表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
わが青春の泉荘  作者: 田久青
7/22

異郷里交流会

東京の最も南のエリアに大田区がある

大田区の中で最も大きな街が蒲田だ

新編武蔵風土記によると、かつて蒲田は梅の木村と呼ばれ、梅の名所だった

江戸時代には歌川広重が蒲田の梅を描いていて、蒲田梅屋敷と呼ばれたらしい

現在でも蒲田の属する大田区の「区の花」は梅である。

JR蒲田駅より東急池上線の蓮沼駅の方が近い場所にそのアパートは建っていた

年季の入った木造モルタルの2階建て

ひび割れ模様の広がった外壁

歩くとギシギシときしんだ音がする渡り廊下

風呂なし共同トイレで部屋は6畳一間

そのアパートの名前は「泉荘」

泉荘には蒲田の専門学校へ通う同じ年頃の人達も住んでいた


伊藤君の専門学校の同級生で


赤いほっぺたをした山形出身の田中君と


長野出身で古舘伊知郎を垂れ目にしたような色白の坂本君と仲良くなった


二人はそれぞれ廊下を挟んだ両隣に住んでいた


ボサボサ頭の田中君は見た目に似合わず綺麗好きで


畳の上にワインレッド色の絨毯を敷いており


部屋の中はきれいに片づけられていた


壁際に並べて置いてあるカラーボックスには


森村誠一の文庫本がずらっと並んでいた


山形の訛りがひどいらしくあまり自分から口を開くことはなく


「森村誠一が好きと?」


と聞くと


「んだ」と小さな声で答えた


長野の茅野という所が出身地らしい坂本君は


おしゃべり好きで必ず言葉の最後にズラがついた


「いやあ伊藤君、今日の授業は本当に眠かったズラ」


ある日


伊藤君と佐藤君と僕の九州連合と


山形と長野と異郷里交流会を坂本君の部屋でやることになった


その日は途中から坂本君の高校の同級生の女の子も参加し


僕らは大いに盛り上がっていた


坂本君の同級生の女の子は髪が長く大柄の子で


印象としては無口で地味な女の子だった


様子からすると坂本君はその女の子に好意を持っているようだった


ビールの空き缶もどんどん増えていき夜の時間もどんどん過ぎて行った


酔っ払った坂本君が同級生の女の子に


「今日はここに泊まっていくズラよ」


と垂れ目がもっと垂れ下がって言った


「・・・・・・・・」


坂本君の言葉にOKなのか嫌なのか女の子の反応がよくわからない


「あ!なんだったらジャージも貸すズラよ」


赤ら顔の坂本君がかん高い声で言う


「・・・・・・・・・」


反応の良くわからない女の子


そのやり取りを黙って聞いていた伊藤君が突然立ち上がった


伊藤君もかなり酔っており目がすわっていた


「こら~お前、女のくせに、終電前にはよ帰らんか!」


その女の子に言い放った


女の子は突然のことに目がきょとんとしている


「伊藤君、そう言うなズラ、彼女の家は遠いズラ、泊まって行けば良いズラよ」


坂本君が言う


「い~や、でけん、帰れ帰れ、はよ帰れ!」


仁王立ちの伊藤君は引かないし、珍しくすごい剣幕だ


「んだ!んだ!」


赤いほっぺたの田中君も小さく言葉を発するが


何に対して「んだ!」なのかよくわからない


すると


女の子がしぶしぶ身支度をして帰る準備を始める


「仕方ないズラ、駅まで送っていくズラよ」


伊藤君の剣幕にあきらめた坂本君が駅まで送ることになりその宴会はお開きになった


伊藤君の部屋に戻り僕らは布団を敷いて寝ることにした


かなり酔っ払っていた伊藤君はいち早く鼾をかき始めている


「佐藤君、何で伊藤君は急にあがん怒ったと?」


僕は佐藤君にそーっと聞く


「わからん、伊藤君があがん怒るとは珍しか」


「ばってんさ、坂本君はズラズラうるさかよね?」


「そうたい、あの垂れ目でズラズラしつこく言われるとむかつくやろ?」


「ほんとばい、ここに喧嘩っぱやい神田君のおったらとっくに殴っとる」


「手の早い安藤君やったらぼてくりこがしとる」


「坂本君は殴られても痛いズラ痛いズラって言うとかいな?」


「ははは、言うやろ言うやろ」


「はははははは・・・」


いつの間にか僕らも深い眠りに落ちて行った


後日


あの異郷里交流会のあった日は


伊藤君が遠距離で付き合っている女の子と


ささいなことで電話で喧嘩をしてしまい


別れ話にまで発展してしまった日だったらしいということが分かった

お読みいただきありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ