「if anything」
「起きろー」
「まだ寝る! あと30分!」
あと30分!
30分ね!
「わかった。シンのぶんはなしで」
ムカッ。
起きますよ起きますって。
わかりましたよ。
「ほら! 起きてやったぞ! 起きた! あーあー朝だなー!」
住所不定無職おじさんこと総平は、今はおれの家に居候している。
この14回目の世界に行き場がないので仕方ない。
でも“ぼく”が連れてきたって言うのならこの世界の篠原幸雄の家で保護するのがスジじゃん?
おれとしてはかわいい女の子が味方に入ってほしかった。
これから世界を救うにあたって。
味方じゃなくて敵がかわいい女の子なんだよな。
残酷だなぁ!
「今朝はホットケーキを焼いてみたよ。冷めないうちに食べて」
「やったー!」
総平のいいところは料理が上手なところ。
掃除も洗濯もさっさとやってくれて頼もしい。
聞けば「お袋が病気がちでよく入院してたから、家事は大体俺がやってた」とのこと。
かわいい女の子のほうがよかったけどまあ及第点ってところで!
「……幸雄くんが一番言わなさそうなセリフを言うよね、シンは」
戦力としては“ぼく”本人が来てほしかったけど、あいつは食べ物に全く興味なかったからな。
あいつ料理できんのかな。
キャサリンがやってくれてたもんなぁ。
レシピ見たら大体それっぽく作れそうな器用さはある。
容易に想像つくのが我ながら腹立つなー。
「これ食べたら神佑大学に行くんでしょ?」
「ああ。知恵ちゃんの知恵を借りるしかないよ」
氷見野さんが遺したタブレット端末には何かのレシピのようなものが残されていた。
中卒のおれはしょうがないとして教員免許持ちの総平にすら読めない言語で書かれていたので、知恵ちゃんに解読してもらおうという話。
唯一「作倉に飲ませろ」とだけは読み取れたから、薬なのかな? というのがおれたちの結論。
氷見野さんは能力を治す薬も開発していたはずだから。
知恵ちゃん、氷見野さんがいなくなったことを知ったらどんな顔するんだろう。
頼りになるのが知恵ちゃんしかいないとはいえ、おれは残酷な現実を叩きつけようとしてしまっているんじゃないか?
二度目のさよならじゃんか。
「シンは創に会いに行って」
「え」
別行動なの!?
おれも神佑大学行くもんだとばかり。
「え、じゃないよ。白菊美華とは1人で戦って」
「ええー!?」
あの子に【疾走】は通じなかったんですが!
あの時の戦いはこの世界の篠原幸雄も一緒だったし?
実質2対1だったのに負けてるんですけど!
「1人で、ってあの、創は味方してくれるんじゃなかったん?」
「サポートはしてくれるだろうけど積極的には介入しないんじゃないかな」
「なんで?」
もしかしてこれが今回の最後の晩餐になる?
負けましたーで、また8月26日からやり直しー?
冗談じゃない。
また最初からなんてふざけんな。
あんなに仲良かった天平先輩からガミガミ怒られてさ。
キャサリンはハッピーエンドルート入ってて、築山も罪がなかったことになってて、導は普通の小学生エンジョイしてるじゃん。
おれだけなんでこんなことになってんの。
この世界の篠原幸雄に課せられた宿命みたいな?
「物語の登場人物が決着をつけないといけないからだよ」
「創は違うの? っていうか宮城創は何者?」
おれが訊ねると、総平は「俺も又聞きだから、本人に直接聞いたほうがいいよ」と眉をひそめた。
そうだった。
クリスさんから聞いたって言ってたもんな。
「宮城創。またの名を終止符。物語を終わらせに来た……って言えばいいかね?」
「「!?」」
ベッドの上に現れていた。
当の本人。
宮城創だ。
おれの家は土足禁止だぞ靴を脱げ。
「ぼくの役割は物語を円滑に進めることだからね。作者みたいなもんかね……? もう残りのページ数も少ないから移動しながら説明してあげよう」
まだ11月なのに?
偽“アカシックレコード”は8月26日スタートの翌年の8月25日までじゃなかった?
まだページ数あるじゃん?
「14回目は、本当は登場人物である秋月千夏に全権委任して物語をコントロールしていく予定だったんだよね」
なんか説明のターン始まってる。
おれも喋りたい。
ホットケーキ半分ぐらいしか食べてないのにちょっとずつ空間も移動してるし。
どこに連れて行かれるのー。
ねー。
ホットケーキ食べ切ってからでもよかったでしょー!?
「お前の存在が邪魔をして、うまくいかなかった。うまくいかなかったからぼくがこうやってアシストしないといけなくなった」
は?
おれのせい?
作倉さんもなんかおれのせいにしてたけど?
おれは何もしてないんですけどー?
「お前だよお前。モブのくせに生意気なんだよね」
クリスさんもおれのことモブって言ってたな。
そういや。
「ぼくが全部お膳立てしといてあげたから、女を殴る心の準備ができたら教えてね?」
【if anything】




