第7話 奴隷市場
ギャンブルで得たあぶく銭を早々に使い果たしたヘイザは、またあぶく銭を得るために冒険者ギルドへ来ていた。勢いよくドアを開くと、真っ直ぐジョンソンのいる受付へ向かう。
「というわけでやって来たでござるよ! 今日で1緋桜まで稼ぐでござる! ジョンソン! 拙者に良い仕事をくれでござるよ!」
「……アッシュブレードさんのソロでできる仕事は七級相当のものしかございません」
「七級……またランクが下がるでござるなぁ……。拙者、三級でござるよ? あのイングリッドと試合して勝ったんでござるよ?」
約束通りヘイザはイングリッドとの決闘に勝利したことを周囲に喧伝していた。だが元々ヘイザはアダムズ市において、実力だけはトップクラスと評判だったので、特に驚かれるような事はなく意味は薄かった。
「そうは言われましても、ソロで白兵戦しかできないとなると、条件がかなり限定されてしまうので。ソロでも魔法が使えるか、パーティーで魔法が使えるメンバーがいるなら話は違うのですが」
「魔法か」
ヘイザは腕を組んで考える。
マイケル達にそうしたようにまだルーキーの冒険者を口八丁手八丁でだまくらかして仲間にするか。それとも同じくソロで活動している魔法使いと一時的に徒党を組むか。
前者はアダムズ市のベテラン冒険者達がヘイザの悪評を広めてしまったせいで難しく、ソロで活動している魔法使いと手を組めば報酬は5:5になってしまう。足元を見て4:6なんてふざけた条件を提示してきたら、その場でぶん殴ってしまうだろう。
「はっ! そうでござる!」
その時、ヘイザはある名案を思い付いた。
「どうしたんですか?」
「こういう時こそ奴隷でござるよ! 魔法が使える奴隷を買えば、拙者は魔法が使えなくてもノープロブレム! しかも分け前を払う必要がない! か…完璧でござるよ……」
帝国本土で奴隷制がなくなって久しいが、この新大陸では広大過ぎる開拓地の開拓や、農地経営のために大量の人手が必要で、そのため奴隷制度が認められていた。
そして奴隷は冒険者にとって装備品という扱いになるため、魔法の使える奴隷を持てば、魔法が使えなくても、その冒険者は魔法が使える扱いになる。
「そのかわり奴隷の衣食住の面倒を見る責任が生まれますよ。奴隷がなにか悪さをしようものなら、貴方の責任になるんですからね? 分かってるんですか?」
「そうと決まれば善は急げでござる! うおおおおおおおおおおおお!」
ジョンソンの忠告も聞かずに、ヘイザは冒険者ギルドを慌ただしく飛び出していった。
そしてヘイザがやって来たのは奴隷市場である。タイミング良く市場では奴隷の競売が始まるところであった。
既にかなりの人間が集まっていて、中には見覚えのある冒険者や農地経営者に娼館の経営者などもいた。
「それではオークションを開始致します。先ず紹介するのは元女冒険者のシャーリー・トムソン! 彼女は冒険者時代は優秀な剣士として評判でしたが、魔獣討伐に失敗し片腕を失ったことで冒険者を引退に追い込まれ、投資にも失敗したことであれやこれやと身売りすることに。そんな可哀想な彼女のご主人様になるのは誰か!? 先ずは金貨十枚からスタートです!」
鎖に繋がれた片腕のない少女が、ハイライトのない顔で俯いている。
早速何人かの物好きや変態が「十二枚!」だの「十六枚!」と競りを始めていた。取り敢えずヘイザは、マシな人間に買われる事を祈ってやることにした。
そうして体力のありそうな大男、獣人、元盗賊など色んな奴隷が競り落とされていき、遂にヘイザの目当ての商品の番となる。
「えー、次に紹介いたしますは大魔術師ファウスト・バルザードの血を引くサラブレッド! ジャック・バルザードです!」
「!」
ファウスト・バルザードといえば帝国本土にある魔法学校の最高学府である、ベリアル魔法大学で教授職にある人物だ。僅か二十四歳で教授になった天才で、その実力は新大陸にも轟いている。
「…………畜生。なんで俺がこんなことに」
手枷と足枷をつけられ、己の運命を嘆いているのは瘦せ細った男だった。ともすればまだ少年と呼べる年齢かもしれない。
「ご覧の通り若々しく体力もあるので、労働に使うも良し、最低限の家事もこなすことができます!」
「おお、そりゃお買い得でござるな! よし、買った!」
ヘイザは迷わず競りに参加する。
その後、何故か誰も競りにのってくることはなかったので、ヘイザが落札となった。
しかし美味しい話というのは落とし穴があるというものである。
ヘイザがそれに気づいたのは落札した奴隷のジャックと対面した後のことだった。
「ってわけで、貴方が俺のご主人様ですか? ジャックです。姓はバルザードっすけど、あの糞野郎の姓を名乗る気はないんでただのジャックでお願いします」
「うむ、お主にはこれから拙者の手足となってきりきり働いてもらう。それでお主はどういう魔法が使えるんでござるか?」
「え? 使えませんよ? 魔法が使えないから一族から捨てられて、路頭に迷った挙句、身売りしたんですし」
「なん……だと……?」
ヘイザはその瞬間、大魔術師の息子でありながら、やけにスタートの額が安かったことと、誰も競りに加わってこなかった理由を察する。だが時すでに遅しだった。なにせ奴隷商人は大魔術師の血を引くサラブレッドとは言ったが、魔法が使えるなどとは一言も言っていなかったのだから。
「そんな馬鹿な! 話が違うでござるよ! クーリングオフ! クーリングオフを発動したい!」
残念ながら奴隷にクーリングオフは認められていなかった。




