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第15話 もう会わないと言いながら、繋いだ手が離せません。

 

――あれから、数週間が経ってしまった。


「……リサ、今日こそ」


「……うん」


 私の部屋で、今日も魔法石生成を試みる。


 あれから何度も何度も試しているのに、どうしても最後のピースが埋まらない。

 魔力の流し方、呼吸を合わせるタイミング、魔法陣の描き方。思いつく限りの方法は全部見直した。

 それでも結果は、九十点台を行き来するばかり。


 そんな日々に、私たちは疲れ切っていた。


「……」


「……」


 言葉も交わさず、淡々とベッドの定位置につく。

 ここまでくると、話したいこともうまく口に出ない。


 まるで、訓練を始める前の……心が離れてしまったあの頃に戻ってしまったようです。

 胸の奥が、ギュッとする。


 そしていつものように二人で手を重ねて、指を絡める。

 手順はいつも通り。魔力の調整だって完璧だ。


「……いきます」


「……っ」


 呼吸を合わせると、テーブルに敷いた魔法陣の上で魔法石が形を成していく。


 ……見た目も、輝きも申し分ない。

 そのままいつものように、鑑定用の魔法陣を起動する。


 でも。


 ――九十七点。


「っ……!!!」


「まだ……百点にならないね。レノン……」


 リサも暗い顔をしている。けれど今は、元気づけてあげられる余裕すらない。


「……どうして。あと……少しなのにっ!!!」


「っ!!!」


 リサの肩が跳ね上がるほどの大声が部屋に響く。

 ……どうやら私も、とうとう我慢の限界らしい。


 別の机には、合格点に届かなかった出来損ないの石がずらりと並んでいる。

 ……なにも考えなくていいのなら、その全てを今すぐ粉々にしてさしあげたい。


「……すぅー、はぁ……」


 握りしめた拳を押さえ込み、なんとか深呼吸をする。

 落ち着きなさいレノン。こんなところで、つまずいている場合ではないのですから……!


「ふぅ……すみません、取り乱しました」


「……急に怒鳴らないでよ。びっくりするから」


 リサは目を合わせず、若干怯えた様子だった。

 謝って安心させたい。でも、今は――


「私だって声ぐらい出ます。そんなことは置いといて、リサ。このまま今日はもう一度――」


「今日はもう……いいんじゃない……かな?」


 ……はい? なにを呑気なことを言っているのですかこの子は。


「冗談なんて今はいりません。ほら、早く次の準備を……」


 そう言ってリサと指を絡め、再び魔力を流し始める。


「痛っ……! 待ってレノンっ、痛い! やめてっ!」


 握る手に少し力が入ってしまったのか、リサは手を離そうとした。

 慌てて、私は手の力を緩める。

 すると、リサも手を引くのをやめた。


 絡めた指だけは、そのままだった。


「っ……! すみませんっ。でも、もう時間がないのです! また『今日はもういい』って言ってる場合じゃ――」


「わかってるわよ!!」


 突然の大声に、今度は私が固まる。


「レノンさぁ! そんな焦っても結果が良くなるわけじゃないよね!? 少しは落ち着いてよ!!」


 ……落ち着く? 私は冷静ですよ。

 誰になにを言っているのですか。


「少なくとも、私は冷静ですよ。なら私からも一つ言わせてもらいますがねっ、貴女完成させる気あるのですか!?」


「っ……!! あ、あるに決まってるでしょ!? なにをバカなこと……」


「では、なんで『今日はもういい』なんて言葉が出るんです!? これが完成しないと卒業できないとあれほど……」


「もう聞き飽きてるわよそんなこと!! アタシだって卒業できなきゃ困るのよ! 仕事も決まって挨拶も済ませてるの!!」


「私だって進学がかかっているんです!! だったら、もう少しやる気を見せてください!!」


 やめなさいレノン。そんな言い争い、良くないです。


 でも……頭でわかってても、止められない。


「アタシだってやる気あるわよ!! ……こんなっ!!」


 でも――


「こんなこと、さっさと終わらせないと卒業できないんだから!! 今すぐにでも終わらせたいくらいよ!!!」


 ――『こんなこと』。

 その一言が、胸に突き刺さった。


「……こ、こんなことって……なんですか?」


 息が詰まる。口の中が、一気に乾いた。


「……っ! レ、レノッ……」


「こんなことの為に、私たちはここまで一緒にいたって……言いたいんですか?」


「……ぁ」


「――黙ってないでなんとか言いなさい!!」


 最後の歯止めが外れたように、もう言葉が止まらない。


 それでも……リサと繋いだ手だけは離したくなかった。

 言い争いの間も、絡めた指から流れる魔力だけはなんとか途切れていなかった。


「一度離れてしまった私たちが……やっとここまで、距離も……心も近づけられたと思っていたのに……! リサにとっては、試験だから……仕方なく一緒にいただけなんですか……っ!!」


 空いている手で、制服の裾を強く握る。


 もう……嫌っ――!!


「そうですね!! 卒業するためには必要なことですもの! 私だけが、またこうして貴女と一緒にいられるって浮かれたのが間違いでしたね!!」


「な、なによその言い方!! アタシはアンタとは本気で――」


「いいんですよもう! なら余計早くこんなことを終わらせましょうよ!? 終われば晴れて卒業です! もう毎日顔を合わせる必要もなくなりますからっ!!」


 ……違う。

 こんなことを……言いたいわけじゃないでしょう!!


「……っ! ああそうねっ!! これが終われば、こんな関係も終わるのよっ!! 毎日顔合わせなくて済むもの! 早く終わらせましょうよ!!」


 リサの目に涙が滲む。

 ……私が、泣かせてしまった。


 でも……やめて、ください。

 そんなこと……リサに言われたくない……!


「ああそうです!! これが終わって卒業したら全部終わりますから!! もう会うこともないでしょうね!!!」


 なのに、絡めた手には互いに力がこもる。


 でも……違う!!


 こんな言い方をしたいんじゃない!!

 こんなやり方をしたいんじゃない!!


 卒業したって会いたいに決まっているでしょう。

 必要なんてなくたって、会いたいんですよ!!

 なんで正直に言えないのですか私は!!


 いえ……違う。『卒業したって会いたい』だけじゃない。

 卒業できないことより、今は……この手が離れてしまうことの方が怖い。


 だって……私は、貴女と……リサとずっと、一緒にいたいのですから――!!!


 その時――


「えっ……?」


「なっ……!?」


 突然、テーブルの魔法陣が見たことのない光を放った。

 その光は一本の柱となり、部屋を眩く照らす。


「な、なにが起こって……?」


 徐々に光は収まり、その中から――


「リサ……こ……これっ……」


「う、嘘っ。なんでよ……」


 一点の澱みも、くすみもない。

 これまでで最も美しい、透き通るような魔法石が生まれていた。


「ど……どういうこと……? こんな状態で、心なんて重なるわけないのに……」


 恐る恐る鑑定用魔法陣を起動する。

 表示された結果は――


「っ……!!」


「そん……な……っ」


 ――百点。




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