第13話「頼れる同行者」
ーー翌朝。
俺はいつものように川で顔を洗っていた。
今日で最後になるかもしれない景色。
一ヶ月過ごした森。
自作の屋根、壁、床。
「……世話になったな」
誰に向けてでもなく、ポツリと呟く。
初めは死ぬかと思った。
俺の知らない世界、俺の知らない土地、持ち物はたった一つの携帯浄水器。
でも、結果的になんとかなって今こうして生きてる。
「ナギー」
後ろからのんびりとした声が聞こえてきた。
振り返ると、シオンが大きく手を振っている。
「おはよう」
「おはようございます」
「よく眠れた?」
「シオンこそ」
「僕はぐっすりだったよ」
あはは、と笑うシオンは昨日瀕死だった人とは思えないくらい元気だ。
「それじゃそろそろ行こうか」
「はい」
「忘れ物とか大丈夫?」
「そもそも物がないので」
「それもそっかぁ」
荷物は携帯浄水器、落ちてた枝を捻り折っただけの槍もどき、それくらいだ。
シオンは拠点を見回した。
「これ、全部一人で作ったんだよね?」
「はい」
「頑張ったねぇ」
シオンは壁を軽く叩いた。
「ちゃんと考えて作ってある」
「そうですか?」
「うん」
少し笑ってシオンが続ける。
「僕だったら即席の寝床作って終わりだよ、きっと」
「え?」
「面倒だから」
思わず吹き出した。
「冒険者なのに?」
「冒険者だから、だよ」
「そういうものなんですか?」
「そうそう」
……なんとなくだけど違う気がする。
◇
時折言葉を交わしながら、森の中を歩く。
シオンが先を歩き、俺はその後をついて行く。
歩きながら辺りをも回していると、不意にシオンが口を開いた。
「そういえばさ」
「はい?」
「ナギって魔法は使える?」
「使えません」
「剣は?」
「握った事もないです」
「じゃあ、魔物を倒した事は……」
「ありません」
「……」
シオンが立ち止まって、俺も足を止める。
「よく一ヶ月も生き延びたね」
「俺もそう思います」
しみじみと頷く。
すると、シオンが肩を震わせた。
「あはははは!」
「笑い事じゃないですよ!」
「だって、本当にすごいんだもん!」
「全部勢いに身を任せた結果ですから!」
「勢いだけで生き延びる人初めて見たよ」
「それは……褒めてるんですか?」
「んー、どうだろうねぇ」
そんな話をしながら再び歩き出した矢先。
ーーガサガサッ
っと草むらが揺れた。
俺は思わず身構える。
「シオン」
「うん」
「何かいます」
「いるね」
シオンは穏やかな笑顔のまま腰の剣へと手を添えた。
次の瞬間、飛び出して来たのは巨大な猪だった。
「うわぁああああ!!」
俺は思わず後ろへ飛び退く。
けど、シオンは動かない。
「大丈夫、僕に任せて」
言い終えるが早いか、ヒュンっと風のようにシオンが動いた。
剣が一閃すると、巨大な猪はその場へ崩れ落ちた。
「……」
「終わったよ」
爽やかに笑いながらシオンが剣を鞘へ納める。
息一つ乱れていない。
「え?」
「ん?」
「終わり?」
「うん」
「……えぇ」
あまりにも一瞬過ぎた。
何が起きたのか分からない。
「シオン……」
「なに?」
「シオンって強かったんですね」
「これでも一応冒険者だからね」
そう言って照れ臭そうに笑うシオン。
その笑顔は柔らかい。
さっきの一瞬とは大違いだ。
剣を抜いたあの一瞬だけは別人みたいだった。
もしかしてこの人、思ってた以上にすごい冒険者なんじゃないだろうか。
そんな微かな疑問がふわりと俺の胸中に到来した出来事だった。




