第12話 家具選びが、なぜか二人で暮らす前提になっています。
とある平日の放課後。
卒業も間近となり、クラスメイト達は卒業後の話題で持ちきりだった。
「皆様、卒業後はどうされるのですか?」
「そうですわね、とりあえず寮からは出ないといけないのでお家探しをしないと……」
「となると、新しいお家の家具なども必要ですよねー」
……確かに、寮の家具は備え付けですから、新居の分は揃えておかないといけませんね。
今日は予定もありませんし、帰りに少し見ていきましょうか。
と、教室を出たところで――
「レノン? どっか行くの?」
リサに肩を小突かれた。
「ええ。少し気が早いですが、卒業後の新居に使う家具でも見に行こうかと」
「もう卒業後のこと考えてんのー?」
「こういうのは早いに越したことないですからね。貴女も寮を出るんですから考えておいた方がいいですよ?」
「うーん、まあ確かに?」
そのまま昇降口へ向かっていると――
「……ってリサ? 寮に帰らないんですか?」
「うん。なんか楽しそうだから一緒に付いてく! ひひっ」
毎度お馴染みの眩しい笑顔。
……正直、可愛くってしょうがない。
「仕方ないですね、では行きましょうか」
「うんっ! しゅっぱーつ!!」
校門を出たところで、リサがぱしっ、と手を繋いでくる。
「――あっ」
この程度でドキドキしてしまうなら、もうリサのことを笑えませんね。
赤くなった顔を隠すように俯きながら、リサと中央街へ向かった。
◇
「おおー……家具ばっかり」
リサは店の中をぐるぐる見回す。
「そりゃ家具屋に来たのですからね」
――中央街の家具屋にて。
「さてと……」
最初に目をつけたのは、手頃な小さめのテーブルだった。
「あっ可愛いー! でも二人でご飯食べるにはちょっと狭いかも……」
「……二人、とは?」
「……へっ?」
一瞬、二人の間に沈黙が流れる。
「ほ、ほらあれよ!! お客さんが来た時とかよっ!!」
「あ、ああ! そういうことでしたかっ。なに言ってるのかと思いましたよ」
まぁでも確かに、リサと食卓を囲むには少し狭いかも――
「いや、なんでですか!?」
「うわびっくりした!! なにっ!?」
「あ、いえ……なんでも……」
……なぜ今、リサと食事を共にしているところを想像してしまったのでしょう。
「もうお店の中で大きな声出したら迷惑なんだから……あー! ソファあるわよレノンっ!!」
「貴女も十分声大きいですって! 待ってくださいっ!」
そうしてリサに追いつくと――
「おぉっふかふか! レノンも座りなさいよっ!!」
ぽふぽふと弾みながら手招きされる。
「わかりましたから落ち着きなさい! もうっ」
スカートを押さえ、リサの隣に腰をかける。
「んーでもなぁ……」
「でもってなんです――わっ!」
リサは狭いソファの上で体勢を変え、私の膝へ頭を乗せてきた。
「二人用だとアタシが寝転がると狭いな……」
膝に感じるリサの重みに、髪のこそばゆさ。
もしリサと一緒に暮らしたら、こうしてくっついてきて――
「って! だからなぜ二人前提なんですか貴女は!?」
「うわっ膝がくってやらないで! 頭揺れる!! てか二人で座ってるからに決まってるでしょう!?」
「……確かに」
「もーう……髪がくしゃくしゃに……あっ、なにあれっ!!」
「こら、また勝手にっ!」
今度はベッドコーナーへ走っていく。
「うわすごっ。ベッドってあんなバカデカいサイズあるのね。人間何人分よ」
「バカデカいサイズではありません、リサ。あれはキングサイズって言うんです」
「いーじゃない。バカデカいものはバカデカいんだから。……うわ、値段までバカデカい」
何回言うんですか……。
「まぁ、使うならこっちよねー。わーいっ」
リサはシングルサイズの展示ベッドに無邪気にダイブする。
「こらっお店の展示品なんですから、もう少し優しく――」
「えーい、アンタも来なさい!」
「ちょっ! きゃぁ!!」
リサから腕を引かれ、私もぼふんっとベッドへ倒れ込む。
「もう! 貴女は本当勝手に――」
「どう? 二人でも狭くないっ? ひひっ」
「っ!」
気づけば、無邪気に笑うリサと向かい合わせになっていた。
「せ、狭いですよ。これ……シングルですし」
「まあねー。でも、レノンの顔がよく見えるから……悪くないかも」
「――っ!?」
待ってください。これ無自覚に口説いています?
「だってー、寝起きにイタズラできそうだからー! うりゃー!」
そう言ってリサは私のほっぺを摘み始める。
「ちょっ! やめなさいっ! このっ!」
「わっ、レノン! ほっぺ伸びちゃう!!」
「貴女がしていることです! 大人しくしなさいっ!」
卒業間近だというのに、やっていることは子供の頃のまま。
……つくづく思い知らされますよ。リサとこうしている瞬間が、とても幸せだって。
◇
家具屋を出た後、同じ通りの雑貨屋さんにも寄ることにした。
「レノンー雑貨なんて、まだ必要なくない?」
「ついでですし、見ておこうかなと。嫌ですか?」
と、棚にある可愛い食器を手に取る。
「別にー、なんか知らずに放課後デートしてんなーって思っただけー」
「で、デート!?」
私は慌てて食器を落としかける。
「うわっ、危ないわね。気をつけなさい!」
「……はいっ」
しばらく店内を見ていると、リサが足を止めた。
「お次はなにを見つけたのですか?」
「見てみてこれ、じゃん」
そう言って差し出したのは、ピンク色の花柄のマグカップだった。
「ほお、リサにしてはセンスが良いですね」
「その余計な一言なけりゃ素直に喜べたわね……。でもアンタ、こういうの好きそうだなーって思ってさ」
「そう……ですかっ」
私も棚を見ると、同じ柄の黄色いマグカップがあった。
どうやらペア商品のようです。
「ちょうどいいじゃないですか。貴女好みの黄色ですよ」
「あ、ホントだ。やっぱ黄色可愛いわよねっ♪」
リサは嬉しそうにマグカップを受け取る。
「……ねえレノン? せっかくだしこれ買っていかない?」
「えっ、マグカップならもう部屋にもありますよ?」
「あるけどさぁ! いーじゃん! アンタの部屋でおやつタイムに使いたい〜っ」
「……って、部屋に置く気満々じゃないですか!」
「ひひっ。バレたか。まあいいわよっ、使えるものあるんだし」
リサは二つのマグカップを棚へ戻そうとする。
――はあ、もう仕方ありませんね。
「いいですよ、リサ。買いましょう?」
「……え? いいのっ?」
「すでに私の部屋は、貴女の私物まみれなのですから。一つ増えたところで変わりませんよ」
呆れたふりをしていますが、本当は私が一番嬉しいなんて言えません。
「――っ! やったぁ! 買お買おっ♪」
するとリサはぴょんぴょんと跳ねる。
そのまま会計を済ませ、お店の外へ――
「にひひ〜っ♪」
リサはマグカップの紙袋を大事そうに抱えていた。
「リサって嬉しい時は、子供の頃からその笑い方ですよね」
「べ、別に良いでしょ! こうなっちゃうんだから!」
「構いませんよ。私、その顔好きなので」
……あっ。
「い、いやリサこれはそのっ!!」
だが――
「……そ、そうなんだ。……あ、ありがと」
ちょっ! 耳まで真っ赤にされたらこっちまで照れるでしょう……!
……ええい! こうなったら力技!
「さ、さあリサ! 門限を破ったらいけませんので帰りましょう!!」
今度は私がリサの手を掴んで歩き出す。
「……あ。うんっ」
リサはおとなしくついてくる。
……もう、なんでこういう時に限ってしおらしくなるのですか! やりづらいったらありゃしない!
「……ねえ、レノン?」
「は、はいっ!?」
「……卒業しちゃったら、アタシたち寮を出て行かなきゃなんだよね」
その声が、どこか湿っぽく聞こえた。
「そりゃ……そうですね」
「うん。そう……だよね。ははっ」
その直後、くしゃっと紙袋が鳴る。
――なぜか、その笑い声が少しだけ胸に引っかかりました。
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