは慌てて文句をぶつけた。
だって……こんな近くで寝てるなんて、思わないじゃない。
なのに――
「そこまで言うならもう私のベッド使わなければいいでしょう!?」
「べ、別に使いたくないなんて言ってないわよっ!!」
「いやそれどういう……」
「だ、だって……アンタの匂いで、安心して眠れるから……あ……!!」
ば、バカ!! なに口走ってるのアタシ!?!?
「は、はい? 貴女なにを……」
レノンが目を丸くする。
やだ……そんな顔で見ないでっ。
今のは……忘れてっ!!
「な、なんでもないんだからぁーーーっ!! この変態ぃーーーーっ!!!!」
そのまま部屋を飛び出した。
「はぁ……! もうっ!! ……あっ」
廊下を駆けながら気づく。
「上着……ベッドの上に置いてきちゃった……」
でも今日はもう戻れない……。
「……いや。レノンなら、明日持ってきてくれるでしょ」
そう信じて、自室へ戻った。
◇
――翌朝。
「ふあぁ……」
クラスメイトに上着のことを知られないよう、誰よりも早く教室へ来た。
すると――
がらっ。
「おや、早起きさんですね。リサ」
「れ、レノン!? ふん! そっちだって早起きじゃない。どうしたのよっ」
「どうせ貴女のことだから一番にいるんじゃないかってね。はい、どうぞっ」
レノンはカバンからアタシの上着を取り出した。
「本当に……持ってきてくれた……」
それを静かに受け取る。……えへへっ。
「こほんっ!! ありがたく受け取るわっ! それよりっ、アンタすぐ匂いを嗅ぐけどこの上着で変なことしてないでしょうね!?」
「えっ!?!? そ、そそ、そんなこと――」
「あーっ!? なにその反応は! アタシの上着でナニしたのよっ!!」
「変なこと言わないでください!! ……匂いを嗅いだだけです」
「結局嗅いでるじゃない!! ばか! えっち!! 変態レノンっ!!」
「しーっ!! 誰かに聞かれていたらどうするんですおバカっ!!」
レノンが一気に距離を詰め、アタシの口を手で塞いだ。
「っーー!!?!?」
か、顔が、近っ――!!
「はぁ……と、とりあえず私は席に戻りますからね。これ以上変なことをクラスで言わないでくださいよ!!」
レノンの手が口から離れる。
「ぁ……」
やだ、離れ……ないで。
俯いたまま、レノンの服の裾をぎゅっと握る。
「り、リサ? どうしたのですか……?」
そりゃ困るよね。今までちゃんと口に出してこなかったんだから。
自分から離れていったのはわかってる。
でも、もしね……アンタが……許してくれるなら……。
アタシは――
「き、今日はその……レノンと一緒に、部屋に……行きたいかな……って」
なんとか……言えた。
「……っ」
でも、レノンは困った顔のまま。
……やっぱ、ダメだよね。
早く「なんでもない」って言わないと――
「……ふっ」
「えっ……?」
レノンは、ニヤリと笑う。
「なにを言い出すかと思えば全く……子供ですか貴女は? おてて繋いでいきましょうか〜??」
「っ〜〜〜!!! なによ!! 笑いたかったら笑いなさいよっ!!」
恥ずかしくて、裾から手を離そうとした――その時。
「いいですよっ、放課後。約束ですからねっ?」
「へっ……?」
レノンはアタシの手をぎゅっと握ってくれた。
「べ、別に嬉しくなんかないんだから! ただいつも待ちぼうけなのがつまんないだけだからっ!! 勘違いしないでっ!!」
「はいはいっ、それでいいですよ。ではまた放課後、ねっ」
レノンは柄にもなくウインクをして、手を離す。
今度は、その手を追いかけなくても平気だった。
アタシは自分の席に腰を落とし、顔を伏せる。
どくん、どくんと心臓がうるさい。
「……あ、ありがと。レノンっ」
今はこれが精一杯。
ああ、放課後がこんなにも待ち遠しいなんて。
「……早く、時間過ぎないかなっ」
こんなふうに、またレノンの隣にいたいと思ってしまう。
本当は、こんなに近づいちゃいけないのに。
だって、アタシは――
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