第48話 紅の足音
ヘイザとしては金が尽きるまで遊んで暮らしたかったのだが、キクコが「冒険に行きたい!」と余りにもしつこく訴えるため、渋々一か月ぶりに冒険者ギルドへとやってきた。
お馴染みのジョンソンは新しくパーティーに加わった蠱惑的な魔女を見て目を見開くと、
「あの渡りのビッ……魔術師ルサルカがパーティーに加わったというのは本当だったんですね」
ビッチと言いかけたのをギリギリで言い直しながら言った。
「不本意でござるがな。自分の分け前は十分の一でもいいという都合の良い女っぷりを発揮されては、受け入れない理由が見つからなかった」
「惚れた弱みさ♪」
ジョンソンは男の趣味の悪いルサルカを奇異の目で見つつ、あのヘイザが翻弄されていることに珍しい視線を向けた。そしてジョンソンはこほんとわざとらしく咳払いをすると事務的に切り出す。
「ところでアッシュブレードさん。そろそろパーティー名を決めてくださいませんか? 鬼ヶ島の鬼討伐に(人格はともかく)世界最高峰の魔術師ルサルカの加入で、これからはアッシュブレードさんたちを指名の依頼も出てくるでしょう。その時にパーティー名がないとややこしいので」
「パーティー名ですか……」
キクコが考え込む仕草をする。
現在ヘイザたちのパーティーは『ヘイザ・アッシュブレードの徒党』だの『ヘイザと愉快な仲間たち』だのという仮名で通してきていた。これまではパーティーメンバーが幽霊のキクコと奴隷のジャックだからそれでも良かったが、ルサルカという魔法使いが仲間に加わった以上、ちゃんとしたパーティー名を作る頃合いだろう。
「なにか案はありますか?」
「人生野垂れ死に連合軍」
「ディアボリック・ジェノサイダー・ファランクス・ボルテック・ドラグナー・オーダー!」
「アメーリア大陸わくわく冒険隊!」
「天下統一の会」
ヘイザ、ジャック、キクコ、ルサルカが其々(本人の中では)渾身のネーミングを出した。ジョンソンは呆れたように言う。
「真面目に考えてますか?」
「え!? ご主人とかは兎も角、俺はわりと真面目に考えたんですけど。寝る前とかにずっと」
「……ジャックのネーミングは長すぎてごちゃごちゃして厨二方向でも落第でござるよ。くっ! こういう時、ミラさんがいたら程よく短く覚えやすい厨二チックなパーティー名を考えてくれたんでござるが」
デイリー・ペース時代の仲間兼教え子兼寄生対象を思い出しながら、ヘイザが惜しむように言った。
なおミラの考えた厨二チックな名前はヘイザは兎も角、他のメンバーからは大不評でデイリー・ペースの名付け親はマイケルである。
「……もうヘイザ・アッシュブレードの一党で仮登録しますか?」
四人の絶望的ネーミングセンスにジョンソンが先に折れる。
「まあまあ。困ったときはルサルカお姉さんに任せておきなさい。僕に良い方法がある」
「お姉さんって言うけど、ご主人より年下だろ?」
「パーティー名診断魔法でそれっぽい名前を抽出するのさ!」
ジャックの指摘を華麗にスルーしながらルサルカが提案した。
「いや、そんな都合のいい魔法があるわけないじゃないですか」
「どっこい、あるんだなこれが」
くつくつと笑いながらルサルカが言いながら取り出したのは、辞書のように分厚いノートだった。そうしてページをめくると手書きで『パーティー名を診断する魔法』の詠唱などが書き込まれていた。
「な、なんですかこれ?」
「ふふふ。僕は魔法開発が趣味でね。一日一つ新しい魔法を開発することをノルマにしている。これは今から452日前に作った魔法さ。名前診断系魔法には他にも赤ん坊の名前、ペットの名前、家庭内の事件の名前、穿ったところでは開発した魔法の名前を診断する魔法なんかもあるよ」
「うわっ、本当に一ページごとにどうでもいいような魔法が沢山のってる」
「……焼き魚から骨をなくす魔法については、非常に有意義であると認めざるをえんでござるな」
ヘイザとジャックはペラペラとルサルカ直筆のノート……いや魔導書をめくりながら、ユニークだったり存在意義が分からない魔法の数々に感心したり呆れたりした。
「で、どうするんですか皆さん? なんでもいいからそろそろ決めてくれると助かるのですが」
「良し。では試しにその診断魔法を使ってみるとしよう」
「ではこれから僕のする質問にしっかり応えてね。|徒党を率いる、汝の真名を問う《クォド・エスト・ノーメン・トゥウム・ドゥクス・ファクティオーニス》」
ルサルカが杖を一振りすると銀色の靄が四角い枠のようなものを形作る。
「拙者の名はヘイザ・アッシュブレードでござる」
ここでふざけても仕方ないので素直にヘイザが名前を告げると、銀色の枠の中に『Heiza Ashblade』と文字が浮かび上がった。そうして一度銀色の枠が発光したかと思うと、そこには『Scarlet Footfalls』という文字が変わって浮かび上がっていた。
スカーレット・フットフォールズ。直訳で”紅の足音”。
「おお、なんだか意味はよく分からないけどかっこいいです!」
「俺もなんか意味は分からないけど雰囲気はいいと思うっすよご主人!」
よっぽどひどい名前だったら却下していたところだが、キクコとジャックからもわりと好評のようであるし、ヘイザも悪くないと感じたので頷いた。
「ではジョンソン、拙者たちのパーティー名は”紅の足音”で登録頼むでござるよ」
「承知しました」
こうしてヘイザたちのパーティーの名前が漸く決まった。
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