第59話 寝物語4
マイケルがヘイザとの出会いのエピソードを語り終えると、ジャックとキクコとルサルカは三者三様の様子だった。
ジャックはなんだか余計に謎が深まったという渋い顔で。
キクコはドラゴンに立ち向かい死んでいった冒険者達に涙して。
ルサルカはヘイザの英雄譚の主人公みたいな活躍っぷりに「濡れてきた」と発言しジャックに窘められていた。
「それから師匠には色んな事を教わったよ」
「ええ。ジェイクくんは剣での戦い方、ペネロペちゃんは回復役だから最低限の護身術ね。あとペネロペちゃんには料理も教えていたんだっけ?」
「ええ。自分も料理は下手糞なのに、知識だけは豊富だったんですよね、あの人」
ペネロペは悔しそうに認めた。
一番ヘイザの事を嫌っているペネロペだが、受けた指導の確かさは認めざるを得なかったのだろう。
「俺は魔法剣士としての戦い方に、一党のリーダーとしての指揮云々に冒険者としてのマメ知識もろもろ」
「私はお酒とおつまみ、あと賭博を教わったわ」
「ミラさんだけなんか悪いこと教わってません!?」
キクコが冷静に指摘すると、ミラは憤慨したように立ち上がった。
「何を言ってるの! むしろ私が一番大事なことを教わったのよ! そう、あれは四年前のこと…………」
そうしてミラはヘイザとの過去の会話を語りだす。
『ミラさんって、なんで結婚したいんでござるか?』
『なんでって、もう三十代だからに決まっているでしょう! 早くしないと悪夢の四十代独身になってしまうわ。男なら四十代は働き盛りだからいいかもしれないけど、女で四十代独身はもうアウトなのよ!』
『ミラさんって自分の子供がそんなに欲しいんでござるか?』
『嫌いじゃないけど、特別好きってほどでもないわね』
『ではミラさんは特別好きでもない相手と取り合えず結婚して、特に好きでもない子供を産みたいということでござるか?』
『まあそうなるわね』
『なあミラさん。好きでもない男と子供のために自分の金と時間と体力を消費する生活と、自分の金と時間と体力を、酒・つまみ・賭博に費やして自堕落に過ごす生活……。どっちが幸せだと思う?』
『っ! でも、それは!?』
『ミラさん、幸せの形は人それぞれでござるよ』
「こうして私は誇り高き独身貴族としてのロードを歩み始めたのよ!」
そうミラは語り終えた。
ジャック達には言いたいことがあったが、本人が納得しているのならそれでいいのだろう。
「まあ賭博以外にマッピングとかも教わったりしたけどね」
「そっちのほうが重要じゃん」
ミラはジャックの指摘に不満そうだったが、マイケル達三人は強く頷いていた。あくまで自己責任の範囲内なので口を出す権利はないとはいえ、ミラが全力で喪女ルートを全速前進していることに思うところがあるのだろう。
「で……俺たちは毎回報酬の六割を持っていかれつつも、ヘイザの実力と指導を考えれば妥当かって思いつつ、頑張ってきたんだが……」
「ある日を境に師匠がニートになったんだ」
「自分の指導がなくても十分クエストをこなせるくらい成長したから、君たちに全て丸投げしたんだね。さしずめ寄生先を自分で育てる寄生虫だ」
マイケルとジェイクは項垂れた。
反論はない。ルサルカの指摘は全て言いえて妙だったからである。
「……最初は恩もあるから我慢しないとって思っていたんですよ。けど毎回毎回、なにも働いていないのに報酬は六割もっていかれ、街にいる間は毎日のように飲み歩いて、路上で寝たり、生首凱旋式のようなことはやらかすし、パーティーの会議はろくに出ないし遅刻はするし」
「――――でもいざという時は頼りになった」
ペネロペの過去の不満に、マイケルが神妙に言った。
「六割は高いが、どんな想定外の脅威が起きてもヘイザがいればなんとかなる。たぶん俺たちがヘイザから離れられなかったのは、恩義以外にそういう甘えがあったんだろ」
冒険者のクエストは必ず額面通りのものになるとは限らない。簡単なゴブリン討伐かと思ったらゴブリンより強い魔物がゴブリンを支配していたなんてこともある。マイケル達が過去遭遇したように、運悪くドラゴンのような危険極まる魔物に襲われることもある。
しかしそんな最悪の運勢をなかったことにできるセーフティーがいたとしたのならば、幾ら普段は役立たずの寄生虫だったとしても、そうそう手放す事は出来ない。
「だから俺たちは話し合って師匠から『卒業』しようって決めたのさ」
つまりヘイザにとって冒険者パーティー追放の日は、デイリー・ペースにとってのヘイザからの卒業式の日でもあったということなのだろう。
それから特に何事もなく時は過ぎていき、キャラバンは無事に目的の街まで到着した。ジェブはにこやかにお礼を言う。
「ありがとうございました、冒険者の皆さん。お陰で無事に街まで到着することができました」
「いえいえ。俺たちは報酬分の仕事をこなしただけです」
「礼などいらんでござるよ!」
ジェブはヘイザに「アンタには言ってないよ」という言葉が喉元まで出かかったが、マイケルはともかくジャックとキクコはヘイザの仲間であることを思い出して、すんでのところで飲み込んだ。
「マイケル、ミラ、ジェイク、ペネロペ。君たちのお陰で分かることもあったよ。ありがとうね」
「こっちこそ流石は噂の四属性制覇、道中助かりっぱなしだったよ」
「また一緒に仕事しようでござる!」
「……そうだな。もっと危険な一級クラスのクエストの時なら考えておくよ」
マイケルは言外にそれくらいの難易度の仕事なら、お前も働かざるを得なくなるだろうと告げていた。ヘイザが一本とられたというように肩を竦めると、マイケルはジャック達に向き直って言った。
「ルサルカにキクコにジャック。精々こいつを困らせてやれ。そうしないと働かないからな」
「ええ任せてください。自慢じゃありませんが、私たち全員、訳アリ問題児ばっかなので」
「え、俺は常識人だろ」
ジャックが抗議するがキクコとルサルカは相手にしなかった。敵を自分の父親であると妄想して戦闘力を上昇させる男は断じて常識人のカテゴリーにはいない。
こうして今と昔の邂逅は終わった。
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