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ヤープの女王8◆

タイトルに◆がある時は挿絵アリ

【回想 NYの路地裏】


いつもの場所でククルガはコーヒーを飲んでいる。


焚火を挟んだ反対側には堅城が座っていた。彼は最近ここによく足を運んでいる。

その理由はククルガの語った『replacement』について訊くためだ。


「これ以上、オレと話しても無駄だと思うがな」

コーヒーをすすりながらククルガが言う。


「どうして?」

「『replacement』はオレだって誰かから聞いた話なんだ。そのオレに話したヤツだって自分の眼で見たのか怪しいもんさ。ということは、そもそも与太話の可能性もある。いや、むしろ100%ガセネタだな」


「だったら、どうしてオマエはそんなモノを信じている?矛盾しているぞ」

口角を少し上げ、下から覗き込むような目つきでククルガが身を乗り出してくる。


「暇だからだよ。長いこと生きていると大抵のことには心が動かなくなってくるのさ。そんなオレに与太話でも心が躍るような話題ってのは生きる力を与えてくれる」

「ヤープが生きる力?・・・おかしな言い方をするな」

「そんなことはない。現にオマエは結婚して子供を作り、今はその子を守るためにここまで来ているじゃないか。立派に生きる力を、目的を持っている」


ククルガの言葉を堅城は黙って聞いた。

肉体を手に入れる前は3次元人になったら何が変わるのかと思っていたが、確かに人並みの考え方を持つようになっている。

ただ、それが本物なのか、猿真似なのかは未だに分からない。


「オレから得られるモノは、もう無いが・・渡せるモノはあるぞ」

袈裟の袖口の部分に手を突っ込みながらククルガが言う。何かを探しているようだ。


「お、あった。これだ」

彼は人差し指と親指でつまんだ指輪を差し出してきた。


挿絵(By みてみん)

「ククルガ、悪いがオレにそっちの趣味は無い。勘違いさせていたなら済まない」

堅城は左手を小さく上げ、下を向いて謝罪する。

「・・・」

ククルガが絶句し、猛烈に居づらい雰囲気になる。


あまりにいたたまれないため

「それじゃ・・」

と言って立ち上がり、足早に立ち去ろうとすると


「勘違いしているのはオマエだ!オレだって無いわ‼」

ククルガが押し殺した声で言う。


「だって、それって、そういう意味だろ?」

「違うわ!これは、オマエが娘と会った時のためのモノだ」

「久しぶりに再会した娘にいきなり指輪を渡すのは、オレでも気持ち悪いと思うぞ」

堅城の頭には指輪を渡された時の柚月の嫌がる表情がはっきりとイメージできた。


「話を聞け!娘に渡すんじゃねぇよ。不測の事態が起きた時に使うんだ」

「不測の事態?何のことだ?」

「今はそれ以上、言えねぇ」

「どうしてだ?」

「何もなきゃ、それでいい。忘れてしまえばいいだけの話だからな。だから、オマエに言えるのはこれだけだ」


「随分と勿体ぶった言い方をするな。それで?これはどうやって使うんだ」

「簡単だ。指輪に付いている水晶を叩きつけるでも何でもいいから割れ。それだけだ」

「そうすると何かが起きるが・・オマエはそれをオレに教えない、と」

「そういうことだ」

「なんか、気持ちが悪いな」


指輪を顔に近づけ眼の力で水晶をのぞき込む。

「ただの水晶だな」

堅城の眼をもってしても外側からではただの水晶にしか見えない。

これがこの水晶に籠められた力のせいだとしたら、逆にとんでもないシロモノだということになる。


「これをオレが使う状況ってのは、あんまり良い展開じゃないってことだな」

「それは分からん。悪いことでも考えようによっては良かったと思えることもある」

「それは、後から考えた時の話だろう?まあ、ありがたくもらっておくよ」

堅城は指輪を上着のポケットに入れようとしたが、


「おいおい、そんなところにしまったらいざという時に使えねぇだろうが。ちゃんと指にはめろ」

「は?」

「今、はめている結構指輪を外して代わりに着けておけ。そうすればFibe-Aの連中にも気づかれん」

「ふざけんな!」


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