第14話「初めての王都」
森を歩き続けること数日。
シオンが前を歩きながら振り返った。
「もう少しだよ」
「王都まで?」
「うん」
その言葉から一時間ほど歩いた頃だった。
木々が途切れて目の前が一気に開けた。
思わず足が止まる。
「すご……」
巨大な石壁。
その向こうには、いくつもの建物が立ち並んでいた。
煙突からは白い煙が上がり、人々が門を行き交っている。
日本とは全く違う。
それなのに、不思議と活気だけは似ている気がする。
「ここが王都」
シオンが穏やかに笑う。
「どう?」
「……異世界だ」
「へ?」
「こっちの話」
俺は本当に異世界に飛ばされていたんだっていう実感が今更ながら湧いてきた。
というか、思い知らされた。
今までは森しか見てなかった。
だからどこか現実感が薄かった。
でも、今目の前にあるのは紛れもなく異世界の街並みだった。
「行こうか」
「はい」
「……ところで」
「はい?」
「その敬語、いらないよ」
「え……今ですか?」
「実は気になってたんだよね」
「まぁ……シオンがそう言うなら」
「よし!」
なんだかすごく満足そうに笑うシオンと二人で門へ向かう。
門の前には鎧を着た兵士が二人立っていた。
「おー!シオンじゃないか!」
「あ、久しぶり」
どうやら顔見知りらしい。
「お前、無事だったんだな!」
「まぁね」
兵士の一人が俺を見た。
「そっちは?」
「あぁ」
シオンが俺の肩を軽く叩く。
「森で出会った」
「……森だと?」
「うん。一人で森で暮らしてたんだって」
「一人で、か?」
「一ヶ月」
「……は?」
この反応にも慣れてきた。
「この人、魔法も使えないし剣も握った事ないんだって」
「えぇ?」
「なのに、一ヶ月生きてたとかすごいよねぇ」
兵士が俺を見て、俺も兵士を見る。
「え?」
「その反応やめません?」
この数日で何回目だろう。
シオンが横で肩を震わせて笑っている。
「あははは!」
「わーらーうーなー!」
「ごめんごめん」
全然悪いと思ってない顔だ。
「まぁ、この人、僕の恩人だから悪い人ではないよ」
「恩人?何があった」
「巨大なロックボアに出会してさぁ、いや参ったよね。ちょっと油断しちゃってね。気付いたらズタボロだったよ。あはは!」
「笑い事じゃなくねぇか」
「でも、このナギが助けてくれたんだぁ」
「俺は別にそんな大した事は……」
「そうかそうか!俺らからも礼を言う」
「ありがとな!」
「い、いえ」
少し立ち話をしてから門をくぐる。
「うわぁ……」
思わず声が漏れた。
石畳。
露店。
馬車。
パンの香ばしい匂い。
行き交う人々。
耳に入る賑やかな話し声。
「すごい……」
一ヶ月ぶりの文明。
いや、異世界では初めてだ。
「ナギ」
「ん?」
「迷子になる?」
「なります」
「即答だねぇ」
「自信がある」
「それは自慢しなくていいと思うよ」
シオンは笑いながら歩き出す。
「じゃあ、今日は僕から離れないでね」
「はい!」
元気よく返事をする。
絶対に離れない。
離れたら迷子どころの騒ぎじゃなくなる。
そんな俺を見てシオンはまた笑った。
笑いながら歩くシオンの背中を俺は少し小走りで追い掛けた。
異世界生活、一ヶ月と六日目。
俺は初めてーー
王都の門をくぐった。




