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第38話  牧場

 オスカーが錬金術について説明し終えた時だった。

 ダンジョンの奥からドスンという足音が激しい連続性で響いてくる。敵襲、それも複数体のお出ましだ。

 全員が戦闘態勢をとって待ち構えると、大柄なオーク達が姿を現した。


「オークの強さは基本的に体格のデカさで測れる。そこそこの大きさの個体が八体か。よし、錬金術師。お主の強さはどの程度か見せてみろ」


「え?」


 鳩が豆鉄砲を食ったような顔をするオスカー。


「案ずるな、前衛はやってやるでござるよ。ジャックが」


「って俺がやんのかい!」


 当然のように仕事を押し付けるヘイザにジャックは抗議するがいつものように封殺した。そして仕事を押し付けられたもう一方のオスカーは、ニヤリと好戦的な笑みを浮かべる。


「前は数で囲まれたから逃げたが、敵が正面にしかいねえで前衛もいるってんなら恐くねえ。錬成せよ(フォルマ)錬成せよ(フォルマ)――――槍の雨」


 ダンジョンの天井の一部が無数の槍へ錬成される。それらはまるで訓練された軍団のようにオークへ切っ先を向けたまま指示を待つ。


撃て(ファイエル)!」


 そしてオスカーの号令と共に槍が一斉にオークの群れへと殺到した。


「■■■■■■!!」


 断末魔をあげるオーク達。槍の一斉掃射に全身を串刺しにされたオーク達は、次々に倒れていく。生命力が強いオーク達の中には虫の息ながら、まだギリギリ命を繋げていた者もいたが、


「そら」


 オスカーが槍を正確に脳天に撃ち込んで止めを刺した。


「凄いな、俺の妹も錬金術師らしかったけど、あれだけの速度で大量の錬成をするのは初めて見た」


「あたぼうよ。これでも天才錬金術師って評判だったんだぜ」


「だったら詐欺なんてしないで、真っ当な方法で遺跡の発掘してくださいよ」


「しょうがねえだろ。このダンジョンが真っ当な方法じゃ発掘できない場所(町の中)にあったんだから」


 悪びれずにオスカーが言った。

 これはもし生きてこのダンジョンから出る事が出来たなら、もう一度きつく脅しておかないと似たようなことを繰り返すかもしれない。ヘイザは依頼のアフターサービスとしてオスカーにきつい教訓を与えてやることを決めた。無論このダンジョン攻略でオスカーが生き残れればの話だが。

 八体のオーク達の殲滅を終えたヘイザ達は更にダンジョンの奥深くへと潜っていく。

 探索は順調だった。オーク達が現れても前衛を格闘家のジャックが、後衛を錬金術師のオスカーが担当する事で危うげなく撃破していき、途中でオスカーが落としたリュックサックの回収もできた。


「ああ、マイケルとパーティーを組んでた頃が懐かしい。あの頃はミラさんにマッピングを押し付けてたのに、今は拙者がやる他ない……働くのだるいでござる」


 ヘイザはそんな事をブーブーと愚痴っていたが、言うまでもなく誰も取り合うことはしなかった。

 そうして更に深く潜っていくとまた数体のオークが襲ってきたが、ジャックとオスカーが慣れた動きで排除する。しかしその数体のオークは他と比べるとやたら血気盛んでしぶとかったので、少しだけ手古摺ってしまった。

 この辺りになにかあるのかもしれないと思って、周囲を調べると、オークがどうして必死だったかの理由が判明した。ダンジョン内の小さな横穴に、赤ん坊のオークが五体いたのだ。

 野蛮な魔物であるオークだが、生物として自分の子を守ろうとする本能はある。彼らは侵入者から我が子を守るために、必死に立ち向かってきたのだろう。実に感動的な話である。


「このオーク……赤ん坊ですよ? どうします?」


 恐る恐る言うキクコ。見逃してあげて欲しい、と顔に書いてあった。だがヘイザはまったくそれに取り合おうとはしなかった。


「どうするもなにもオークは、人間によるテイムもできなければ、なんの素材にもならぬし、奪い貪るだけでなんの益も齎さぬことから絶滅が推奨された害獣。当然殺すに限るでござろう」


「そうそう、生かしておいてもしょうがないぜ」


 ヘイザが冷たく言うと、オスカーがヘラヘラと同調する。


「で、でも……」


「ここで見逃したとしても、こいつらは人間に恩など感じぬでござるよ。成長すれば他のオークと同じように人間を襲う」


 ヘイザは淡々と眠るオークの赤ん坊を一体ずつ処理していった。途中で同胞の悲鳴に目を覚ましたオークの赤ん坊たちが、助けを求めるように大声で泣き始めたが無視して全員の殺害を完了させた。


「……理屈はわかるけど、赤ん坊を殺すのはきついなぁ」


「はは、ジャックよ。オークの牧場を見たら、二度とそんな同情論など言えなくなるでござるよ」


「牧場?」


「さ、先を急ぐでござる!」


 後味の悪さを残しつつ四人は階段を下りていく。

 そうして階段を降りたところで、ヘイザ達の前に巨大な扉が現れた。オスカーが古代文字で書かれた古文書と扉とを見比べてニヤリと笑みを浮かべる。


「間違いない。ここがダンジョンの最下層だ。文献通りならこの先に転移ゲートがあるはずだ」


「では、開けるでござるよ」


 力いっぱいに押すと、重厚な音をあげながら扉が開いていく。

 そこには他よりも二回り大きい巨大なオークがいた。巨大なオークは他のオークにはない知性を感じられる目でヘイザ達を睨むと、


「貴様ら、俺の手下共をどうした……?」


「しゃ、喋った!?」


 知能が低いはずのオークが人間の言葉を話し始めたことに、キクコが仰天する。


「突然変異で並みのオークを超える体格と人並みの知性を得たオークキングでござるよ」


 オークキングはオークの中どころか、魔物の中でも特に厄介な存在だ。その理由はなんといっても人並みの知性にある。ウスノロのオークは簡単な罠にもあっさり引っ掛かるし、自分で罠や作戦を考えることもなく、獲物を見つけたら真っ直ぐ突撃するという一辺倒だ。

 だがオークキングに率いられたオークは違う。人並みのオークキングによって統率されたオークは、軍隊のように連携して獲物に襲い掛かって来るし、時に伏兵や奇襲などの策略を弄するし、簡単な罠すら作ったりもする。

 ただのオークの群れと思って討伐にきた冒険者が、オークキング率いるオークによって無残な末路を迎える事は珍しくない。


「俺の質問に――――」


 ゆらりとオークキングが棍棒を大きく振りかぶる。咄嗟にキクコ以外の三人全員が後ろへ飛びのいた。


「答えやがれぇえええ!」


 渾身の膂力で振り下ろされた棍棒が地面を抉り取った。

 あがる土煙の中から、キクコが飛び出してきてヘイザに猛抗議する。


「酷いですよ! 私一人置いて自分達だけ!!」


「どうせ物理は効かんでござろう。ああ、それとオークキング。お前の手下たちでござるが、拙者たちがこうしてお前の前に現れたことが答えでござるよ。赤ん坊含めて全員皆殺しにしてやった。そんな事も分からぬとは、所詮は貴様もウスノロのオークでござるな」


「この、家畜がッ! 俺様の手下をよくも!!」


「ちょ、ご主人! なに挑発するようなこと言ってんですか!」


「わざとでござるよ」


 オークキングの最も厄介なのは人間並みの知性だ。怒りで忘我状態となれば、パワーは上がるかもしれないが知性の冴えは衰える。突然変異で知性を獲得したオークキングだが、その種族柄なのか短気で挑発に弱いという弱点がある。なのでオークキングと戦う時は、上手く挑発して激怒させ判断力を鈍らせるのが常道なのだ。


「許さん! 男共は殺して我が腹に、女は子を生むために飼育して、産めなくなったら食ってやるわ!」


 思いっきり棍棒を横薙ぎに振るうオーク。これにジャックはこれまで多くの魔物を沈めてきた自慢の拳で応戦した。


「うおおおおおおおおお!」


 棍棒と拳がぶつかる。

 拮抗は一瞬。力負けして吹っ飛ばされたのはジャックだった。


「じゃ、ジャックさん!?」


「くそっ! なんてパワーだよ……! これまで腕力で負けたことはなかったってのに!」


「ふん! 家畜風情が俺様に力で勝てると思ったか! 死ね!」


 だがジャックは十分仕事を果たした。

 ジャックにとどめを刺すために棍棒を振り上げたオークキングに、すかさずオスカーが高速錬成する。作り出したのは無数の槍だ。だがこれにオスカーは持ってきた火薬を加え一手間かけることで、槍の切っ先に爆弾を追加する。敵に刺さると同時に爆発する爆裂槍だ。


「ぐわ、ぁあああああああ!」


 無数の槍が体に突き刺さると同時に爆発し、オークキングが苦悶の叫びをあげる。その大きな隙をヘイザは見逃さなかった。苦しむオークキングの体を駆け上がると、一太刀で首を刎ねた。

 首の付け根から血が噴出し、アーチを描く。

 如何にタフなオークキングといえど、首を刎ねられては死は免れない。オークキングの胴体は力をなくして倒れ込んだ。


「……さぁ、行くでござるよ。キクコ、女には特に不愉快なものがあるかもしれんが、僧侶のお主を帰らせる訳にはいかん。悪いが付き合ってもらうぞ」


「え?」


 険しい顔をしたヘイザがオークキングの骸を越えて先に進む。

 そこにはオスカーが求めていたものが本当にあった。

 古代文字の刻まれた石造りの門枠。門の間の空間からは淡い光がゆらゆらと揺らめいている。試しにヘイザが石を門の間に投げつけてみると、石は光の中に消えてしまった。


「おおおお! これが転移ゲートか! こうしちゃいられねえ!」


「あ、待て」


 制止の声も聞かずにオスカーが転移ゲートに突入する。

 この転移ゲートが本当に安全なものなのか本当なら入念な調査が必要なのに、オスカーは自ら人体実験の実験体を引き受けてしまった。

 仕方ないので暫く待っていると、五体満足のオスカーが再び転移ゲートの中から姿を現した。


「大発見だぞ! 本当に別の空間と繋がってる! ここじゃない別の森の中に出た!」


「そうか。では転移ゲートはそれでいいとして、こちらを片付けてしまうとしよう」


 そう言って転移ゲートの安置された部屋の隅にある、閂で閉ざされた扉の前に歩いていく。ヘイザが施錠を解除して扉を開けると、むわっとなんとも言えない悪臭と一緒に、噎せ返るような女の臭いが広がった。


「ご、ご主人! こ、これって……」


「い、いや……なんなんですか、なんなんですかこれは!」


 その部屋にいたのは全員、人間の女たちだった。全員が全裸で、所々が傷だらけで足や腕が折れたままくっついてしまっている者もいる。共通しているのは全員が死んだような目をしていて、生きているということだけだった。


「”牧場”でござるよ。ウスノロのオークは女を攫っても直ぐに死なせてしまうが、オークキングは高い知性故に女を長持ちさせる方法を心得ていて、しばしばこういうものを作る」


「―――――――――――」


 ジャックやキクコだけではなく、その光景にオスカーまでが絶句していた。転移ゲートという世紀の大発見をした感動など雲散霧消し、青白い顔で必死に吐きそうなのを堪えている。

 そんなオスカーにまだ正気を保っていた女性が、微かに目に光を取り戻して口を開く。


「あな……た……にんげん? ……たすけに、きてくれ、た?」


「あ、ああ! 人間だ! 俺たちは人間だ! オークキングはぶっ殺した! 助けに来たんだよ!」


 しどろもどろになりながら女性を落ち着かせるように声をかけ、毛布を錬成して体にかけてやるオスカー。


(どうやらダンジョンを出た後、もう一度脅しつける必要はなさそうだ)


 心の中で呟いたヘイザはまだ絶句したままのジャックとキクコに指示を出す。


「ジャックは一っ走り入口まで戻って、町長に事情を説明して男衆を貸してもらうでござる。キクコは彼女らに浄化と治癒をかけてやれ。オスカー、お前は他の者等へも毛布と担架を錬成するでござる」


「りょ、了解っす!」


「分かりました!」


「任せとけ!」


 こうして遺跡内に作られていたオークの牧場から女性たちを救出し、中にいたオークを駆除しきったことで依頼は完了となった。その後のことだが、


「結果的にはオークに捕まってた娘さんたちは、お前のお陰で助かったわけやし、それに免じて縛り首は勘弁したるわ」


 という町長の寛大な一言でオスカーは無罪放免となった。

 加えて転移ゲートの発見により、町には帝国本土などから大勢の研究者がやってきて滞在することになったので町おこしにも成功してしまった。

 もしかしたら今回の一件で一番の勝ち組は町長だったかもしれない。

 そして余談だが一年後にオスカーから結婚の報告が届くことになる。その結婚相手というのは、この日にオスカーが最初に毛布をかけて助けた女性だった。


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― 新着の感想 ―
どう考えても取り返しがつかない怪我も治るし汚物も簡単に浄化できるってやっぱ魔法はとんでもないな
ニーサン幸せになっとるやんけ
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