第58話 寝物語3
ドラゴンを一撃で討ち取り、最新の竜殺しとなった侍に真っ先にリアクションを起こしたのはミラだった。
「あ、あなたは……三日前に道で倒れていた人じゃない!」
「倒れていた? どういうことだミラさん?」
「この人、酔っぱらって路上の真ん中で寝てたのよ。誰も見て見ぬふりをするから、仕方ないから助けたら、冒険者志望って言うから、一緒に行って手続きしてあげたの」
「おお、記憶がないのに、いつのまにか冒険者になる手続きが済んでたのはそういう訳でござったか! ミラさんでござったかな? 恩に着るでござるよ」
「恩に着るのは命を救われたこちらなんですけど」
ペネロペが言うと、キャラバンの商人達が興奮したように侍に駆け寄ってやれ命の恩人だ、やれ我らの救世主だのと称え始めた。
賛辞の言葉に侍は喜ぶでもなく、
「拙者はヘイザ・アッシュブレード。今は見習いの十級冒険者でござる。事後承諾になるが拙者を追加の護衛として雇ってくれんでござるかな?」
キャラバンの商人達は喜んで頷いた。
それからヘイザは、とても十級とは思えないくらいテキパキとマイケル達に指示を出し始めた。
「お主らの中で回復魔法か医術の心得がある者はいるか? 負傷者の応急手当をしてやってくれ。このまま輸送続行は厳しいだろうし、ひとまずこの近くにある村へ行くといい。それと荷に余裕があるなら、死体が残ってる冒険者の亡骸を収容してくれんか? まあ無理にとは言わぬが、ドックタグの回収くらいはやってくれ」
ヘイザにへそを曲げられたくなかったからか、それとも自分たちを守るために死んだ冒険者に対する人情があったからかキャラバンの商人たちは頷くと、協力して死んだ冒険者の亡骸を荷台の中に収容していった。
残念ながらあの三級冒険者を含め、死体が残らなかった者や死体の判別がつかないほどにグチャグチャにされていた者も多くいたが。
そうして一先ず近隣の村へ向かう道中、マイケルはどうして冒険者に成りたての十級でありながらそんなに強いのか聞いてみると、
「別におかしなことでもなかろう。この世の強者はなにも冒険者だけではない。ジョッシュやそのメイドのロクサーヌくらいは知っているでござろう。七雄と呼ばれるあの二人は、冒険者ではないが恐ろしく強かったと聞いているぞ」
確かにヘイザの言うことはもっともだ。マイケル達のような駆け出しではなく、元々実力のある人間が新たに冒険者に登録することもある。だから当然のように次に浮かぶ疑問は、どこでそんな実力を身に着けたかだった。だがこちらの問いには、
「やる気と根気と負けん気でござるよ」
という風に曖昧に誤魔化されてしまった。
そしてドラゴンを討伐してからの旅は呆気ないほどスムーズで、近隣の村で冒険者の亡骸を弔った後、目当ての街までなんの襲撃もなく到着した。
冒険者が依頼を達成するも死亡した場合、その冒険者へ渡るはずだった報酬はその遺族か遺言書の相続人に支払われる。だが冒険者には天涯孤独で相続する者が誰もいない事も多々ある。そういう場合は生き残りの冒険者に均等に分配されるのがルールだ。
今回の生き残りはデイリー・ペースとヘイザの五人だけなので、相続人のいない分の報酬が丸々五人のもとに転がり込んできた。その中にはあの三級冒険者が受け取る筈だった報酬もあった。
降って湧いた大金。
これだけあれば装備をより良いものに整えて、リスタートするには十分である。
だがデイリー・ペースの誰もまったく喜べなかった。
何もできなかった自分たちが死んだ彼らの分の報酬を受け取る後ろめたさだけではない。ドラゴンという脅威に、自分たちより経験も実力もある冒険者達が一方的に殺戮されていくのを見て心が折れかかっていたのだ。
そこへあの依頼の後で別れたヘイザが再び現れると、驚くべきことを言ったのである。
「マイケル、ジェイク、ペネロペ、ミラさん。拙者をお主らのパーティーに入れてみぬか?」
「え、なんでアンタみたいなべらぼうに強い人が、俺たちみたいな九級と八級すれすれのパーティーに? アンタくらいの強さなら、三級パーティーどころか一級パーティーにだって入れるだろ!」
「ふっふっふっ。拙者はお主らの将来性を見込んだんでござるよ」
それが菩薩の微笑みではなく、カモを見つけた猟師の笑みだったと知るのはずっと後のことになる。
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