城塞都市バシム4 76
「凄い! なんという広さだ!」
「……こ、これは予想外でした」
フロンスが愕然とし、ラウムやリリーが驚きの声を上げる。あ、リリー達はザガン族の新しい住居を見ていなかったか。
セーレは口が開いたまま立ち尽くしており、護衛の騎士達も護衛のことを忘れて地下街の景色に目を奪われていた。
「えっと、照明は大丈夫だけど、空調が……?」
地下街の各出入り口に設置されている操作盤を確認していると、何故か空調が作動していないことに気が付く。ザガン族の住居は不要だと言われたので空調をオフにして節電させてもらっていたのだが、こちらはそうではない。
試しに空調をオンにしてみたのだが、その直後、全ての照明が消えてしまった。
「や、闇だ……!」
「地下に生き埋めになるぞ!?」
突然の暗闇に、混乱はピークを迎える。
「あ、すみませーん!」
大きな声で謝ってから、空調をオフ、照明をオンに切り替えた。再び地下街に光が戻り、険しい表情の皆の顔が目に入った。
「電力不足ですね。ちょっとお待ちを」
そう言ってから、タブレットを操作して地図を表示、座標を移動させる。地図は実際に歩いた場所しか表示されていない為、バシムの外の森は細長い線のようになっている。森の入り口近くにはマルサスが住む地下駐車場があり、道路の下には送電線と上下水道が通っていると表示されていた。ちなみに、画面の表示を切り替えると青い線と白い線が浮かび上がる。白い線が水道であり、青い線が送電線だ。とても分かりやすい。
その地図を確認していき、少し高台になっている場所を発見。そこに風力発電機を設置した。これで電力の供給源が二ヵ所になった。災害などで何かが起きても最低限の電力は得られるはずだ。
「森の撤去と風力発電機。水の使用量によっては取水設備と排水処理施設を追加で設置かな?」
そんなことを思いつつ、地下街から森の地下通路まで道路をつなげた。
直後、タブレットのディスプレイの映像が切り替わり、大きな街と空には花火が上がる。何かしらの条件達成によるエフェクトだ。これは、ナンバリングに関係なく、COCのシリーズで共通の仕様である。
何を達成したのか。俺は「よっしゃーっ!」と叫びたい衝動を抑えながら、ディスプレイをタップしようとした。
「あ、あの……」
しかし、声を掛けられてしまう。
「ん?」
振り向くと、困ったように笑うリリーの姿があった。フォルやラウムも申し訳なさそうな顔でこちらを見ている。
「よ、よろしければ、セーレ達に御説明してもらえると……」
リリーにそう言われ、状況を思い出す。見れば、セーレ達は出入口近くの場所に団子のように固まっており、こちらを警戒するように見ていた。
「あ、ごめんごめん」
苦笑と共に謝罪の言葉を発し、セーレ達の下へ向かう。
「えっと、セーレさん?」
「な、ななな、なんですか……!? わ、我々を捕らえて、どうするつもりで……っ」
何やら誤解を与えたようだ。物凄く怖がっている。元々小柄な姿なのもあり、まるで怯える小動物である。
「え? 誤解されているようですが、閉じ込めてませんよ」
そう答えると、セーレは首を左右に振り、否定した。
「う、嘘です! 扉は開きませんでした!」
セーレのその言葉に、首を傾げる。設定を間違えただろうか。いや、もしかしたら、護衛の騎士達に扉を開けるように指示を出したのかもしれない。
「セーレさんとフロンスさんは扉を開けることができるようにしています。どちらかが扉を開けてみてください」
そう告げると、フロンスが眉根を寄せ、慎重な動きで扉の方へ向かった。剣の柄でガラスの扉を突いたりして様子を見ると、そっと取っ手を掴んだ。
フロンスが力を込めると、あっさりと扉は開かれた。
「……あ、開きました」
フロンスが困惑したような顔で振り返る。それに、セーレはグッと表情を引き締め、数秒ほど考える素振りを見せた。そして、緊張した面持ちでこちらに振り返る。
「も、申し訳ありません……っ! あまりにも信じられないような出来事が続き、その、これは悪魔の所業に違いないと……」
セーレは土下座せんばかりの勢いで頭を下げた。その様子に苦笑しつつ、片手を左右に振る。
「いえいえ、仕方ないことだと思います。それで、この場所の説明をしても良いですか?」
そう口にすると、セーレ達は慌てて整列し、聞く姿勢となった。先ほどまでの態度と比べると冗談のように殊勝な態度になり、思わず笑ってしまう。
「それでは、ソータ様。改めてお願いいたします」
リリーにそう言われてから、ようやく地下街の説明に移った。
「まず、ここは指定された人物しか扉を開けられない避難所になります。全体の明かりはそこの板で操作しますが、各部屋の明かりはそれぞれの場所で点けたり消したりできます。次に……」
言いながら奥へと進み、飲食店用の部屋を指差す。奥には厨房があり、手前にはカウンターやテーブル席があるタイプである。
「こういった形状の部屋は奥に調理場、厨房があります。水が出ますし、加熱による調理も可能です」
そう説明してみたが、セーレ達はきょとんとしている。仕方がないので、リリー達に声を掛ける。
「実際にやってみてくれるかな?」
「は、はい! お任せください!」
何故かリリーの方が臣下のような態度で畏まり、返事をした。リリーやフォル達が声を掛けると、セーレ達はぞろぞろと店舗用の部屋の中へ入って行った。
リリーが笑顔で水道のレバーを倒すと、大量の水がジャバジャバと蛇口から流れ出す。それを見て、セーレ達は目を見開いて驚いた。
「み、水が……!?」
「ど、どんな仕組みの井戸だ!?」
騒がしくなるセーレ達の様子に目を細めつつ、フォルが咳払いをしてから厨房を指し示した。
「こちら、なんと火が無くとも肉を焼くことができる設備でございます。それも、ここを押すだけで簡単に!」
フォルが新しいキッチンを紹介するハウスメーカーのような態度で厨房の説明をする。それに続いて、ラウムが咳ばらいをして皆の注目を集め、口を開いた。
「さらに、まだまだあるぞ! それは便所だ! さぁ、付いてきてくだされ!」
ラウムがそう言って、セーレを含めた全員をトイレへと連れて行った。地下街に数か所ある共用トイレだ。多分、男子トイレでも個室が二つ以上と小便器が四つはあるだろう。
ミド達と一緒に外で待っていると、トイレの中から大勢の驚きの声が響いてくる。
「ぬお!?」
「み、水が出たぞ!?」
「こ、このような美しい椅子で用を足すのか……?」
中々個性的な絶叫が聞こえてくる。椅子が温かいだの、尻に水が、などと叫び声が聞こえてくるが、まぁ否定的な反応ではないだろう。
暫くして、全員が神妙な顔で出てきた。
そして、共用トイレ前の通路で皆が片膝を突き、頭を下げる。
「……ソータ様。これまでの無礼を御許しください」
セーレがそう口にすると、フロンスが地面に頭を下げた格好のまま大きな声で続いた。
「我々は、リリー王女がどこぞの詐欺師に騙されてしまったのではないかと疑ってしまい、ソータ様の御言葉も信用することができませんでした! しかし、この恐るべき魔術を見て、リリー王女の御言葉が正しいと……ソータ様が森の賢者様であると理解いたしました」
フロンスがそう口にして、騎士達が同意の言葉を述べる。
「ソータ様こそ、森の賢者様!」
「我々はもう疑いません!」
そんな言葉の後で、セーレが顔を上げて、口を開く。
「森の賢者様……我々を、セルディカ神聖国を、どうかお助けください……っ!」




