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第10話 私の膝の上で、他の子と楽しそうにしないでください。


「では次、フォーティシアさん。お願いします」


「……うぉりゃあーーー!!!!」


 グラウンドにリサの雄叫びが響く。


 今日は魔法力測定実習の日。

 私は待機場所から、リサの測定を眺めていた。


 びゅんっ!! という轟音と共に、浮遊魔法の測定用の重りが遥か上空まで浮かび上がった。


「いよっしっ! 新記録!!」


「こらフォーティシアさん! 高く浮かせればいいというわけではありません!」


「えー! 先生、これ測定実習なんですから本気でやらないと!」


 リサは先生に笑顔を向ける。

 先生にあんな調子で言い返せるようになってなによりです。


「フォーティシアさんすごいっ!」


 その声を皮切りに、他のクラスメイトも押し寄せる。


「あれだけの重りをどうやって安定して浮遊させるんですかっ?」


「えっ? うーん、上手く説明できないけど逆に力を抜いてーって感じかな?」


「なるほど! フォーティシアさんは、力加減がお上手なんですね!!」


「いやいや〜、そんなことないわよ! あっはっは!」


 ……おだてられてニコニコしちゃって。

 つい最近まで、皆リサに話しかけるのも怖がっていたのに。


「フォーティシアさん! 浮遊の時のコントロールはこう……ですか?」


「あー、えっと、まず腕の力を抜きなさい! こうして……」


 リサはクラスメイトの手を取った。


「……あっ」


 思わず声がこぼれる。


 ……なんでしょう、今の。


 いやいや、素晴らしいことじゃないですか。

 こうして皆さんと話せるようになって――


「――ジェさん。次、フルージェさんお願いします!」


「あ、はいっ!」


 モヤモヤと考えていたらいつの間にか私の番。

 急いで測定スタート位置まで走る。

 その時、奥にいたリサと目が合って――


「……! にっ♪」


 ウインクされた。


 ――ドクンっ。

 思わず足が止まる。


「……」


「フルージェさん? どうしましたか?」


「ご、ごめんなさいっ! 今行きます!!」



 なんなんですか今日は。

 なんでこんなに、胸がざわつくのでしょう……。


 ――その後の測定は散々な結果となった。



◇



「あー……今日は実習ばかりで疲れたわっ」


 ――放課後。

 まだ教室が賑やかな中、リサが私の席にふらっとやってきた。


「貴女は無駄に魔力を使いすぎてるんです、加減というものを知った方がいいですよっ」


「はいは〜い」


 ぽすんっ。


「――はい?」


 リサは流れるように私の膝へ腰を下ろす。


「ちょ、リサっ。まだ人いるんですよ!? なにしてるんです!」


「もうクタクタなのよっ、休ませてっ」


 そのまま体重を預けてきた。


 ……リサの匂いが、とっても近い。

 私はリサの腰に腕を回して、少しだけきゅっと抱き寄せた。


「ん? レノン? どうし――」


「フォーティシアさん!! 少しお話しよろしい……でしょうか……?」


 しまった。

 この方、さっきリサが教えていた……。


「お、お二人ってそんなに仲良しだったとは知りませんでした……」


「あ、いえこれは……!!」


 仲が良いのは事実ですが、こんなところを見られたら――!


「まぁ、幼馴染だし普通よっ」


 リサはさらに背中をぐっと押し付けてくる。

 幼馴染でもここまで甘えてはこないのでは……?


「そ……それはそうと、本日の実習すごかったです! フォーティシアさんのおかげでコツが掴めました!」


「べ、別にアタシはただ教えただけだって! へへっ」


 二人は楽しそうに笑い合っている。

 ……私の膝の上で、ずいぶん楽しそうですね。


 まぁリサは元々良い子なのですから、周りもその良さを分かってきたのでしょう。嬉しいじゃないですか。


 ――でも……面白くありません。


「それでフォーティシアさん! よろしければこのあと、お時間ありませんか? 今日の復習も兼ねてご一緒したくて!」


「え〜? もう、しょうがないわね〜。アタシも今日は予定ないし、たまには付き合ってあげても――」


 リサが私の膝から立ち上がる。


 ――嫌だ。


 気づけば、離れていこうとするリサの手を掴んでいた。


「んっ? レノン?」


 振り返ったリサと目が合う。


 なにをしているの、私。


 手を離さないまま、私も席を立つ。


「申し訳ありません。本日、フォーティシアさんとは、このあと予定がございまして」


「はっ? レノン今日はなにも――」


「何をおっしゃっているんですか、フォーティシアさん。本日は卒業試験の訓練日だったでしょう?」


「ちょ、そんなの聞いて……」


「あ、先約があるのでしたら大丈夫ですよ!」


 クラスメイトは申し訳なさそうに引き下がっていく。


「ええ、こちらこそ申し訳ありません。ではフォーティシアさん、行きますよっ」


「れ、レノン! わかったからっ! そんな強く引っ張らないで、まって!!」


 そのままリサの手を引き、教室を出た。



◇



「……で?」


「えっ?」


「あんな強引に連れてきて、なんなのよ?」


「い、言ったでしょう! 訓練ですよ! 遊んでる暇なんてありませんからねっ。早く座ってください!」


「聞いてないわよ……まぁいいや。よいしょっ……」


 リサは真っ先に私のベッドに腰掛ける。


「ほらっ、やるんでしょ! 魔力調整でもシンクロ訓練でもいいわよっ!」


「え、ええ! ではやっていきましょう」


 私も急いでリサの隣に腰掛ける。

 いつものように手を重ね、指を絡めて訓練を始める。


「……ねぇ、アンタ今日近くない?」


「そんなことないですよ。訓練ならいつもこんな感じですっ!」


「そうだったっけ? まぁいいや……」


 これは嘘。

 こんなに瞳の奥まで見えそうな距離で、訓練したことなんてありませんもの。


「ふぃ……よいしょっ……」


 リサが姿勢を変えようと、少し腰を浮かせる。


 その拍子に、絡めた指が緩んで――

 ぎゅぅぅっ……と、私はその手を握り直していた。


「ちょ、レノン? 力み過ぎじゃない?」


「あ、ご、ごめんなさいっ。私ったら……」


 結局、この日は魔法石を生成せずに訓練を終えた。


「あー……実習で魔力も使ったから、余計疲れたわ……」


 リサはこてんっ、と私の肩に頭を預ける。


「私は……今日は散々でしたけどね……」


「ふふっ、そうね。優等生のレノン様が今日はビリっけつだったもんねーっ」


 ニヤニヤと見上げてくるリサ。

 普段ならぺしんっ、と一発くれてやりたいところですが……。


「……」


「ん? なによ、そんな見つめて」


 触れる肩がどこか温かい。

 今日一日で、今が一番心が落ち着いている。

 ……少しくらい、意地悪を言ってもいいですよね。


「……今日は、皆さんと楽しそうでしたね」


「んー、そうねっ。ちゃんと話してみたら、悪いやつらではなかったしね」


「そうですかっ。……私といる時より楽しかったのではないですか?」


 我ながら、なんて意地の悪い聞き方でしょう。

 リサが楽しければ、それでいいはずなのに――


「えーっ、そりゃアンタといる方が良いわよ」


「……はい?」


「だって気を遣わなくていいし。他のやつと話すのも悪くないけど、なんかこう……疲れるのよ! だからこーしてのんびりできるレノンの隣が――」


 そこまで言って、リサがばっ、と頭を上げる。


「べ、別に変な意味じゃないからねっ!? 昔から一緒にいて気が楽ってだけだから!!」


 ……その言葉だけで、胸が弾んだ。


「そう……でしたかっ」


 そして私は、リサの膝へ頭を預けた。


「へっ? れ、レノンっ?」


「……たまにはいいでしょう? そんな気分なんです」


「……ふっ、なんだか今日は甘えん坊さんなのねレノンはっ」


 リサが頭を撫で始める。

 ……リサに撫でられるのって、こんなにも心地いいのですね。


 撫でてくれる手も、膝の温かさも、聞こえてくる声も――

 今は全部、私だけが感じていたい。


 ……あれ?


 私……リサを他の人に取られたくないと思っていませんか?


 もしかして、これって――


 嫉妬……なのでしょうか。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます!


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次回もよろしくお願いいたします!

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