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第3話 合鍵を渡したら、私のベッドまで占拠されました。

「……遅いっ! どこほっつき歩いてたのよっ!」


「え、ええ……委員会のお手伝いで遅くなりましたっ」


 合鍵を渡した次の日の放課後、部屋に戻るとリサが腕を組んで待ち構えていた。

 ……使ってくださいとは言いましたけど、こんなすぐに?


「うかうかしてたらあっという間に期限になっちゃうんだから、やるわよ!」


 ――さらに次の日。


「あっ、やっときた! 遅すぎて読書できちゃったわよ!!」


 今度は私の椅子で、魔導書を読んでいた。


 ――さらにさらに次の日。


「あっ、おかえり。もぐもぐっ」


 今度はなにかを頬張って、私を出迎えていました。


「……って、それ私が買ったお菓子なんですが?」


「いーじゃない、少しぐらい! 全部食べたら太っ――」


 すぱぁんっ!!!!


「いったぁい!! なにすんのバカレノン!!」


 私は言わせまいと杖を振って、スリッパを浮かせてリサの頭を叩いた。


「はぁ……いつから貴女はそんなノンデリさんに……」


 と、呆れながら部屋を見回す。

 いつのまにか部屋には、リサの読みかけの本や、羽織物、魔法の杖の掃除道具が散乱している……。


「貴女……ここは私の部屋なんですよ? こんなに私物を持ち込んで……」


「い、いいじゃない! どうせ卒業試験までは通うことになるんだし……そ、そうよ! 効率化よ効率化! アンタだってよく言ってるじゃない!!」


「……まあ、そういうことにしておきます。ですがちゃんと整理整頓しないと怒りますからね?」


「わかってるわよ! ちゃんと片付けるわよっ!!」


 そう言うと、上機嫌そうに私物を片付け始めた。


 ……なんだか合鍵を渡してから、日に日にくつろぎ始めてませんか??



◇



 ――さらに翌日。


「リサ、今日はどうされますか?」


 放課後の教室で、私はリサに声をかける。


「いつも通りよっ。先に部屋に行ってるから」


「わかりました。散らかさないでくださいね? それと今日は少し遅くなるので、待っててください」


「わかってるわよ! 遅くなりすぎたらダメなんだからね!」


「はいはい……」


 いつのまにか、私の帰りを待つのが当たり前になっていません?

 などと考えていたら……。


「フルージェさん! 少しよろしいですか?」


 後ろからクラスメイトの声が聞こえた。


「……はいっ! どうされましたか?」


 相手に失礼のない笑顔を作って振り返る。


「本日の講義で理解できなかった魔法をご教示……いただけたらと……」


 すると彼女は言葉を濁し、私の後ろへ目を向けた。


「す、すみません。フォーティシアさんも、いらっしゃったの……ですね」


 リサを見るなり、クラスメイトの顔がこわばる。


「……なによその言い方。アタシが居たら文句でもあるってワケ!?」


「ひっ、そ、そういうわけでは……」


「じゃあなんだって言うのよ!? ねぇ!?」


「……リサ」


 私は割り込むように、リサと目を合わせる。


「なによ! 今はこの女と話を……」


「同じクラスメイトに、そんな言い方をする必要はないでしょう? 謝りなさい」


「はぁ!? 誰がアンタの言うことなんか――」


「返事は?」


 鋭い眼差しを、リサに向けた。


「っ……!!」


 するとリサは観念したように――


「……わ、悪かった……わねっ」


 クラスメイトへ頭を下げた。


「え……? あのフォーティシアさんが……って、あ、頭を上げてくださいっ……!」


 それを見届け、リサへ笑みを浮かべる。


「はい。よくできました」


「なっ……こ、子供扱いすんなっ!!」


 頭を上げたリサが眉をひそめると、クラスメイトが尋ねた。


「……えっと、フルージェさんとフォーティシアさんって……どういう……ご関係……?」


「っ〜〜!!」


 リサはリンゴのように耳まで真っ赤になった。


「もういい!! 知らないっ!!!」


 そう叫ぶと、教室を飛び出していった。


「え……ご、ごめんなさいフルージェさん! 今日はここで失礼……しますわっ!」


「あっ、お待ちください!!」


 クラスメイトも、気まずそうに教室を出ていった。


「……はぁ。部屋に行ったら、まずリサのご機嫌を取らないといけませんねっ」


……それはそれとして、私に拗ねたってしょうがなくないですか? ねえ?



◇



「……あらっ?」


 用事を済ませ、自室に戻ると――


「……すぅ……すぅ……」


 私のベッドで眠るリサを見つけた。


「……とうとうベッドまで侵略しましたか、この人は」


 今日も訓練の予定でしたが……叩き起こす気にはなれませんね。


「まあ……いいでしょう。それより、そんなに足を開いていたら下着が見えちゃいますよ……しょうがないですね……」


 起こさないようにリサの足をそっと揃え、風邪をひかないように毛布を掛けてあげた。


「ふう……手のかかる幼馴染ですことっ」


 ひと仕事終え、私もベッドに腰をかける。

 そして、リサの顔にかかっている髪に触れた。


「相変わらず、さらさらで綺麗ですね……」


 リサは昔から髪には無頓着で、寝癖を直してあげるのは私でした。

 日が暮れるまで遊んで、疲れて眠ったリサのそばにいたのも私。


「……少しぐらいなら、構いませんよね?」


 思い出に浸るように、私はリサの隣で横になった。


 綺麗な顔立ちに、長いまつ毛。

 私は、リサの頬に軽く触れる。


「ねえ……どうして貴女は距離を置き始めたのですか……?」


 返ってくるのは気持ちよさそうな寝息だけ。

 ……どうせ聞こえてないなら、もう一言。


「……私たち、このまま昔みたいに戻れるのでしょうか」


 すると、すぐそばからリサの匂いがした。


「……リサの匂い……なんだか落ち着くんですよね……ふぁ……」


 安心したのか、まぶたが重くなる。

 まあいいでしょう……リサより早く起きれば……。


 そう思い、私は目を閉じた。



◇



「うわあああああーーーー!!!?!!!」


「っ!?!?!」


 バカみたいな大声に飛び起きると、寝癖をぴょこっと立てたリサが真っ赤な顔でこちらを睨んでいた。


「なっ、な、な、なな……!!!」


「あ、あら。おはようございますリサ。ご機嫌いかが――」


「なんで隣でアンタが寝てるのよ!! 寝込みを襲うなんてえっちっ!! 変態っ!!」


「は、はぁ!? 襲ってませんよ!! そこまで言うならもう私のベッド使わなければいいでしょう!?」


「べ、別に使いたくないなんて言ってないわよっ!!」


「いやそれどういう……」


「だ、だって……アンタの匂いで、安心して眠れるから……あ……!!」


「は、はい? 貴女なにを……」


 すると彼女は、頭から湯気が出そうなほど真っ赤になって――


「な、なんでもないんだからぁーーーっ!! この変態ぃーーーーっ!!!!」


 ものすごい速さでベッドを飛び出し、部屋から逃げていった。


「あ! ちょっと!!」


 まるで台風が去った後みたいに静まり返る。


「……なんだったんですか、もう」


 結局、今日は訓練できませんでしたね……。


「おや? リサったら、上着をベッドにおきっぱなしです……よ……」


 リサの上着をハンガーにかけようとした手が、ふと止まる。


「……すんすんっ」


 ……やっぱり、リサがそばにいるみたいで落ち着く――


「……って! これじゃ本当に変態じゃないですかーーーっ!!」


 虚しい一人ツッコミが、部屋に響き渡る。


 ……でも。


『アンタの匂いで、安心して眠れるから……』


 さっきのリサの言葉だけが、どうしても頭から離れない。


 私のそばが、そんなに安心するなら……。


 ――どうして貴女は、私から離れたのですか。

 ……リサ?


ここまでお読みいただき、ありがとうございます!



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