コバの村1 82
「多いなぁ」
そう答えるが、皆から首を左右に振られてしまう。
「本当に最低限の人数ですよ」
「むしろ、百人は連れていくと思っておりました」
リリーやフォルからそう言われたら、納得せざるを得ない。とはいえ、冒険者の知り合いであるレフター達は四、五人程度で旅をしているのだ。本当にこんなに必要だろうか。
そんなことを思いつつ、出発する。
「申し訳ありません。本当ならば、私も同行して各村や町で事情を説明しなくてはいけないのに……」
「セーレは代官だから仕方がないよね。またちょこちょこ戻ってくるから、その時は宜しくお願いね」
「承知いたしました。何なりとお申しつけください」
出発時はセーレとそんなやり取りをした。まるで本当に俺の臣下になったかのようである。その様子に苦笑しつつ、ミド、カラビアと一緒に馬車で移動する。
リリー達は別の馬車だ。それに、物資を運ぶ馬車も二台あり、馬車は合計四台。馬は三十頭という豪華な旅路である。
まぁ、王族からすれば貧相なのかもしれないが、俺にとっては見たこともない光景だ。その移動風景はカラビアにとっても面白かったらしく、景色が流れる様子を笑顔で眺めていた。一方、ミドは緊張しているようである。
「り、リリー王女と同じような扱いを受けています。し、信じられません。本当に、一か月前の私なら気を失っていたかもしれません」
と、ミドは恐縮していたが、村に着くころには慣れてきていた。
「この馬車は快適ですね」
「そうだね。思ったより揺れも少ないし、座面も柔らかくて乗り心地が良いなぁ」
返事をしつつ、窓から景色を眺めていると、ミドが乾いた笑い声をあげた。
「こ、こんなに豪華な馬車は貴族様じゃないと乗れないと思いますが……」
「あ、そうなの?」
驚きつつ、馬車の内装を確認する。確かに、窓枠から壁面や天井にいたるまで、細部の装飾までこだわった豪華ながらシックな造り。お洒落である。
「あ、壁が見えてきた」
「え?」
窓から顔を出して進む先を見ていたカラビアの報告を受け、同じように窓から顔を出して前方に目を向けてみる。すると、確かに城塞都市バシムを小型化したような城壁の姿があった。
「あれが、コバの村だったかな?」
「そうですね。バシムから見て南西に進んだところにある村とのことです。この馬車はとても速いので、セルディカ神聖国の王都はかなり遠いようですね」
「確かに。コバの村の次は南にあるウイルクの町、その次が西にあるゼンドの町だというしね。中々遠いなぁ」
そんな会話をしている内に、コパの村は目の前に迫ってきた。
大きな石の壁だ。バシムほどではないが、それなりに頑丈そうである。高さは五メートルほどはあるだろうか。
「城塞都市バシムより参った! 村長はおられるか!?」
先頭でフロンスが声をあげると、それを合図にしたように城門が開き、そのまま入場となった。
「おお、フロンス様! どうされたのですじゃ?」
馬車の前方で村長らしきおじいさんとフロンスが会話をしている。どうやら、簡単に経緯を話してくれているらしい。
「可愛い家」
カラビアが村の中の景色を見て呟く。見ると、規模こそ小さいが、よく整備された綺麗な村の景色が広がっていた。それほど人口が多くないのか、建物同士の間隔も広く、通りには街路樹が植えられている。
「良い雰囲気の村だね」
カラビアに笑いながらそう告げ、村の様子を確認する。静かで落ち着いた雰囲気の村だ。入り口には広場があるが、そこに作っても良いものだろうか。
そんなことを思っていると、フロンスが村長を連れてくる。
「ソータ様、少々よろしいでしょうか」
「はい?」
名を呼ばれたので振り返ると、村長が頭を下げる。
「お初にお目にかかります。このコバの村を管理しております。村長のエボスと申します。森の賢者様を王都へお連れしているとお聞きしたので、ご挨拶をさせていただきたいとフロン様へお願いさせていただきました」
そう言って、エボスを名乗る老人は目を細めた。柔和な笑みを形作っているが、どうも怪しまれているようだ。フロンスの紹介ということもあり、言葉にはしていない。しかし、その目には隠せない感情のようなものが見えた。
それに気が付いた俺は、馬車を降りて笑顔で応じる。
「ああ、これはご丁寧に。ソータです。折角なので、一つお願いがあるのですが、良いですか?」
挨拶もそこそこに、すぐに本題に入る。それにエボスは戸惑っていたが、フロンスが口の端を上げて頷いた。
「おお、有難い話ですぞ! 村長殿。村の中で空き地などはありませんか?」
「あ、空き地、ですか。勿論、あるにはありますが……」
困惑した状態のままのエボスに案内してもらい、村に着いて早々に地下街を作成させてもらうことにした。村を軽く見て回り、村の中が地図上に全て表示されていることを確認してから、タブレットを操作して地下街を設置する。もちろん、送電線と上下水道もだ。
「な、ななな、なんですか……!?」
地鳴りが起きて、村の端にある空き地に地下街への入り口が出現した。そこに入ると、エボスが腰を抜かした。
「な、なな、何が……!? いつの間に、こんな地下空洞が……っ!」
驚愕するエボス。そこへ、リリー達が遅れてやってきた。
「これが、森の賢者様の御力なのですよ」
「あ、貴女様は、まさか……り、リリー王女!?」
地下街の出現の後はリリーの出現だ。エボスはもう驚き疲れてしまっている。そんなエボスの様子を見つつ、リリー達が地下街について詳しく説明をしていた。時折、地下街の通路にエボスの驚きの絶叫が響き渡るが、それは聞き流し、新たに地下街から地下通路を最低限の長さで設置し、そこに地下鉄駅を置く。
地下道路とは別に、更にもう一段階下に地下道と線路を設置したのだ。地下鉄の線路は城塞都市バシムまで伸ばし、バシムの端にも駅を設置する。そこから、今度はマルサスが待つ死の森の端に地下駅を作って接続した。その近くに隣接する形で地下に車両駅と車両庫を設置したので、これでマルサスのいる死の森駅と、城塞都市バシム駅、そしてコバの村駅を繋ぐことができた。
「後は、住民の登録だな。ちょっと皆に説明をしないと……」
そう口にして顔を上げたところ、リリー達がこちらに走ってくる姿が目に入った。
「そ、ソータ様!?」
「何か、地響きが……っ!」
リリーとフォルが慌てた様子でそう口にする。それに頭を下げつつ、地下街の奥を指差した。
「あ、ごめん。ちょっと駅を設置したから……遅くなったけど、説明して良いかな?」
そう尋ねると、リリー達は顔を見合わせてから頷いた。




