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第47話  僕は君が好き/僕は君が嫌い

 ルチアーノからの大金貨百枚と鬼ヶ島の鬼討伐の報酬を得たヘイザは、三十日連続で緋桜の下に通っていた。緋桜は一夜を過ごすのに金貨十八枚の高級娼婦なので三十日連続で通ったことで金貨五四〇枚分を浪費してしまった計算になる。


「うっひょー! 今日も来たでござるよ緋桜~!」


 そして今日もまたヘイザは三十一日目の来店をしていた。


「また来てくれたでありんすね。この月はいつもヘイさんと会えて、わっちも嬉しいでありんすえ。でもヘイさん。わっちは嬉しいでありんすけど、ルサルカはんっていう新しいお仲間も増えたでありんしょう? そろそろ新しい冒険に行ったほうがいいのではありんせんか?」


 ヘイザが度が過ぎた不真面目っぷりをすると、いつもやんわり窘めてきた緋桜は今日もまたそのようなことを言った。


「拙者は金を得るために仕方なく冒険者をしているのであって、金があるうちは冒険をする必要もなかろう。このまま金が尽きるまで遊びまわって、ルサルカが拙者に愛想を尽かせば尚よしでござる」


「そんなにルサルカはんってお人が嫌いでありんすか?」


「ああ、嫌いだ。人の心にずかずか土足で踏み込もうとする。鬱陶しい」


「ならノックをして履物をぬげば、入っていいでありんすか?」


「…………」


 緋桜の思いがけず大胆な発言にヘイザは沈黙した。


「冗談でありんすよ」


 そんなヘイザに少しだけ緋桜は寂しそうに笑った。




 ヘイザが緋桜のところから、自宅(といっていいのか怪しくはあるが)である宿屋の物置へと帰る途中、ルサルカと遭遇した。

 面倒臭い相手と遭遇したと露骨に嫌な顔をするヘイザに対して、ルサルカは露骨に嬉しそうな顔をする。


「やあ。今日も緋桜って娼婦のところから朝帰りかい? いつもお盛んだね」


「そういうお前は男漁りの帰りか?」


「そうだよ。もっとも君ほど欲情させてくれる人はいなかったけどね。君をMAXの100だとすると、君を除いたこの街の男は、精々が30止まりさ」


「……ベネディクトは? あいつは三級冒険者で顔も悪くないぞ」


 知り合いの三級冒険者の名前を生贄に差し出す。

 少し悪いとも思ったが、ルサルカは見た目と体は一級品なのだ。一夜の相手を求められるのはベネディクトも満更ではないだろう。

 しかしルサルカの反応は芳しいものではなかった。


「勘違いしていないかい? 僕は英雄的な男が好きなんであって、別に強い男が好きじゃないんだ」


 確かに戦うのが強い者なんていうのは、英雄と呼ばれる者たちの氷山の一角に過ぎない。強くはないが、知力や人格などが優れていたから英雄と呼ばれた者などごまんといる。


「彼は能力は高いけど、本質は安定した暮らしがあれば満足の小市民。あと1、2年くらい冒険者として稼いだら、どこぞに土地でも買って引退するよ」

」

「結構なことではござらんか」


「うん、結構なことだと思うよ。ただ僕のタイプじゃないってだけでね」


「なら拙者もタイプではないはずだ」


 ヘイザ・アッシュブレードという男は、腕っぷしだけは強いが怠け者で宵越しの金を持たずに、稼いでは浪費を繰り返すその日暮らしの冒険者である。それ以上でもそれ以下でもない。


「いいや、かなりタイプ、凄くタイプだよ。そっけない対応されるだけでゾクゾクするね」


 だというのにルサルカはヘイザの何を知っているのか、狙いを定めたまま逃しはしない。蛇のように蠱惑的に舌を出すと唇の外周をなぞるように舐めた。


「僕は君が好きだよ、ヘイザ」


「そうか。拙者はお主が嫌いだ」


「君が僕を嫌いでも、僕は君が好きだよ」


「…………」


 どんな人間にも天敵と呼べる人間がいるとするならば、この女こそがそれであろう、とヘイザは確信した。


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