そこに咲く華
タッタッタッ…
「はぁ…はぁ……ちょっと…まって…」
シャリンッ…
「……」
滝のように汗を流す私は、ジロっと見てくる猫の前で膝に手をついた。
ほぼ過呼吸の私に、猫は呆れているのか「ふんすぅ…」と大きな鼻息を吹いた。
「はぁ…ふぅ…。ねぇ、いったいどこを目指しているの…?」
息を整える私は、猫に尋ねてみた。
「…」
やはりというべきか…猫は首を傾げ、「何を言ってるんだ?」みたいな顔でこちらを見てくる。
私は喉まで出かけた文句を飲み込み、小さく息を吐いた。
シャンッシャンッと、猫は再び走り始めた。
それを追い、疲労が溜まる身体をなんとか動かす。
そして、人気のない路地を通り、猫がようやく足を緩めた。
(はぁ…まだなの?)
疲れた身体はフラフラと揺れ、汗で目がしみる。
カッターシャツが肌に張り付き、少し寒気を感じていると…
「ニャーオ。」
シャンッ…と少し高いところに飛び乗った猫は、その場で座ってしまった。
「…え?…まさか、ここで終わりなの…?」
辺りを呆然と見渡し、思わずため息にも近い息を吐いた。
そこには、落書きだらけの壁があるだけ。
それ以外に何もなかった。
疲労が一気に身体を包み、力なく膝が地面に崩れ落ちる。
肩で呼吸を繰り返しながら、その場で仰向けで倒れ込む。
体育以外で初めて走ったふくらはぎが、小さく痙攣している。
「…」
いったい…私は何を探していたのだろう…
「…ニャオ?」
何かを変えたいわけでも、どこかへ行きたいわけでもない。
私はただ、ほんの少しのズレに気づいただけ…。
「…っ。」
「…ニャー。」
胸に圧迫感を感じると思い、目線を落とすと、そこには猫がいた。
猫は私の上から降りると、左手を鼻でつついてきた。
何かを教えようとしているようだった。
(なんだろう…?)
パサッ…
「…!」
左手を開くとそこからあの紙が落ちた。
身体を起こし、その紙を見つめる。
「…白い花…」
色はついていない。ただの線画。
けれど、私はそれから目が離せない。
その時、紙がヒラヒラと揺れた。
(暖かい…風?)
目線を上げると、壁から微かな風が吹いていることに気がついた。
立ち上がり、一度壁に近づいてみる。
すると、突然紙が風にさらわれ、地面に落ちそのまま壁の奥に行ってしまった。
「あっ!!」
焦った私は、壁に手をついた。
ゴゴッ…!
「…え…。」
壁が微かに動いた。
口に溜まった唾液を飲み込み、私は力いっぱいに壁を押した。
ゴゴゴッ!!
壁を開くと、柔らかく心地よい暖かい風が私を包み込んだ。
「ッ…!!くはぁ…!」
壁を押し切った私は乱れた呼吸のまま、肩を上下に揺らしながら、その空間を見渡した。
そこには真っ白で、これと言って何かがあるわけではない。
無機質な白い空間。
なのに、確かに暖かい風は存在していて、心が軽くなっていく…気がした。
「んにゃ〜。」
シャンッ…
猫が一輪の花の前に座っていた。
私はゆっくり近づき、その花を見る。
それは紙に書かれていたのと同じ、色のついていない花。
凛と咲いたその花を見ていると、背後から
カッカッ…
という乾いた足音が聞こえた。




