第10話「どうしても風呂を作りたい」
異世界生活十日目。
俺は重大な問題に直面していた。
風呂である。
屋根はある。
壁もある。
床もある。
だが風呂が無い。
正確には毎日川で水浴びをしている。
衛生面に問題は無い。
はずだが。
「違うんだよなぁ……」
葉っぱの床へ寝転びながら空を見上げる。
人類は何万年もかけて風呂を進化させてきたのだ。
川で終われる訳がない。
「よし、風呂を作ろう」
決意した。
屋根を作った。
壁も作った。
床も作った。
なら風呂だって作れるはずだ。
と、思いたい。
「何してるんだ?」
最近では驚きもしない。
煎餅暇神である。
「風呂です」
「まだ作ってないだろ」
「今から作るんです」
「そうか」
ロキは煎餅を齧った。
興味があるのか無いのか分からない。
多分ある。
暇だから。
俺は大木の反対側へ向かった。
屋根と壁のある寝床とは反対側。
少し窪んだ場所がある。
「ここだな」
まず穴を掘る。
石を並べる。
隙間へ小石を詰める。
また石を並べる。
見た目は悪い。
だが。
何となく風呂っぽい。
数時間後。
完成した。
「……」
俺は腕を組む。
目の前には石で囲われた窪み。
見た目は雑。
非常に雑。
だが。
「……岩風呂」
言ったもん勝ちである。
「石だぞ」
「岩風呂です」
「石だな」
「岩風呂です」
負けられない戦いだった。
俺は川から水を運ぶ。
何往復もする。
地味に重労働だった。
そして。
完成。
水が溜まった。
「問題はここからだ」
温度である。
風呂とは湯船だ。
つまり温かくなければならない。
だが火を起こす技術はまだ無い。
魔法も無い。
理由はロキの娯楽の為である。
最低だった。
だから俺は考えた。
そして。
「太陽だな」
太陽に任せることにした。
朝。
水を張る。
昼。
待つ。
午後。
待つ。
夕方。
まだ待つ。
「何してるんだ?」
「風呂を温めてるんです」
「ほう」
ロキは煎餅を食べる。
俺は待つ。
ひたすら待つ。
そして夕方。
「きた……」
俺は静かに岩風呂へ近付いた。
手を入れる。
温度を確かめる。
沈黙。
「ぬるい……」
絶望だった。
期待していた。
かなり期待していた。
だが。
「日差しで温まったプールよりぬるい……」
「知らん」
「知ってます」
ロキは笑っていた。
腹が立つ。
非常に腹が立つ。
「川よりは温かいだろ」
「誤差です」
「温かいぞ」
「誤差です」
大事なことなので二回言った。
俺はため息を吐いた。
そして服を脱ぐ。
「入るのか」
「入ります」
「ぬるいんだろ?」
「風呂ですから」
重要だった。
非常に重要だった。
俺は岩風呂へ入った。
ちゃぷん。
沈黙。
「……」
ぬるい。
びっくりするほどぬるい。
だが。
風呂だった。
川ではない。
風呂である。
そして次の瞬間。
「いてぇっ!」
飛び上がった。
尻が痛い。
背中も痛い。
足も痛い。
岩だった。
完全に岩だった。
「いてぇいってぇ!!ゴツゴツ!!」
風呂どころではない。
痛い。
とにかく痛い。
ロキが腹を抱えて笑い始めた。
「はははははっ!!」
「笑い事じゃない!!」
「風呂だろ!?」
「岩です!!」
俺は抗議した。
切実に。
ロキは笑い続けている。
本当に失礼な神だった。
だが。
少し位置を変える。
痛くない場所を探す。
そして。
「……」
ゆっくり息を吐く。
ぬるい。
岩は痛い。
完璧とは程遠い。
だが。
「川よりマシだ……」
ぽつりと呟く。
ロキが笑いながら言った。
「安い極楽だな」
「うるさい」
だが否定はしなかった。
屋根がある。
壁もある。
床もある。
風呂もある。
完璧ではない。
それでも。
十日前より遥かにマシだった。
俺は空を見上げた。
青空だった。
平和だ。
実に平和だった。
異世界生活十日目。
俺は人生で初めて岩風呂を作った。




