第36話 クエスチョン
ヘイザ達が依頼人のいるクーリッジ町に着いたのは昼頃のことだった。
ハデスの領域とも呼ばれる未開拓地と接する外地だった頃は、開拓の最前線として栄えたそうだが、未開拓地が順調に開拓され、内地となってからは衰退し人口の流出も進む一方だという。
その前情報がどうやら事実らしいということを、町の様子を見ながらヘイザが納得していると一人の男性が現れた。
「わいがこの町の町長のドラン・フィッシュや。アンタらが依頼を受けた冒険者で間違いないか?」
「ええ! 私たちがダンジョン攻略にきた冒険者です! パーティー名はまだ決まってませんけど」
いつになくやる気のキクコが前に出て言う。
「そうか、ようきてくれた。待っとったで」
「あの、いきなり質問なんですけど依頼書に遺跡を発掘したらダンジョン化したって話でしたけど、どうして町中でダンジョン発掘なんてしたんですか?」
ダンジョンは確かに冒険者にとっては宝島のようなものだ。ダンジョン攻略で巨万の富を手にした冒険者の武勇譚は数多く残されている。しかしそれは冒険者にとってはの話で、一般人にはそうではない。こんな町のど真ん中にダンジョンを掘り起こしなんてしたら、ダンジョンから溢れてきた魔物やらなにやらで人が住めなくなってしまう。
ダンジョンは掘り起こしさえしなければ無害なままなので、もし町中にダンジョンがあると分かっても放置する場合が殆どだ。
そんなジャックの当然の疑問に対して、町長のドランはぷるぷると肩を震わせながら怒りを露わにした。
「ちゃうんや! わいらは古代遺跡なんぞ発掘したくて発掘したんやない! ただ温泉を掘ってただけなんや!」
「お、温泉ですか?」
「そや! 町にきた錬金術師がこの地下に温泉が眠ってるって言うもんでな。温泉が湧けば観光客がどっと押し寄せて、内地になってから寂れた町も観光客がどっと押し寄せてがっぽがっぽと思うて、皆で協力して掘りに掘ったんや! そしたら……」
「出てきたのは温泉じゃなくてダンジョンで、魔物が溢れてきたと」
憎々しげにドランは首肯した。
「幸い湧き出てきたんは低級の魔物ばっかやったから、冒険者のわいが陣頭指揮をとって、町の若い衆となんとかしたんやけどな。不幸中の幸いかまだ犠牲者は出ておらんし、入口も一応デカい岩で塞いどる。だがいつもっと強い魔物が出てくるかと思うと、夜も安心して眠れへん。遺跡に眠ってるお宝とかどうでもいいから、さっさと元を潰して欲しいんや」
錬金術師の口八丁に騙されたことは兎も角、それ以降の対応は非常に適切なものばかりだ。どうやらドランは町長としてかなりのやり手のようである。この非常時に彼のような人間が町長だったのは幸いだっただろう。
「ところでその錬金術師はどこいったでござるか?」
「わいらに温泉が埋まってるって言ってから、それっきりや。もし見つけたら叩きのめしてやらにゃ気が済まんわ」
「本当に錬金術師だったんですか、その人?」
ジャックが疑問を挟むと、ドランは「ああ」と答えた。
「派手に錬成の魔法を見せてもろたし錬金術師ってのは嘘やないで。宿代代わりにって発掘用のショベルだのの工具だのを錬成していったし」
比較的理性的なドランが、錬金術師の言う事を信じてしまった理由が分かった。確かにわざわざ無償で工具まで錬成されたら、まさか嘘とは思わないだろう。
その時だった。町の南の方角から巨大な爆発音が轟いた。
「な、なんですかこの爆発音は!?」
「ダンジョンの方からや! まさか封印してたデカい岩になにかあったんじゃ……」
真っ青な顔で走り出すドランに続く。
するとドランの最悪の予想が当たったらしい。砕け散った岩の破片を踏みつけながら、ダンジョンからオークが数体這い出てきた。
「オークでござるな。ジャック、出番でござるよ」
「ったく、たまにはご主人も働いてくださいよ!」
グチグチ言いながら素早くジャックは、オークの顔面に高速で殺人パンチを抉り込んでいき殲滅する。ヘイザによってジャックはオーク討伐の依頼をよく受けているので、今や対オーク戦は慣れたものだった。
「さて。どうやら中々に面倒になってきたでござるな」
「入口が破壊されたからですか?」
「いいや」
キクコの答えに、ヘイザは首を横に振った。
「ジャック、クエスチョンワンでござる。オークは数ある魔物の中でも低級であるとされる。その理由は奴らが知能が低く、魔法の類も使えないからなのだが……そんな奴らが入口を封印していた岩を爆発させて、這い出るなんて芸当が可能だと思うか?」
「そりゃ、出来ないんじゃないですか?」
「正解でござる。次にキクコ、クエスチョンツーでござる。外側から大岩を爆発させた場合、岩の破片はどこへ飛び散る?」
「それはダンジョンの中に……あれ? でもこれってダンジョンの中じゃなくて、こっち側に散らばってますよ?」
「その上でクエスチョンでござる。犯人は一体どこの誰で、どこからどのようにして、どうして大岩を爆破なんてしたんでござろうか?」
フーダニット=誰が犯人か、ハウダニット=どうやって犯行を成し遂げたか、ホワイダニット=なぜ犯行に及んだか(動機)。ヘイザはミステリーにおける三焦点の全ての解答をジャックとキクコに訊ねた。
「ええと大岩の破片が外側に散らばったってことは、爆破はダンジョンの中から行われたっていうことですよね。普通に考えたらダンジョンから出ようとしたら、大岩に出口を塞がれてたから爆破したってことなんでしょうけど、でも誰がダンジョンに入ったりなんかしたんですか?」
「あ、それならあの錬金術師が怪しいんじゃねえかな! きっと錬金術師は、本当は町に埋まってるのがダンジョンだって知ってて、それを発掘させるために温泉なんて嘘を吐いたんだよ!」
「つまり爆破の犯人は錬金術師、動機はダンジョンから脱出するため、そして犯行方法は錬金術で爆弾を作ったから、です!」
「正解でござる」
そう言ってヘイザは落ちていた岩の破片を拾うと、物陰に投げつけた。すると無様な悲鳴があがりドサッと倒れる音がする。物陰に踏み入ったヘイザは、派手な服装をした眼鏡の優男の首根っこを掴んで引っ張り出してきた。
「畜生! 離せ! 俺はただの通りすがりだ!」
「あーっ! こいつやで! わいらにこの地下に温泉が埋まってると法螺を吹いたんは!」
喚き散らしていた錬金術師だったが、ドランの証言で観念したようにガクッと項垂れた。
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