第16話「冒険者ギルド」
ーー翌日。
朝食を食べ終えた俺はシオンと一緒に家を出た。
ことの発端は、朝食中。
「あ、そういえば今日さ、依頼完了の報告にギルドに行くんだけど、ナギどうする?家でゆっくりしてる?」
「んー……着いて行こうかな。王都も見て回りたいし」
「分かった、じゃあこれ食べ終わったら準備して行こうか」
そして今に至る。
「取り敢えずギルド行ってから王都を案内するよ」
「分かった」
石畳の道を歩きながら見慣れない土地の朝を眺める。
開店準備をする店。
荷物を運ぶ商人。
朝から酒場へ入って行く強者。
「朝から飲むんだ……」
「あの店は常時開いてるからね、任務明けの人達も行きつけにしてるんだよ」
「へぇ……」
異世界にも二十四時間営業の店があるのか。
そんな事を考えていると、一際大きな建物が見えてきた。
石造りの立派な建物。
入り口には剣と盾を模した看板。
「ここ?」
「うん。冒険者ギルド」
中へ入ると、一気に賑やかな声が耳に飛び込んできた。
一時的なパーティメンバーを探す者。
依頼書を見比べる者。
鎧の手入れをしている者。
「すご……」
物珍しさについ、辺りを見回してしまう。
「ナギ」
「ん?」
「はぐれないでね?」
「今回はちゃんと着いて行く」
「今回は?」
「昨日は街中だったし王都初めてだったからさ」
「あはは、そっかぁ」
シオンは笑いながら受付へ向かった。
「おはようございます」
「あ、おはようございます。シオンさん」
受付の女性は慣れた様子で笑顔を向ける。
「依頼任務の完了報告に来ました」
「はい、かしこまりました」
シオンが手渡した書類を見ながら、受付嬢が頷く。
「確認致しました。依頼達成ですね。報酬はこちらになります」
「ありがとうございます」
皮袋が一つシオンに手渡される。
「やっぱり冒険者ってそこそこ稼げるの?」
「ランクと依頼内容によりけりだけどね」
「珍しいですね、お連れの方がいらっしゃるなんて」
「森で知り合ったんですよ〜」
受付嬢は軽く会釈をしてくれた。
感じの良さそうな人だなぁ。
「いててて……」
少し離れた場所から聞こえてきた声にシオンが振り返る。
「あ」
そこには、片足を引きずる若い冒険者が居た。
右足首が大きく腫れ上がっているように見える。
「ルーク、しくじった?」
「シオンか……まぁな」
苦笑いを浮かべるルークと呼ばれた男。
「段差に気付かなくて落ちた」
「魔物じゃなくて?」
「そう」
「それは恥ずかしいねぇ」
「うるせぇ」
「痛そう」
「これから治癒院行くところだ」
「そっか」
少し考えたシオンが不意に俺を見た。
「ナギ」
「ん?」
「あの水、ルークに飲ませてみてくれる?」
「え?」
「ちょっとお試し」
「そんな試供品みたいな……まぁいいけど」
携帯浄水器を取り出すと、ルークが不思議そうに覗き込んできた。
「それ何だ?」
「水を綺麗にする道具です」
「見た事ねぇな」
「まぁまぁ、いいから飲んでみてよルーク」
「……?」
シオンが受付嬢から貰ってきた水を俺が浄水器に入れてルークに渡す。
訳が分からないという顔をしながらも、ルークはボトルを受け取った。
ーーゴクッ
ーーゴクッ
数秒後。
「……あれ?」
ルークがゆっくりと足を動かした。
もう一度恐る恐る。
更に確かめるようにもう一度。
「痛く……ない?」
腫れていた足首が、みるみるもう片方の足首と同じ太さへ戻っていく。
「は?」
ルークが固まる。
「え?」
俺も固まる。
受付嬢が目を丸くした。
近くで依頼を選んでいた冒険者も、鎧の手入れをしていた屈強な冒険者も、パーティメンバーの勧誘をしていた冒険者も。
全員の視線が一斉にルークが持っている携帯浄水器へ集まった。
「……」
「……」
「……」
静まり返るギルド。
最初に口を開いたのはシオンだった。
「やっぱり」
楽しそうに肩を揺らして笑っている。
「やっぱり、じゃないだろ!?」
「ナギもこうなると思ってたでしょ?」
「思ってない!」
「二回目だよ?」
「あの時は何かのまぐれだと思おうとしてたんだよ!」
「えー?あはは」
「お、おい!」
ルークが飛び跳ねた。
「治ってる!本当に治ってるぞ!」
「す、すげぇ……」
「見ろ!走れる!全然痛くねぇ!ありがとな!」
ギルド内の誰しもが呆然としていたその時、奥から低い声が響いた。
「……おい」
全員が一斉に振り向く。
大柄な男がこっちへ向かって来る。
太い腕、鋭い目付き、無精髭。
見るからに迫力がある。
周囲の冒険者達が自然と道を開けた。
「ギルマスだ……」
誰かが小さく呟いた。
どうやら冒険者ギルドのギルドマスターらしい。
彼は俺とシオンを交互に見て、それから携帯浄水器へ視線を落とした。
「シオン」
「はい?」
「そこの兄ちゃん」
「は、はい」
彼は親指で奥の部屋を差した。
「ちょっと来い」
有無を言わせない口調に俺は思わずシオンを見る。
「どうしよう」
「大丈夫だよ」
シオンはいつも通りにこにこと笑ってる。
「怒ってるのかな」
「多分違うかなぁ」
「その多分が怖いんだけど」
「あははは、ああ見えて怖い人じゃないから平気平気」
ギルドマスターに続いて歩き出すシオンの後を慌てて追い掛ける。
俺はまだ知らなかった。
このたった一杯の水がーー
俺のこれからの人生を大きく変える事になるなんて。




