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トリックスターの気紛れで異世界へ放り込まれた俺、携帯浄水器で生計を立てる羽目になりました。  作者: ココアバナナ
第1章【始まりは理不尽に】

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第4話「屋根が欲しい、壁も欲しい」


 異世界生活四日目。


 結論から言う。


 食料問題は一応解決した。


 ただし精神的な不安は残っている。


「……」


 俺は手の中の木の実を見つめた。


 異世界に来てから頻繁に見かける四つ耳ウサギ。


 あのウサギが夢中で食べていた実だ。


 つまり食べられる。


 多分。


 恐らく。


 きっと。


「大丈夫だよな……?」


 慎重に一口齧る。


 もぐもぐと咀嚼する。


「……お」


 甘い。


 普通に美味しい。


 林檎と梨の中間みたいな味だった。


「助かった……」


 異世界に来て初めてまともな食事にありつけた気がする。


 もっとも、木の実だけだが。


 それでも空腹で倒れるよりは遥かにマシだった。


 因みにキノコは諦めた。


 光るキノコなんて信用できない。


 青いキノコも信用できない。


 紫の斑点があるキノコは論外。


 俺には異世界キノコ鑑定スキルなんて力はないのだ。


 生き延びるためには慎重さが必要だった。


「肉食いたいなぁ……」


 ぽつりと呟く。


 餃子が恋しい。


 唐揚げも恋しい。


 コンビニのおにぎりですら恋しい。


 そんなことを考えながら歩いていると、空から冷たい感触が落ちてきた。


 ぽつり。


「ん?」


 空を見上げる。


 黒い雲。


 嫌な予感しかしない。


 ぽつり。


 ぽつり。


「……降るなよ」


 ぽつり。


「降るな」


 ぽつり。


「降るなって」


 ──ザーッ


「うわぁあああああっ!!」


 一気に降り始めた。


 寝床にしてる木の下へ逃げ込む。


 しかし意味がない。


 葉の隙間から雨が落ちてくる。


 普通に濡れるし寒い。


「文明ぃいいいい……!」


 屋根が恋しい。


 壁が恋しい。


 家が恋しい。


 四日目にして文明への愛が爆発していた。


 十分ほどで俺は決意した。


「作るか……」


 家を。


 いや、家は無理だ。


 せめて雨を凌げる場所を。


 屋根だけでも欲しい。


 俺は雨の中、木の枝を集め始めた。


 葉っぱも集める。


 それらしく組んでみる。


 崩れる。


 もう一度やる。


 崩れる。


「知識皆無……」


 当たり前だ、ホテルの客室清掃員にサバイバル技術は求められない。


 俺は客室を綺麗にするプロであって、森で家を建てるプロじゃない。


 その時だった。


「何してるんだ?」


 聞き慣れた声が頭上から降ってくる。


 見上げると──やっぱり居た。


 木の枝の上。


 黒髪を揺らしながら煎餅を齧る男。


 そもそもの元凶である。


「見れば分かるでしょう」


「分からん」


「家を作ってるんです」


「ほう」


 ロキは面白そうに顎へ手を当てた。


「屋根が欲しいんです」


「贅沢だな」


「人間の最低限の願いです」


 雨に打たれながら言う。


 説得力は十分だと思う。


 ロキは納得したような、していないような顔で頷いた。


「洞窟に住めばいいだろ」


「虫」


「ああ」


「コウモリ」


「ふむ」


「そして虫」


「そこに戻るのか」


 戻る。


 当然戻る。


 大事な事だ。


「虫が嫌なんです」


「そんなにか」


「そんなにです」


「巨大トンボも?」


「嫌です」


「小さい虫も?」


「嫌です」


「食える虫も?」


「嫌です」


 ロキはしばらく考え込んだ。


 そして真面目な顔で頷く。


「なるほど」


「何がです」


「お前は虫が嫌いなんだな」


「今更!?」


 異世界四日目にしてようやく理解したらしい。


 遅い。


 とても遅い。


 ロキは煎餅を齧りながら続けた。


「あのトンボは美味いぞ」


「嫌ですってば!」


 話が通じない。


 本当に通じない。


 だがロキは楽しそうだ。


「手伝ってください」


「嫌だ」


「なんでですか」


「面白いから」


 だと思った。


 十中八九そう答えると思ってた。


 俺は諦めて木の枝を拾い上げる。


 ロキはしばらく眺めていたが、そのうち退屈そうに立ち上がった。


「まあ頑張れ」


 ロキは満足そうに笑うと、そのまままたしても空気に溶けるように消えていった。


 雨はまだ降っている。


 目の前には半壊した何か。


「……」


 俺は空を見上げた。


「屋根が欲しい」


 切実に。


「壁も欲しい」


 もっと切実に。


 異世界生活四日目。


 俺の夢はとても小さかった。


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