王都を目指す 80
「できるだけ早く、王都まで辿り着く必要があるんだ。それまでの過程で通過する町や村で休みつつ、そこまでの道を整備しようかな、と」
そう告げると、リリー達が深く頷く。その中で、フォルが片手を挙げた。
「あの、こちらとしては有難いのですが、ソータ様をお連れするなら、騎士団を連れて慎重に移動するべきではないかと……」
「いや、時間が無くてさ。できたら一ヶ月以内に王都まで行きたいんだよね。どれくらいで到着するかな?」
「い、一ヶ月……それでしたら、確かに急がねばなりませんね。最低限の荷物だけを積んだ二頭立ての馬車でも、一ヶ月前後となりましょう。馬を潰すつもりで、尚且つ夜営も最低限で移動するなら、恐らく二週間と少しといったところでしょうか」
「おお、二週間! でも、馬を潰すつもりって……それに、乗馬はなぁ……」
そう呟き、溜め息を吐く。噂によると、馬に乗るのは難しいらしい。七、八歳の頃に牧場で乗ったことがあるらしいが、どうだったかも覚えていない。
現実的に考えるなら、極限まで軽量化した馬車で移動をするしかあるまい。
「よし。それじゃあ、できるだけ速い馬車での移動にしよう。一ヶ月で帰らないといけないから、何とかお願いできるかな?」
「承知いたしました! ラウム殿とフロンス殿に相談いたしますので、少々お待ちを」
そう言って、フォルはすぐにラウムとフロンスに声を掛け、話し合いだした。その間に、リリーとセーレが地下街の運用や、王都と地下道が繋がった後について話を始めた。
そんな様子を眺めて、ミドとカラビアの方へ向かう。
「方針は決まったし、ちょっとだけ街を見てみる?」
そう聞いてみると、カラビアが一番に顔を上げた。
「あ、み、見ても良いの?」
聞き返してきたが、その表情は物凄く嬉しそうだ。ミドは少し心配そうにしていたが、それでもカラビアの表情を見て微笑んでいる。
「大丈夫でしょ」
笑いながらそう言って、セーレに声を掛ける。
「ちょっと街を見てきて良いかな? とても立派な街並みだったから、見学してみたくて」
そう言ってみたところ、セーレはハッとした顔になり、リリーとの会話を中断して一礼した。
「も、勿論です。それなら、私が案内をいたしましょう。それと、フロンスを護衛にお付けいたします」
「あ、それなら私も同行させてください。バシムの状況、確認しておこうかと」
「は、はい。しょ、承知いたしました……」
リリーが同行したいと申し出て、セーレは頬を引き攣らせながら同意する。ある意味、王家の視察のようなものだ。緊張するのだろう。
馬車は都市騎士団の協力を受けてフォルとラウムが準備をすることとなった。旅の準備をするまで、セーレ達が街案内を担当してくれる。
「あれは?」
「あれは、布や皮をつかった衣服、雑貨のお店でございます。どうぞ、お手に取りください。気に入ったものがありましたら、我々からの友好の証として贈与させていただきます」
「すごく綺麗な色で、か、可愛い」
「あ、面白い形のテーブルと椅子ですね」
「はい。城塞都市バシムでは木工も盛んにおこなわれております。良かったら、家具一式を贈呈させていただけたらと……」
「ええ!? そ、それは申し訳ないですよ……」
流石は街を管理する代官である。カラビアやミドが何かに興味を持つと、観光案内のプロのように説明をしつつ、商品までプレゼントしてくれた。
カラビアとミドはフード付きのローブを脱ぐことができない為、プレゼントされた上着と皮の靴を手に持って歩いている。ちなみに、俺は既に貰った上着と靴を装着済みである。
「やっぱり、大きな街は色んな物があって良いね」
「あ、ありがとうございます! 本当なら、バシムの名物である小麦を使った料理なども食べていただきたかったのですが、この状況では飲食店なども開いておらず……」
セーレは恐縮してそんなことを口にするが、ミドもカラビアも十分楽しんでいる。
「いや、本当に楽しめているよ。ありがとう」
「そ、そうですか? それなら良いのですが……」
セーレが困ったように笑い、そう口にした時、何者かがこちらに歩いてきた。頭にターバンを巻いた細い目の男だ。商人のような服装だが、何者だろうか。
「……失礼いたします。行商人のアッサグと申します。失礼ながら、森の賢者様で?」
男が微笑み、頭を下げてそう尋ねてきた。それに、フロンスが目を見開いて前に出る。
「何者だ」
フロンスが警戒して正体を確認し、アッサグと名乗った男は細い目を糸のように細めた。
「おっと、フロンス騎士団長ではありませんか。お初にお目にかかります。行商人のアッサグと申します。以後、お見知りおきを」
アッサグは恭しく一礼して改めて自己紹介をするが、フロンスは警戒を解くことはなかった。
「ただの行商人ではあるまい。普段からこの街に出入りしているのであれば、顔を見れば分かる。どこの商会の者か」
フロンスが再度尋ね、アッサグは困ったように笑う。
「いえいえ、それが商会に所属しておらず、個人で細々と商売をさせてもらっておりますので……そんな折、とんでもない大物が現れたと聞いて、居ても立ってもおられず」
アッサグはのらりくらりとした様子でそんな言い訳をした。
その様子を見て、なんとなく正体を察する。
「あ、多分、俺がアッサグさんが探している人物で間違いないですよ」
そう告げると、アッサグは破顔した。
「おお! やはり! セーレ様とフロンス騎士団長がとても丁寧にご対応されていたので、もしやと思っておりました! はっはっは!」
アッサグはそう言ってフロンスの横を通り抜けようとしたが、すぐに押し留められた。
「近づくことは許可できぬ」




