第7話「壁も出来た」
異世界生活七日目。
俺は風で目を覚ました。
「寒っ!」
思わず飛び起きる。
屋根はある。
昨日完成した。
雨も防げた。
素晴らしい出来だ。
最高だった。
だが問題があった。
「そりゃあ横から来るよなぁ……」
風である。
雨は防げようになった。
しかし風は防げない。
当然だ、屋根しか無いのだから。
俺はしばらく考えた。
そして結論に至る。
「やっぱり壁が必要だな」
俺は朝食代わりの木の実を齧りながら、昨日完成した屋根を見上げた。
我ながら悪くない出来だと思う。
少なくとも崩れてない。
これなら壁も作れる気がした。
多分。
恐らく。
きっと。
「知識も増えたしな」
少しだけだが。
四つ耳ウサギ。
三本尻尾のリス。
青い鳥。
異世界の先生達のおかげである。
本人達はそんなつもりは毛頭無いだろうけど。
俺は木の枝を集め始めた。
昨日より手際が良い。
組み方も少し分かってきた。
人間、やれば何とかなるものだ。
「よし」
枝を立てる。
葉を挟む。
隙間を埋める。
また葉を挟む。
何となく壁っぽくなってきた。
「何してるんだ?」
「壁です」
振り向かず答える。
「そうか」
「これが、俺の壁です」
「壁だな」
確認し合う。
何の意味もない会話だった。
「風が入ってこなくなる予定です」
「ほう」
「寒くなくなる予定です」
「ほう」
「壁です」
「壁だな」
ロキは妙に納得した顔で頷いた。
何なんだ。
その反応は。
俺が作業を続けていると、ロキは近くの枝へ腰掛けた。
もちろん煎餅を持っている。
どこから出しているのかは聞かない。
聞いたら負けな気がする。
「お前」
「何ですか」
「意外と順応してるな」
少しだけ手が止まった。
「そうですか?」
「そうだぞ」
ロキは煎餅を齧る。
バリッという音が響いた。
(だからそれ寄越せよ)
「普通ならもっと騒ぐ」
「騒いでも帰れませんし」
「それはそうだ」
「だから生きるしかないんですよ」
諦めたわけじゃない。
帰りたい気持ちは今でもある。
餃子も食べたい。
風呂も恋しい。
ベッドなんて毎日恋しい。
だが今ここにあるのは森だけだ。
なら生き延びるしかない。
頭にあるのはただそれだけだった。
「ふーん」
ロキは少し笑った。
何だその反応。
腹が立つ。
少しだけ。
「何ですか」
「いや」
ロキは空を見上げた。
「面白いなと思って」
「それしか言いませんね」
「実際面白いからな」
そう言って笑う。
俺は深い溜息を吐いた。
やっぱりろくでもない神様だった。
◇
今日の作業も夕方まで続いた。
枝を組み。
葉を重ね。
隙間を埋める。
途中で崩れた。
二回崩れた。
三回目で漸く形になった。
「……」
少し離れて見る。
屋根。
壁。
大木。
見た目はかなり雑だ。
だが。
「出来たぁ……」
そこにあるのは壁だった。
間違いなく壁だった。
俺は思わずガッツポーズをした。
その瞬間。
バリバリバリッ!
強風が吹いた。
「うおっ!?」
慌てて壁を押さえる。
数枚の葉っぱが飛んでいった。
だが崩れない。
耐えた。
耐え切った。
「勝った……!」
思わず呟く。
風に勝った。
人生で初めて風に勝った。
そんな俺を見てロキが笑う。
「そんなにか」
「そんなにです」
「そうか」
「昨日までは風が直撃してたんですよ」
「そうか」
「寒かったんです」
「そうか」
「壁です」
「壁だな」
ロキはとうとう吹き出した。
肩を震わせながら笑っている。
「はははっ!」
「何が面白いんですか」
「お前だ」
失礼だな、と思いつつも少しだけ誇らしかった。
屋根がある。
壁もある。
異世界へ来たばかりの頃より確実に前進している。
「次は何が欲しい?」
ロキが笑いながら聞いてくる。
俺は少し考えた。
「床」
ロキは腹を抱えて笑い始めた。
「あはははははっ!」
「何ですか」
「次は床か!」
「重要ですよ!」
床は重要だ。
非常に重要だ。
何がそんなにおかしい。
ロキはしばらく笑い続けていた。
やっぱり失礼な神様だった。
本当に。
俺は完成した壁へ背中を預ける。
風が当たらない。
少し暖かい。
「……いいな」
思わず呟いた。
異世界生活七日目。
俺は人生で初めて壁を手作りした。
「……泥で粘土作れば良かったんじゃ」




