ヤープの女王5◆
タイトルに◆がある時は挿絵アリ
家に帰るとまず母親が帰っているかを確認した。今日は仕事で遅くなると言っていたからいないはずだが、念のためリビングや寝室まで見て回った。
部屋に入ると姿見を動かして、ベッドの前まで持ってきた。これでベッドに座ったまま話ができる。
それからモヤモヤに昼間の話の続き、どうやって彼女はアタシと話せるようになったのかを訊いた。
彼女はマンションの3階と4階に例えて話をしてくれた。
『アタシは4階にいて、柚月は3階にいる。アタシ達が会うにはアタシが3階に行くか、柚月が4階に来るしかない。だけど下の階にいる人は上の階には絶対来られないし、上の階の人を見ることもできないの』
「見ることも出来ないの?」
『正確には、もし見えたとしてもなんだか分からないのよ。柚月もアタシを見てモヤモヤとしか見えなかったでしょ?』
「うん」
『アタシの力だと3階をギューッと小さくして柚月と同じ高さまで行くことは出来るの。
モヤモヤのアタシが見えた時も3階を小さくして柚月の前に来ていた時なの』
「あ、そうなんだ」
言っていることがよく分からん。
『でもこれは3階が小さくなっただけでアタシが4階にいることに変わりはないから、やっぱり柚月にはモヤモヤにしか見えない』
「うーん、難しい」
『もう少し、がんばって。ここが大事なところだから。つまり柚月には4階のアタシの全部を見ることは出来ないけど『見える部分がある』ってことなの。分かる?』
自分でも頭に血が上っているのが分かった。鏡の中の自分の顔はパンパンで赤いのを通り越して赤黒くなっている。頭をフル回転して理解しようとしているが、どうにもこれ以上は無理のようだ。
「ごめん、今日はここまでにして。また訊きたくなったら声かけるから」
そう言って、ベッドに倒れこんだ。目を閉じて、額に手を当てると自分の顔ではないのではと思うほどの高熱だった。
風邪でも無いのにこんなに頭が熱くなること、そしてこれが知恵熱だということを後で知った。
結局、理解するのに丸々1年くらいかかった。
説明を受けるたびに知恵熱を出してはダウンするということを繰り返したが、何とか仕組みについては理解できたと思う。
実際は頭で理解するというよりは体験を繰り返すことで『こういうもんなんだ』となんとなく状況を受け入れていったという感じだったが・・・
「こうしてモヤモヤと話せるのって半分くらいはアタシの力ってことなんだよね?」
『そういうこと。柚月にアタシのどこが見えているかを分析して、それを柚月っぽくつなぎ合わせて鏡の中に映しているの』
「前に言っていたよね。それがアタシの『眼の素養』っていう力なんだって。3次元と4次元の世界を二つ同時に見ることが出来る、すごい珍しい能力だって」
『そう。柚月のお父さんは完全な眼を持っているから、遺伝ってことはないけど、何かしらの理由で伝わったんだと思う』
「アタシが大きくなっていくと、お父さんみたいにもっと色んなモノが見えるようになるかな?」
モヤモヤは少し考えてから
『それは難しいかな。もともと柚月の体は3次元にあるから4次元の世界を見る必要は無いし、逆にあんまり色んなモノが見えると今度はそれを処理するために頭の方がパンクしちゃうから。多分、眼の能力は今より強くなることは無いと思うよ』
アタシもだけどモヤモヤも最初は3階、4階と言っていたのが、今では3次元、4次元と言うようになっていた。
だけど、それ以上に彼女の話し方から感じたのは色んなモノが見えるようになることについてアタシが怖がっていると思い、出来るだけ不安を感じさせないように気を遣っていることだった。
(違うんだよ、モヤモヤ)
彼女は間違っている。だけど、今はまだ、アタシの本音は教えられない。




