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わが青春の泉荘  作者: 田久青
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5/22

佐藤君の災難

東京の最も南のエリアに大田区がある

大田区の中で最も大きな街が蒲田だ

新編武蔵風土記によると、かつて蒲田は梅の木村と呼ばれ、梅の名所だった

江戸時代には歌川広重が蒲田の梅を描いていて、蒲田梅屋敷と呼ばれたらしい

現在でも蒲田の属する大田区の「区の花」は梅である。

JR蒲田駅より東急池上線の蓮沼駅の方が近い場所にそのアパートは建っていた

年季の入った木造モルタルの2階建て

ひび割れ模様の広がった外壁

歩くとギシギシときしんだ音がする渡り廊下

風呂なし共同トイレで部屋は6畳一間 そのアパートの名前は「泉荘」

泉荘で共同生活をしていた佐藤君の話をしよう


佐藤君は小学校の頃


その小学校の校門のすぐ近くに住んでいた


家の裏には川(鏡川)が流れていてボラの稚魚が泳いでいた


佐藤君は当時から流行に敏感なところがあった


家に遊びに行くとシーモンキーを飼っていた


当時流行っていたアメリカン・パイという曲の


(ドン・マクリーンが1971年にリリースしたシングル)


親指に星条旗が描かれていたポスターが壁に貼ってあった


佐藤君は小学校の頃


冬のどんなに寒い日でも短パンにハイソックスだった


髪の毛も前髪は長髪で


少年画報の表紙に出てくるような恰好をしていた


「あの垢抜けした男の子はどこの子やろか?」


僕の母が言った


「あ~どい新町の佐藤君たい!」


そんな会話を覚えている


一人部屋の蛍光灯から垂れ下がった紐の先に


小さなタイヤのようなオレンジ色した輪っかが揺れていた


その佐藤君がある日


雨でもないのにずぶ濡れで泉荘に帰ってきた


伊藤君も僕もその姿に驚き


「どがんしたと?」


と佐藤君に聞いた


少し半べその佐藤君に訳を聞いた


当時、代々木ゼミナールという予備校に通っていた佐藤君は


予想以上に悪かった模擬試験の結果に落胆し


JR蒲田駅から泉荘への道を


足取り重くとぼとぼと歩いていたのだそうだ


それでも気持ちの切り替えの早い佐藤君は


「よ~し、次の模試向けてがんばらんば」


と立ち止まって空を見上げたそうだ


その時、見上げた空の左側に


アパートの2階に干されていたピンク色の


女性物のパンティが目に入ったそうだ


つい佐藤君は、そのパンティに目が釘づけになってしまったそうだ


すると突然、そのパンティを干してある2階の窓から


どう見ても年配のおばさんが


「この~痴漢~~!」


と叫んで青いバケツからたっぷり入ったお水を


佐藤君の頭からを勢いよく注ぎかけてきたのだそうだ


佐藤君はほんの2,3秒の出来事だと言っていたが


本当は2,3分見とれていたのかもしれない


佐藤君のずぶ濡れの原因は分かったが


伊藤君と僕は佐藤君のあまりにもの落ち込み方に


大笑いできなかった


泉荘の小さな台所で


パンツ1枚になったO君が


濡れたTシャツを洗っている


「若い女性ならまだしも、あがんおばさんに・・・・」


とブツブツ言っているのを横目で見て


伊藤君と僕は笑うのを必死で我慢していた

お読みいただきありがとうございました。

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