鈴の導き手
紙を手に取った私は、何事もなかったかのように席につき、周りの目がこちらを向いていないことを確認した。
「…ふぅ…」
軽く息を吐いてから、その紙をよく見た。
紙は四つ折りにされていた。
恐る恐る紙を開いた私の目に映ったものはー…
「…絵…?」
それは単なる花の絵だった。
黒い線で描かれたその花は、なんの『色』もついていなかった。
なんの変哲もない、ただの落書き…
緊張していた肩が、一瞬で力が抜ける。
(…なんだ。結局はただの紙だったんだ…)
落胆していると、再び鈴の音が聞こえた。
シャンッ、シャンッ
(…今度は外?)
音は窓の向こう側から聞こえてきた。
私は自然と身体を動かし、窓から外の様子を伺った。
そして私は見た。
「…え。」
シャンッ…
金色の鈴を付けた白亜の猫。
(色が…ついてる?)
初めてみたその色に、なぜか無性に心を惹かれてしまった。
気づけば、私は席から立ち上がり、手に持った紙をギュッと握りしめていた。
立ったままの私に気づいた先生は、「なにをしているんだ?」と少し語気を強めた気がする。
相変わらず皆が真っ黒な目でこちらを凝視してきていた。
「いい加減にしなさい。白井…。」
先生は目を細め、私を睨むように見つめてくる。
私だけがこの教室で浮いている…。
「…ごめんなさい…。」
窓の外にはまだ白亜の猫が何かを待っているかのように、ジッと座っていた。
「白井。クラスの輪を乱すな。みんなが迷惑をしているんだぞ。」
淡々とそう告げる先生に、私は初めて抵抗心を覚えた。
なぜ皆と合わせなきゃいけないんだ。
なぜ同じことを繰り返さなきゃいけないんだ。
「…すみません。ちょっと用事ができたので、帰ります。」
「は?何を言っているんだ…。」
本気で困惑する先生を横目に、私は深々と頭を下げ、教室を飛び出した。
「白井!!」という怒号を背中に受けつつ、私は白亜の猫がいるグラウンドへと走った。
…この世界はやはりおかしい。
私には感情がある。
何事にも代えがたい、人間としての心がある。
私たちは、自由でなければいけないはずだ。
「はぁ…!はぁ…!」
息を切らし、肩を上下に揺らしながら、白亜の猫が待つグラウンドへ出てきた。
ニャーオ。シャンッシャンッ…
猫は私に近づくと、匂いを嗅いできた。
そして、ある程度嗅ぎ終えた猫は、まるで私を導くかのように背を向け走り出した。
「あ!待って…!」
私は迷わず、その後を追った。
その先には、いったい何が待っているのだろうか…。




