第2話 指を絡めただけで、そんな声を出さないでください。
私とリサは、子供の頃からの幼馴染だ。
昔は毎日のように遊んで、魔法のお勉強も一緒にしていた。
なのに魔法学校に入学してから、リサはなぜか私と距離を置くようになった。
……だからこそ。
この卒業試験をきっかけに、もう一度あの頃みたいに戻れたら――と、私は思っていた。
◇
「……はぁ」
魔法石の生成に失敗した次の日の放課後。
私の部屋にて、リサに正座をさせていた。
「……リサ。どうして昨日『も』失敗したと思いますか?」
「知らないわよそんなのっ! てかどうして正座しなくちゃいけないのよっ!!」
しびれを切らしたリサが立ち上がろうとしたので――
「人の話を聞きなさいっ!」
と、魔法の杖を取り出して勢いよく振る。
「ふぎゃっ!!」
すると部屋の隅に置いてあったロープが宙を飛び、リサの足首に巻きついた。
小学生でも使える物体移動魔法の一つだ。
「ちょっと! なにするのっ!」
「貴女が逃げようとするからですっ! そもそもなんですか! 手を合わせたぐらいで顔真っ赤にして……シンクロ中に心が乱れたら上手く生成できないんですよっ!」
「手だけじゃないわよ! あ、アンタが腰に手を回して……おっ、おっぱいなんか押し当ててくるからぁ!!」
彼女は顔を真っ赤にして私にビシッ、と指を差す。
「そ、それにっ! 本当にアタシとアンタで魔法石なんか生成できるわけ!? 相性最悪なんじゃないの!?」
「卒業試験のペアは担任の水晶玉で決められたんです。私と貴女は、魔力の相性が良いみたい……ですよ」
「ぜーったい嘘! だったら一回か二回は成功してるはずよっ!」
「はぁ……それもこれも、貴女が子供みたいなこと言って集中乱すからですっ! 密着しないとシンクロは難しいんですから……」
「そもそも! 先生の説明だってよくわかんないわよっ! 小難しいことばっかり言っちゃってさ!」
「リサ……ちゃんと授業聞いてないでしょう? 『心を重ねるとは、ただ同じ気分になることではありません。大切なのは、心の奥が同じ方向を向いていることです』って説明なさってましたよ」
……まあ、私もきちんと説明できるほど理解してはいませんが。
リサは難しい顔のまま、声を上げる。
「あーもうわかんないっ! それができたら苦労はないわよっ! ふんっ!!」
はぁ……もー、仕方ないですね。
「わかりましたっ。まず貴女のその心の乱れからなんとかします。えいっ」
「ちょ、次はなにを――きゃっ!?」
魔力を込めてまた杖を振る。
今度はリサの両手首を、身体の前で緩くまとめるようにロープで縛る。これなら少しだけ手は動かせますね。
「ちょっと、身動き取れないわよ!」
「いいですかリサ。私がいいと言うまで大声も、暴れるのも禁止ですからね」
私はゆっくりと、彼女に顔を近づける。
「ひぅ! な、なによ……」
「まずはここから慣れてくださいねっ、と」
まずは私の手のひらと、彼女の手のひらを合わせる。
「どうですリサ? 心は乱れてないですか?」
「ふっ、ふん! 手のひらなんて今更恥ずかしがることはないわよっ! 昨日もそうだったでしょう!」
「ふむ……そうですね。これはいける……と。では次です」
「次って、まだやるの――ひゃんっ!!」
昨日と同じく、リサの腰を抱き寄せた。
「ひゃん! じゃないです。大声禁止と言ったでしょ?」
「声くらい出ちゃうわよ! アンタの手つきがえっちなのよっ! アタシを抱く気!?」
「……本当に抱いてあげましょうか?」
「ひぇ!? ばっ……! バカレノン!! なに言ってるのよ!!」
冗談はさておき、次に行きましょう。
「はいっ、次は本命です。これができないと効率落ちるんですからね?」
そしてリサの両手の指の間に、私の指をするりと入れた。
「ひっ〜〜〜〜!?!??」
「……大声出しちゃダメですからねっ?」
私はリサの耳元で囁く。
「そっ、そんなこと言ったって……んんっ!!」
「ほらっ、ゆーっくり握って……離して……」
私は指を開いたり閉じたりして、リサの手を刺激する。
このくらい慣れてくれないと、留年確定ですよホント。
「んぁっ!! ちょっ……れ、レノっ……あんっ!!」
……なんだか少し楽しくなってきましたね。
子供の頃、じゃれ合っていたのを思い出します。
私は少しだけ、訓練のことが頭から抜け始めていた。
「ほらほら〜、いっつもツンケンしてる貴女はどうしたんですか〜?」
「このっ……んんっ! ばかっ……ばかぁっ!!」
肩をびくんびくん跳ねさせて、お可愛いことっ。
「ほら、あと少しですよ。もうちょっとだけ頑張りましょうねっ」
普段はクラスメイトも先生も怖がらないくせに、どうして私にだけはこんなに弱いのでしょうね。
そこがほんのちょっぴり、可愛らしいですが。
「……さて、そろそろ終わりましょうか。大声出さない約束も守れて良い子でした……ね……」
「んっ……ふぅ……はぁ……っ!!」
リサは息を荒げ、自慢の金髪を乱して涙目になりながら顔を真っ赤にしていた。
しまった。少しからかうだけのつもりが――
「いっ……」
「えっ?」
すると彼女の手首と足首がきぃぃぃん、と光り始める。
まずい、これはっ……!
「ま、待ちなさい! 拘束を解きますから!! 肉体強化の魔法は――」
「いい加減にぃっ!」
彼女のドスの利いた声と共に、縛り付けていたロープがぶちぶちと悲鳴をあげて――
「しろぉぁっ!!!!!!!」
リサは力いっぱいにロープを引きちぎり、立ち上がる。
その勢いで、私に向かって拳を振りかぶった。
「こんのぉっ!!」
「わぁぁ! ちょっ、リサ! せめて魔法を解いて――」
「バカぁーーーっ!!!!」
ドゴォッ!!!
「ふぐわーーーーっ!!!!」
腰の入った強化パンチが私のお腹に炸裂した。
「はぁ……はぁ……ほんっっとえっちなんだから、バカレノン……!!」
「……すっ、すみません。少し調子に乗りました……ぐふっ」
私もなんとかお腹に強化魔法をかけたけど、リサの威力は凄まじくて守りきれてないです……痛い……。
「もう今日はいいわよね!? 帰るっ!!」
機嫌を損ねたリサはドシンドシンと聞こえてきそうな足音で帰ろうとしていた。
「あっ、り、リサ。待ってください。あいたたた……」
私は机の引き出しを開けて、とある物を取り出す。
「なにっ!? もうお風呂入って寝たい……んだから……」
それを彼女に見せると、言葉が萎む。
「はいっ。私の部屋の合鍵です。いつも部屋の前で待たせているのは悪いですから、これで先に入っていて構いませんよっ」
彼女は恐る恐るその鍵を受け取った。
「えっ、なによ急に……こんな物用意して……」
「別にいらないなら返してくださいっ」
「い、いらないとは言ってないわよ! どうせアタシが先に待ってるんだから貰っといてあげるわっ!!」
「……そうですかっ」
「じゃあ今日はこれでおしまい! おやすみっ!!」
相変わらず大きな声でそう言うと、踵を返して部屋を出ていく。
……去り際に、口元が笑っている気がした。
「……ふう。前途多難ですねこれは」
リサが去った部屋はしーんと静まり返る。
別に寂しいわけではない。断じて。
でも……。
「リサに合鍵、渡せてよかった……」
もし少しでも昔の距離感に近づけるならと、試験を口実に用意したものだった。
どうなるかはわからない。
それでも、期待するくらいはいいでしょう。
……明日、あの鍵を使ってくれたら。
少しくらいは、あの頃の距離に戻れたと思ってもいいですかね――
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
「面白い!」「続きが気になる!」「可愛い!」と思っていただけましたら、画面下の☆☆☆☆☆や【ブックマーク】で応援していただけると、とても励みになります!
また、【リアクション】などで反応をいただけるのも嬉しいです。
次回もよろしくお願いいたします!




