豊かな食生活へ 79
リリー達にも色々と確認し、やっと方針が決まった。その方針を伝える為、マルサスの下へ戻る。きちんとした宿で一泊したいと思っていたが、食べる物にも困っている町では厳しいかと判断し、セーレから調味料だけを受け取って帰宅した。
「む? 朝帰るのではなかったか」
「いや、せっかくだから皆で食事をしようかと思って」
苦笑しながらそう言って、マルサスの暮らす地下駐車場で食事を行う。隣に地下の住居を作っているので、そこで調理をして持ってきたのである。
「……む、味が濃いな」
「あれ? 濃かったかな?」
どうせならと、セーレから受け取った調味料を豪華に使って調理したのだが、普段から焼くだけ調理のザガン族には濃かったのかもしれない。
そう思ったが、マルサスは首を左右に振った。
「いや、美味い」
言い直して、食事を再開するマルサス。その様子を、カラビアは嬉しそうに眺めていた。色々と事件が起きているが、カラビアは外に出てずっと楽しそうである。対して、ミドは前半はかなり不安そうにしていた。バシムの下に地下街を作ってからようやく笑顔が増えてきたが、避難場所ができて安心したのだろうか。
「ミドはどう?」
そう尋ねると、ミドはニコニコしながら首肯した。
「はい! とても美味しいです!」
おお、いつものミドだ。良かった。
「やっぱり、人間の街に行くのは不安だったかな?」
そんな質問に、ミドは困ったように笑う。
「あ、は、はい……すみません。もし、ハーフダークエルフだとバレたらと思って……」
やはり、長年辛い境遇にあったせいか、ミドは人里が怖いのかもしれない。
「……そっか。なら、次は安心できる旅路にしないとね」
そう呟くと、ミドは目を瞬かせて首を傾げた。
さて、そうと決まったら善は急げである。食事もほぼ終わったので、マルサスに本題を切り出すことにした。
「それで、マルサスさん。ちょっとお願いがあるんだけど」
そう口にすると、マルサスが振り向く。
「なんだ?」
「えっと、申し訳ないんだけど、一ヶ月ぐらい滞在しても良いかな? 何日かごとに戻ってくるから」
そう言うと、マルサスはすぐに頷き、カラビアを見た。
「一ヶ月か。分かった。だが、カラビアはどうするつもりだ。ずっと人間の街で過ごすのは危険だろう」
そう言って、マルサスはカラビアの頭を片手で撫でる。それに、カラビアは目を細めて頭をマルサスの方へ寄せた。長身の美女が行うには少し幼過ぎる行動なのだが、何故か違和感がない。
「大丈夫。この地下室と同じくらい安全な部屋に毎回泊まるから。それならどうだろう?」
聞いてみると、マルサスは一、二秒考える素振りをみせて、やがて了承した。
「……分かった。カラビアを頼む」
「え? いいの?」
あまりにも早く許可が下りた為、逆に驚いてしまう。
それに、マルサスが目を細めて口の端を上げる。
「……ソータはザガン族の友であり、恩人だ。ソータが大丈夫だと言うなら信じるのみだ。それに……」
そこで口を閉じ、マルサスはカラビアの顔を見下ろす。そして、再び口を開いた。
「……カラビアがこんなに楽しそうにしている姿は見たことがない。カラビアが喜ぶならば、我もそのようにしたいのだ」
と、マルサスは優しい顔を見せる。なんだ。良いお兄ちゃんではないか。
「了解。じゃあ、後は任せて」
そう告げると、マルサスは静かに頷いたのだった。
翌日、地下道を通って城塞都市バシムの下に設置した地下街に到着し、奥へと向かった。すると、徐々に肉を焼いたような匂いが漂ってくる。
「地下街で焼肉パーティーでもしたのか?」
そんなことを呟きながら周りを見回しつつ、更に奥へ向かう。
「お、おお! ソータ様!」
「戻ってこられましたか!」
ラウムとフォルの声がしたので顔を上げると、騎士達が木の皿を持って通路に座っていた。そして、何かを食べながら涙を流している。
「う、美味い……っ」
「美味すぎるぞ!」
「ひ、久しぶりの肉だーっ!」
どうやら、肉を焼いて食べているのは騎士達のようだった。まさか、昨日からずっと肉を焼いて食べていたのだろうか。
そう思って眉根を寄せていると、ラウムとフォルの後ろからリリーが姿を見せた。
「あ、ソータ様! ちょうど、住民達に頂いたお肉を配り終えました!」
輝くような笑顔でそう言われて、成程と頷く。どうやら、夜通し住民達を集め、肉の配給をしていたようだ。それで、騎士達は最後になったということかな。
「それで、お肉は全て無くなった?」
「え? あ、もう少しだけ残っておりますが、恐らく、本日中には無くなるかと……」
「そう。それなら、マルサスさんにお願いしているから明日にでも取りに戻ろうかな」
そう告げると、リリーは胸の前で手を合わせて笑顔を浮かべた。
「あ、ありがとうございます! 本当に、なんとお礼を言って良いか……」
喜ぶリリー達。そこへ、地上からセーレ達が降りてくる。
「お、おはようございます! ソータ様!」
「あ、おはようございます」
セーレ、フロンスが地下街に入り、すぐに一礼して挨拶をしてきたので、丁寧に挨拶を返しておく。すると、セーレが両手を顔の前で左右に振った。
「お、お止めください。我々はソータ様が森の賢者様であられると理解いたしました」
と、セーレは恐縮する。どうやら一日が経ち、態度を改めたらしい。森の賢者というわけではないが、説明ができないのでそのまま否定も肯定もしないでおく。
「そ、そう? それじゃあ、セーレさん。今日は……」
「セーレで、問題ありません」
「せ、セーレ? まぁ、それで良いなら……」
そう呟き、こちらも態度を改めることにする。
「それじゃあ、今後の話をしようか」
「は、はい!」
セーレとそんな会話をしていると、リリー達もすぐに傍に寄ってきた。軽く輪を作るようにして立ち、皆がこちらの言葉を待つ。俺はゴッタブを手に持ち、地図を表示した。




