第60話 等級とは
紅の足音のメンバーが固唾をのんで見守る中、ジョンソンが厳かに一枚の書類を読み上げた。
「キクコさん。これまでの実績と実力から、六級冒険者に昇格するものとします」
「あ、ありがとうございます!」
瞬間、紅の足音のメンバー全員が拍手をした。普段怠け者のヘイザもこの時ばかりは笑顔で手を叩く。
「六級からは半人前を卒業して一人前と見做されます。アッシュブレードさんを反面教師にして、冒険者として正しい振る舞いを心がけていってください」
「はい!」
ジョンソンの反面教師にして、という部分にはヘイザすらツッコまなかった。
「ところで拙者には昇格の話はないんでござるか?」
「依頼人のキャラバンの責任者から、酒飲んで寝てただけとか苦情を書かれてしまう人は無理ですね。二級以上は冒険者ギルドの顔なので。あ、ルサルカさんは最近問題を起こしてないので、このまま問題が起きなければ二級昇格の打診がくるかもしれませんよ?」
「ヘイザほど極上の英雄が見当たらないからね。一度、味をしめると他の雑な味を食べる気がしなくなる法則さ」
「味見された覚えはない」
ヘイザとルサルカの漫才をスルーして、キクコの新しいドックタグと六級冒険者昇格の書類を「キクコは今手を怪我してるから」という適当な言い訳をしつつ代わりにジャックが受け取る。
そのままジャックはふと気になったことをジョンソンに尋ねてみることにした。
「ところでジョンソンさん。半人前とか一人前とか、冒険者の等級ってどういう区分になってるんですか?」
「そうですね。まず十級が冒険者見習い。最低限の信用すらない、冒険者未満ですね。そしてお使いクエストを数回こなして、最低限の信用があると判断されれば、晴れて駆け出しの九級冒険者として認められます」
「とはいえ前職が騎士で信用が既にあるとか、高位冒険者の推薦があるとかの場合は、最初から九級でスタートするでござるがな。拙者の推薦があったキクコがそれでござる」
それまではジャックもアイラ・トンプソンの依頼を受けた時に聞いて知っていた。気になるのは八級より上である。そんなジャックの心を読んだようにジョンソンが続けた。
「八級から七級が半人前で、六級でやっと一人前の冒険者として周囲から見られるようになります。その分、六級から上への等級へは昇格難易度がぐんと上がって、五級冒険者からは腕利きと見做されますね。三級ともなればその街でもトップクラスの冒険者です」
「つまり拙者でござるな!」
わざとらしく調子に乗って胸を張るヘイザ。ジョンソンは「不本意ながらその通りです」と同意した。
「しかし二級以上からは実力に加えて品性も重要視されるので、実力はある問題児は三級で行き止まりです」
「具体例はヘイさんとルサルカさんですね」
「はい」
キクコのあげた具体例にジョンソンはなんの躊躇もなく頷いた。
「そして二級ともなれば州の代表ともいえる冒険者で、一級となると冒険者全体の代表のような立場です。一級冒険者クラスになると帝国軍が騎士爵と士官待遇で引き抜いてくる事もしばしばあります」
騎士爵は最下級とはいえ一代限りの名誉騎士爵と違い、子孫にも受け継がれる本物の爵位だ。それに帝国軍の士官待遇というのも、騎士爵と比べれば地味に見えるがかなり美味しい話だ。なにせ帝国軍の士官ともなれば死んだら残された遺族は遺族年金で手厚く保護されるし、帝国本土の帝立墓地に埋葬される。死んだらそれでおしまいの冒険者とはえらい待遇の違いだ。
ジョンソンの説明は非常に分かりやすかった。しかしジャックにはまだ大きな疑問が一つ残っていた。
「じゃあ一番上の特級冒険者っていうのはなんなんですか? 一級より凄いってことは、実力が最高峰なうえに人格が聖人君子じゃないと駄目とか?」
ジャックが知る特級冒険者といえばハルノ・クリアスカバードだ。帝国に反旗を翻し独立戦争を起こした彼女なら、聖人君子のような人格だったと言われても納得できるものがあった。しかしジョンソンは首を横に振った。
「いいえ。特級冒険者というのは、十級から一級までの等級と違い、歴史に残る偉業を成し遂げた冒険者に送られる称号のようなものなんです。だから他の等級と違って降格なんてものもありませんし、引退してもその称号が失われることもない。更に言うと歴史的偉業を成し遂げれば、冒険者としての実力が低くてもなることができます」
「え、例えばどういう人っすか?」
「百年前、冒険をしながら大陸中の薬草を調べ、遂に亜人たちに蔓延していた疫病を撲滅させたリディア・ベルナール女史が特に有名ですね。彼女は当時六級冒険者ですが、この功績により特級冒険者に昇格となっています」
「あと冒険者ギルド成立以前の偉人や、クエスト中に死亡した冒険者に追贈されるパターンもあるよ。新大陸を発見した”始まりの冒険者”カシム・エリゴスとかね」
ジョンソンの説明にルサルカが補足した。
「じゃあ私たちも世界を揺るがす大発見をしたりしたら、特級冒険者になれるんですか?」
「なれますよ」
「!」
キクコの素朴な疑問にジョンソンはあっさり頷いた。
「特級冒険者になる条件は『歴史的偉業を成し遂げる』ことのみなので、人格は重要視されません。まあ歴史的偉業なんてそうそう簡単に成し遂げられるものでもありませんが」
それはそうだろう。歴史的偉業というのは中々起きないからこそ歴史的偉業なのだ。
「と、いうわけです。ジャックさん、分かりましたか?」
「ありがとうございます。大分、分かりました」
「んじゃこれからキクコの昇格祝いで、キクコの好きな舞台でも見に行くでござるか」
「昇格祝いで舞台鑑賞ですか? 宴会とかではなく?」
ジョンソンの疑問を曖昧に誤魔化しておいた。
確かに昇格祝いの定番といったら宴会だが、幽霊のキクコは飲み食いできないのだ。
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