第37話 錬金術師とはなんぞや
「くっ……ばれちゃしょうがねえな。そうさ、俺がお前たちをだまくらかして遺跡を発掘させた張本人! 天才錬金術師のオスカー・メンデルス様とは俺のことさ!」
縄で縛り上げられた錬金術師は開き直ったのか、ふてぶてしく白状した。
これにカチンときたのは騙された張本人である町長である。
「おーし皆。このちっこい詐欺師を縛り首にするでー!」
「待て待て待て待て! あの遺跡には凄いもんが眠ってるんだって! それを半分やるからちゃらにしてくれって! な?」
笑顔でおっかないことを言う町長に、縛り首なんかされてはたまらないと慌てて錬金術師が命乞いを始める。そしてそれは町長に対しては効果はなかったが、冒険好きなキクコの琴線に触れた。
「凄いもの? なんなんですかそれは?」
「聞いて驚け。”転移”の魔法がかけられたゲートさ」
「転移!? 高速移動とかならまだしも空間の転移なんて、ただの魔法じゃ不可能なことだぞ! 本当にそんなものがあるのか!?」
父親のせいで魔法は使えないが魔法に関する知識はそこそこあるジャックが、信じられないと錬金術師を問い詰める。
ジャックの言う通り空間と空間を繋げる空間転移は、ただの魔法では再現不可能な奇跡だ。それが可能なのはソロモン大陸の聖七十二名家が伝える、術者の寿命を代価に発動する超魔法くらいだろう。
だが錬金術師は自信をもって頷く。
「知っての通り古代遺跡に眠る遺産の中には、現代魔法じゃ再現のできないマジックアイテムが多く発見されている。俺は別の遺跡の古代語を解析して、この村の地下に”転移ゲート”を隠した古代遺跡があることを突き止めたのさ」
それで町民たちに温泉があるなどと噓をついて、掘り起こさせたダンジョンに意気揚々と一人で乗り込んだのだろう。その途中でオークの群れに追い回され命からがら逃げだし今に至るというわけか。
「で、それがどうわいらの町の利益に繋がるんや?」
「て、転移ゲートがつ、繋がってる場所によるかな。あははは……」
「…………やっぱ縛り首にするか」
「!?」
「まあ待て町長。殺しても鬱憤が晴れるだけでなんの益にもならん。遺跡内に事態解決のため肉壁兼先導役として連れてって、死んだら死んだでそれで良し。生還できたら減刑ってことでいいのではござらんか? もし本当に転移のゲートなんてものがあれば、上手くすれば町の復興に利用できるかもしれぬし」
「ああ、それはええかもしれへんな」
ヘイザの提案に町長は納得したようだった。
町長の同意がとれたのでヘイザはオスカーの縄を切る。
「いやぁ助かったぜ! 丁度、俺一人じゃダンジョン攻略は難しいから冒険者を雇おうかと思ってたところなんだよ! これで――――」
「勘違いするなよ。もし転移ゲートが見つかったとしても、所有権は全て拙者たちにある。お前にはピタ一文やらんでござる」
「そ、そんなぁ~~~~!」
オスカーの抗議を無視すると、強引にダンジョンの中に引っ張っていく。
ダンジョンの暗闇はまるでヘイザ達を待ち構える怪物の顎のようであった。
ダンジョンに潜ってからオスカーは松明を持たされて、一番先頭を歩かされていた。最も危険な最前列は前衛職を置いて、魔法メインの後衛職は真ん中あたりに置くのが基本なのだが今回は例外である。
「ほら松明持ってさっさと歩け」
歩行ペースが遅くなってきたオスカーの肩を、ヘイザは刀の峰で叩く。
「待ってくれよ! もしもあの曲がり角に魔物が潜んでたらどうするんだよ!」
「死に物狂いで躱すか防げ」
「回避も防御もできず死んだらどう責任とってくれるんだ!?」
「お前なら死んでも構わんから、こういう扱いしてるんでござるよ」
「この人でなしが!」
「ははは、拙者が人でなしならお主は詐欺師でござろうが」
「ぐぬぬ……」
実際町長の適切な判断もあって死者は出なかったが、一歩間違ったら町民に多くの犠牲が出ていてもなんら不思議ではなかった。なのでオスカーも反論できず、ジャックとキクコもヘイザのオスカーに対する扱いになにかを言う事もなかった。
「そういえば聞いてもいいですか? 錬金術師って一体どういう職業なんです?」
おもむろにキクコが聞いてきた。
「えーと、糞オヤジ達の話を盗み聞いたところによれば、確か土属性の錬成に特化した魔法使い……とかだったと思うけど、どうなんっすかご主人?」
「うむ、では当事者に聞いてみよう。オスカー、説明してやれでござる」
「じゃかあしい! こっちはいつオークが出てくるかもって神経尖らせてるんだ! 雑談なんかできるか!」
顔を真っ赤にしながらオスカーは激高した。
流石にそんなオスカーに説明を強要するほどヘイザも鬼ではなかったので、面倒くさそうに溜息を吐きつつ口を開いた。
「ジャックの言う通り錬金術師というのは、土属性の基礎にして奥義とも呼ばれる錬成を極め”錬金”へ至る事を目指す魔法使い達の総称でござる」
「えーと錬成と錬金のなにが違うかよく分からないんですけど」
「まったく違う。錬成というのは既にある物質の形を、術者の望む形に変化させる魔法でござる。例えば地面にあるケイ素だの酸素だの鉄だので工具や武具を錬成することは可能でござる。だが金の槍や銀の盾を作ることはできん。だが錬金術は違う。錬金は既にある物質を、まったく別の物質へ変えてしまう魔法。石ころを黄金にすることも、水をワインにすることもできる」
「と、とんでもない魔法じゃないですか! そんな魔法が実在するんですか!」
「現代には存在しない。だが一次資料で実在が確定している錬金の使い手が過去に存在した故、錬金の魔法も実在するのは間違いない。だから魔法使いの中に錬金を現代に蘇らせるため、錬成の魔法を専門的に学ぶ一派が現れ、やがてその一派を錬金術師と呼称するようになったんでござる」
だから錬金術師とはいうが、彼等は錬金術を使える訳ではないのだ。なので一部の人間には錬成使いと揶揄する者もいる。
ヘイザの説明に最初に聞いたキクコのみならず、ジャックも得心がいったように、小さく顎を引いた。
「あれ? でもオスカーさんが入り口を塞いだ大穴を吹っ飛ばすのに爆弾を錬成してましたよね? どうやって錬成したんですか? 地面に爆弾の原材料があるわけでもないのに」
「……錬金術師は戦闘の時は色んな素材を常に持ち歩いているんだよ。そうすれば状況によって色んなものを錬成して対処できるだろう」
神経を尖らせている、と言いつつ会話を聞いていたらしいオスカーが答えた。
「でもそれにしては、軽装じゃないか?」
「うぐっ」
ジャックの指摘にオスカーは痛いところをつかれた顔をする。
「実はダンジョンに入る時に背負ってきてたリュックサックを、オークとの戦闘中にリュックのベルトが千切れて落っことしちまったんだよ」
「あぁ、それで逃げてきたんですか。でもよく爆弾を錬成する素材がありましたね」
「ジャケットの内ポケットにも緊急用の素材を常備してたからな」
そう言ってオスカーがジャケットの見返しを見せると、そこには大量の試験管が収納されていた。一つ一つに違う素材が入っている。これを使いダンジョンから生還してきたのだろう。
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