救国の提案2 78
「さっきも伝えた通り、この地下街は幾つも出入口があるけど、扉を開けることができるのは指定された人物だけなんだ。だから、各都市を地下通路で繋いで、地下街を使ったりすれば、簡単に戦争に勝つこともできるようになると思う」
そう口にすると、ラウムとフロンスが目を見開いて声をあげた。
「おお!」
「まさに、その通り! 安全に大軍を運用でき、反撃を受けることなく撤退も……っ!」
騎士である二人はすぐに地下街と地下通路の有用性を理解した。なにせ、逃げ込めば鉄壁の要塞であり、うまく移動すれば奇襲でも挟撃でもやり放題だ。相手からすれば堪ったものではないだろう。
二人の言葉に頷き、片手をあげて話を続けた。
「そういうわけで、この地下街を戦争には使わないでほしいんだよね」
そう告げると、ラウムとフロンスは愕然とした顔になった。
「な、なんと……!?」
「何故、そのような……」
ショックを受ける二人。その隣で、リリーが眉根を寄せ、真剣な表情で顔を上げた。
「……ソータ様は、賢者としての御力で人が死ぬのを嫌っておいでですか?」
あっさりと、リリーはこちらの心情を理解してくれた。あまりにも甘い考えで笑われるかもしれないが、まさにその通りである。
国が滅亡するかもしれないという窮地にいる相手に対して申し訳ないことだが、俺は自分が理想とするような最高の街を作れれば良いのだ。戦争の兵器のように扱われるのは望ましくない。
ただ、助けを求めてきた相手を突き放すようなこともできない。まったく、我ながら優柔不断である。
そんなことを思いつつ、気落ちするセーレやフロンス、ラウム達を眺めて苦笑する。
「まぁ、唯一戦争で使用を許可するとしたら、防衛する時だけかな? ティアバルナ帝国とか、理不尽に攻めてくる敵国に対して、不可侵を提案してみて欲しい。それでも攻めてくる場合に限り、相手を追い払う為に使用するなら、王都まで地下道を繋いでも良いと思っているよ」
まあ、CP次第では時間が掛かるかもしれないが。
そんなことを思いつつ、リリー達の返事を待つ。
「そ、そんな悠長なことを……」
「帝国は、それほど甘い相手ではないぞ……」
「いや、しかし、賢者様の御力がなければ……」
リリー達の後方で話を聞いていた騎士達がざわざわと声をあげる。やはり、長年にわたり圧力を掛けられてきただけに、納得することはできないのだろうか。
どうにか他の方法でセルディカ神聖国を援助するとしようか。そんなことを考えながら悩んでいると、リリーが顔を上げた。
「……承知いたしました。セルディカ神聖国は、ソータ様の御言葉に従います。我々からは決して戦を行うことは致しません。また、防衛の際にも過度な追撃はしないようにしましょう。それであれば、ソータ様のご意向に沿いますでしょうか?」
リリーは静かに、しかし力強くそう答えた。その言葉に、深く頷く。
「そうだね。それなら協力しよう」
最高の回答である。何も問題はない。それにホッとしたように、リリーは笑顔になった。
「あ、ありがとうございます! 必ず、陛下にもソータ様の御言葉を守るように伝えますので、ご安心ください!」
と、リリーが口にした。それに苦笑しつつ、片手を左右に振る。
「まぁ、約束を破ったら施設を撤去すれば良いだけだしね」
無意識に思ったことを口にしたところ、リリー達の顔が引き攣った。
「……絶対に、お父様を説得いたします」
「ほ、他の騎士団にも厳命せねばなりませんぞ」
「わ、分かっています」
リリー、ラウム、セーレ達がひそひそとそんなやり取りをしている。深刻そうだ。思った以上にしっかりとした釘が刺せたらしい。
今後のことについて話し合うリリー達を横目に、タブレットのディスプレイに指を置いた。
「さて、一国の領土を縦断するくらいの地下通路か……CPがどれだけいるんだろ?」
国土すら正確には知らないのだ。下手をしたらゲーム内で地下鉄を設置するくらいのCPが必要かもしれない。地下鉄の駅は地上の簡素なもので二百。地下の大きなものになると千ポイントと高価なものだが、地下の線路も同様である。街の各所につなげていくと、あっという間に一万、二万ポイントと消費量が増えていくのだ。
現在作っている地下通路は、車両用の道路である。線路に比べれば安いが、それでも地上を走る線路より高い。
あまりに距離が長いようなら、地上に最安の無人駅と車両倉庫を設置し、一番安い線路で繋いだ方が安上がりになるかもしれない。
まずは、地上を地道に歩いて王都を目指すしかないだろうか。そうなると、帰宅まで何日かかるか分からないではないか。
「……CPの量が悩ましいな。こればかりは、簡単には増やせないし」
そう呟きながら、メニューを開く。そして、驚愕した。
「な、なにぃいいいっ!?」
突然の森の賢者の大声に、皆が一斉にこちらを振り向く。
「な、何事ですか!?」
「な、なに? どうしたの?」
ミドとカラビアも飛び上がって驚いた。
「あ、ご、ごめん。ちょっとね」
ミド達にそう答え、困惑した様子のリリーたちに片手を振って誤魔化す。
そして、すぐにタブレットに視線を戻した。
「な、なんで……?」
そう呟きながら、CPの取得履歴を確認する。
なんと、CPの残量が二十万を超えていたのだ。
「人口ボーナスが一、二、三、四、五回……いつの間にか、二万人を超えてる? それに、エリア拡大ボーナスも六回? 人口達成ボーナスとエリア拡大のボーナスを受け取って、一気に二十万もポイントが増えたのか……」
ゲームでもそんなに急激に増えたことはない。何が起きたのかと情報を確認していると、どうやら城塞都市バシムの下に地下街を作ったことで、城塞都市バシムの人口がまるっと我が村の街扱いになったらしい。
「いや、待て……確か、他の国に所属している町や村は外部扱いにならなかったか? どうして、俺の街扱いに……」
口の中で小さく呟き、タブレットから顔を上げる。なんとなく、リリー達に視線を向けてみた。
すると、心配そうな表情でこちらを見ている面々の姿が目に入る。その姿に、慌てて口を開いた。
「あ、大丈夫ですよー。とりあえず、王都まで地下通路を繋げると思うんで」
軽い調子でそう告げたのだが、リリー達は戦争に勝利でもしたかのように喝采を挙げた。物凄い喜びようだ。あまりにも喜んでくれているので、こちらも思わず笑顔になってしまう。
そして、大きな街を任せられていたセーレは涙を流して喜んでいた。
その姿に、なんとなく理解する。恐らく、街の代表であるセーレが、セルディカ神聖国の臣下であるという自覚が薄れたのだ。いや、どちらかというと、森の賢者の傘下に入ったという感覚なのかもしれない。
勿論、本人はセルディカ神聖国の臣下であろうと思い、忠実に王からの指示に従うだろう。しかし、内心では違うのかもしれない。
「……いや、流石にそんなことはないか。セルディカの貴族だしな」
色々と理由について考えてみたが、根拠はないし、あまりにも自分に都合の良い考えである。恐らく、別の理由だろう。良くは分からないが、他の町で実験をしてみても良いかもしれない。
明確な条件が分からない以上、考えても仕方がない。そう判断した俺は、マップを確認しながら今後について頭を働かせることにした。




